百九十九、
2010/12/24
御用納め
かつては年の暮れになると必ず「御用納め」という言葉が登場していました。それが今は「仕事納め」と言います。
「御用納め」は言うまでもなく、【官庁が一年の仕事を締めくくる】という意味です。官公庁の「御用納め」は12月28日、「御用始め」は1月4日と定められたのは明治6年ですから、まだ江戸時代の語感が残っていたのでしょう。民間企業でもこれに倣いました。
「御用」は本来【朝廷・幕府などの公用】ですから、役所の仕事は「お上の御用」ということになります。「御用」の背景にある「お上」という認識は随分時代がかっていて、権力におもねるような感じです。役人も会社員も共に「宮仕え」という心境で、年末になると「御用納め」を迎えていたのでしょう。
でも、時代と共に「お上」意識も変わり、「御用」ではいかにも大仰な感じがするため、徐々に「仕事納め」と言うようになった、と想像できます。
報道部のニュース原稿を「御用納め」で検索しても、この10年では該当はありませんでした。愛知県担当記者に調べてもらったら、「県庁は御用納めではなく、仕事納めと言います。いつからかは分かりません」とのことでした。
昭和40年代後半に入社した先輩に聞くと、「僕が入社した頃の役所は御用納めだった」とのこと。昭和50年代以降に「仕事納め」になったようです。
それでもカレンダーや手帳には今でも12月28日に「官庁ご用納め」「御用納め」などと書かれています。
証券取引所の年末年始は「大納会」「大発会」。師走に京都の芸子・舞妓さんが京舞の家元に「今年もよろしゅう」と挨拶する「事始め」。これらの言い方は昔から変わりません。変わらなかったのは背後に「お上」が存在していないからでしょうか。
年に一回しか使わない言葉でも、変わる言葉と変わらない言葉がある。ゆるやかであっても変わるものは変わる。言葉とは本当に面白いものです。