インタビュー

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牧原世奈子 役 田中美奈子 さん

2016.01.22

これまでの撮影を振り返っていかかですか?
まずセリフの量が多いですよね。この枠ですと『幸せの時間』(2012年)に主演したとき、本当に大量のセリフをしゃべったんです。『これ以上、セリフの多い作品はないだろう』と思うくらい(笑)。ところが今回は…。最初、そこまでではないだろうと安心していたので、台本を読んで『ちょっと待って。これはどういうこと⁉』と焦ってしまいました(笑)。実際に撮影に入ったら、大変な役を引き受けたと実感しましたね。もともと台本を読んだとき、世奈子って妖艶な感じの、まさに“マダム”な女性かと思ったんです。ところが撮影初日、『もっとテキパキした感じでお願いします』と藤木監督からリクエストがあって。そこで役を組み立て直しましたが、セリフをまくしたてるように言うじゃないですか。それが本当に大変です。
セリフは、脚本を書かれている中島丈博先生らしい“丈博節”がさく裂していますよね。
例えば2時間もののサスペンスでセリフが多い場合、謎ときを説明するため、分かりやすい言葉でゆっくり話したりしますが、今回は違いますから。さらにドラマの中に“引っかかり”を作るため、あえて昔風な言い回しをしています。これはもう、頭に完璧に入れるしかなくて、撮影の行き帰りの車の中で、ひたすらブツブツつぶやいています(笑)。それも句読点を付けて覚えるのでなく、セリフ全部をノンストップで言えるようなイメージで。そこまでして頭に入れても、ときどきスコーンっと抜けてしまうので、四苦八苦しています。
世奈子は登場した当初から、強烈なキャラクターでした。
綱輝役の片岡(信和)くんから最初、『世奈子ママがきっと“ラスボス”になりますよ』と言われ、それは避けたいと思っていたんです(笑)。でも、そんな感じになってしまいましたね。この作品は姉妹の物語であり、舞台はあくまで小日向家がメイン。世奈子の人生はサブストーリーとして描かれていますが、台本を読んだ時点で、どう考えても幸せになれないと思ったんです。家政婦の平野を自分の駒のように扱い、ところどころで小日向家に関わってきましたが、どうせならテンションの高い演技をして、物語をかき乱していこう、と思っていました。そこを躊躇したら、おもしろい作品になりませんから。

世奈子の言動のひとつひとつが、本当にインパクトありました。
ちょっと濃くないですか? 世奈子がエキセントリックに見えたのは、眞澄との関係性もありますよね。眞澄は一貫して受け身で、世奈子にやられっ放しだったので。かずえ(伊藤さん)とは、世奈子と眞澄で髪のつかみ合いのようなバトルがあってもおもしろかったのにね、なんて話をしていたんですよ。
岡田(浩暉)さんにインタビューした際、「崑一は、心の中では世奈子のことを一番大切にしていたと思う」と語っていました。世奈子も同じでしょうか?
それは間違いなく、ずっと崑ちゃん(崑一)のことを愛していたんじゃないでしょうか。世奈子は崑一を嫌いになったわけでもなく、娘だって大切にしていたはずです。子供時代のぼたんを演じた古川凛ちゃんがとにかく可愛くて。あんな子を残して家を出なくてはいけないなんて、世奈子はよほど辛かったと思います。離婚はあくまで、姑のカオルコさんと合わなかったのが原因。世奈子とカオルコさんは水と油で、お互い全くソリが合わず、世奈子は家を出て行かざるを得なかったのでしょうね。
そのぼたんが成長後、眞澄との絆を強めた上、美輪子の事件に巻き込まれ、絶命。その後、“偽ぼたん”こと富貴子が登場したわけですが…。
世間の反応として、世奈子は何事に対してもいちいち大げさすぎるとの意見も多いようなんです。『でも、ちょっと待って』と私は言いたいですね。確かに世奈子は感情のままに生きて発言をしていますけど、誰でも世奈子の立場になったら、同じような行動を取ってしまうと思うんです。別に意地悪をしようとか、何かをしかけようとしているのでなく。

では、世奈子は富貴子や美輪子をどう思っているのでしょうか?
そもそも世奈子は、ぼたんの遺体を見ていません。黒こげになってしまい、見ないほうがいいと崑ちゃんに止められましたから。その時点で、世奈子はぼたんの死を受け入れられていない気がします。もし、自分が世奈子の立場だったらと考えましたが、私なら生きていられないと思う。だから、美輪子のことは憎いはずですよ。『本当ならぼたんでなく美輪子が…』との気持ちを抱いているでしょうから。でもそれは母親なら当然のこと。富貴子も彼女を見ていて、気分は良くないですよね。皆が彼女とぼたんを重ねて見ているわけだから。世奈子は富貴子と美輪子と、相当な苦しみや葛藤を抱え付き合っていると思います。
世奈子はあくまでぼたんと富貴子は似ていないと思っているのか、それとも内心では…?
似ていると思っていますね。だからこそ認めたくなくて、『あの偽ぼたんが! 冗談じゃない』と。それも娘を亡くし、傷ついた母親の心境として当然のことじゃないですか。
世奈子の言動はどれを取っても至極当然だ、と?
富貴子の実家のことを明らかにしたときも、自分から探ろうとしたのでなく、たまたま彼女の家の話が出て、不審に思って調べただけのこと。それを崑ちゃんに伝えたときも、何も嘘は言っていません。事実をありのままに伝えているだけ。私のブログでも、世奈子はそんなに変な人物でもないし、ましてや悪人でもありません、と何度もお伝えしています。ただ、感情的になり過ぎているだけのことで。冷静に見ると、意外と正しいことをしているのに、それが悪者っぽく思われてしまうなんて。世奈子にしてみれば怖い話ですよね。