高井アナの空言舌語

東海テレビアナウンサー高井一が、正しい日本語の読みや、謂れをご紹介します。

2007/8/3
百二十、
早口
 最近、早口で話す人が多くなったと感じています。アナウンサーのニュースの読みも、昭和の頃と比べるとずい分早くなったようです。同じ原稿でも経験30年の私が1分で読むニュースを、入社3年目や新人のアナウンサーは55秒で読みます。若い世代の話し方は確実に早くなっています。若者同士の会話を傍で聞いていると、日本語であることは分かっても意味が聞き取れないくらい早いことがあります。
  なぜ早口が聞き取りにくいかというと、早口になると母音が十分に発音されず、例えばテレビは「TeLeBi」と子音ばかりが目立つ発音になってしまうからです。こうした子音が目立つ状態を「鳥のさえずり」と表現した人がいました。ひとつひとつの単語の存在感が弱まり、話している意味が相手に十分に伝わりにくくなります。
  「愛してる」と告白しても、早口で「aiSiTeRu」になってしまったら思いは十分に伝わりません。実は毎日ニュースに登場する人に、母音不足・早口の典型の人がいるのです。それは安倍総理です。総理がインタビューに答えているのを聞くと、母音が少ない早口になる場面がよくあります。そういう時はやはり説得力を感じません。
  発音する時、子音と母音の強さ(=長さ)の割合は母音が6割は必要と言われています。アナウンサーは、この子音と母音のバランスがとれた発音になるよう訓練を積みますから、競馬実況のように早く喋ってもしっかり聞き取れるのです。
  初対面の人が早口でまくし立てると、相手はどんな印象を持つでしょうか。話の内容がどんなに素晴らしくても、「せっかち」「落ち着かない」「ゆとりがない」という印象になってしまいます。
  皆さんも自分の話す早さを自己診断してみて下さい。方法は簡単です。アナウンサーが政治など硬派のニュースを丁寧に読んでいる早さを基準にすれば、自分が早口かどうかの判断ができます。
 自分は早口だと思ったら、間を取って話すようにして下さい。全体にスピードダウンするのは結構難しいところがあります。間を取るにはセンテンスを短くすることです。文章にしたら句読点の多い話にするといいでしょう。スピーチや会議での発言など改まった場面では、相手の反応を確かめながら話すように心がければ、早口にならず落ち着いて穏やかな印象になります。