07 大熊啓誉さん(櫛山雄一役)

――うまく役に自分自身がリンクしました(笑)

 桜子と結婚したところで、「あまりに雄一が可哀想」とか「あれじゃあ、雄一があんまりだ」というように、雄一に対して好意的な意見をたくさんいただいたと伺い、「ありがたいことだ」と思っています。最初に台本を読んだときの僕の感想が「何だこの最低な野郎は!」でしたから(笑)。こんな奴、絶対視聴者の皆さんにも嫌われると思ったのに、どうも憎めないとか、悲哀を感じるとか思っていただけたなんて。僕も雄一ほどではないにしろ、女性のことでいろいろ悲惨な経験をしてきましたし、それがウマく役にリンクしたのかもしれないですね(笑)。雄一を演じるにあたり、どうせなら役と同じような状況に自分を追い込もうと合コンも控えまして(笑)、寂しい生活を送ってきましたが、言うなればロバート・デニーロが役のために髪を抜いたように、または三国連太郎さんが歯を抜いたように、僕も合コン断ちしたことが報われました(笑)。
 真面目な話、雄一は愛に飢えていますよね。だからこそのわがままな振る舞いだろうし、根は愛すべきおバカさんなんですけど、家庭環境に恵まれなかったんでしょう。そのために感情のコントロールができないし、気持ちの伝え方が分らない。そういう面では被害者だと思いました。実際、唯幸みたいな父親がいたら…。逆らおうとして格好をつけるか、卑屈になるしかないんですかね? 実は僕の父親の若いころの写真を見ると、唯幸に扮した神保さんがそっくりなんですよ。神保さんに伝えたら、「うれしいな~」って言ってくださいましたが、それもこの役を演じる上で非常に役に立ちました。

――作家、演出家として学べるところばかり

「さくら心中」は僕にとって連ドラ出演2作目になりますが、本当にためになること、勉強になることの連続です。僕は自分でコントの作・演出もしていますが、舞台は当然アップなんてないですよね。そこでまるでお客さんに表情をアップで見ているかのような印象を与えるにはどうすればいいのか、なんて考えるんです。そういうドラマと舞台の差もあるし、最初はホンマにシリアスに雄一を演じようと思ったんです。ところが、桜子の家に招待され、出来たてほやほやの新酒をふるまわれたところで、うまいと言うシーンがありましたが、リアルな芝居をしたところ、監督からもっとテンションを上げてと言われまして。放送をご覧になった方はお分かりだと思いますが、結局、雄叫ぶように「ウマい!」と言ってました(笑)。最初はどこまでやればいいのか手探り状態でしたが、「スケベでよだれをたらすように演じて」とリクエストをいただいたときに、完全にふっきれましたね(笑)。

 舞台の作と演出、という話をさっきもしましたが、まず書き手としては、中島(丈博)先生の“振り切り方”の絶妙さに驚きました。それこそコントや漫画にならないところまでのギリギリの振り切りなんですよ。だから雄一も「こんな奴、自分の周りにはいないけれど、もしかしたらおるかもしれんな」と思わせるし、共感もしてもらえます。キャラクターの描き方も、ところどころでお人好しなところがにじんでいたんですよ。僕も気に入った女の子に「今度食事でも」なんてメールしては、何度も何度も信じられないような理由で断られているんです。そのつど「なんやコイツは。もうメアド消したる!」って思うんですけど、ギリギリのところでこれが消せないんですよね(笑)。「ホンマに最近、大変なんやろな」なんて信じてしまって。そういうところって、雄一の人の好いところとまさに一緒。変なキャラクターなのに共感してもらえるってすごいことですよね。中島先生のように、それだけの人物造けいが出来て、さらにそれを文章にする力があったら、とても楽しいと思います。とは言え、これだけの作品を生み出すご苦労は想像を絶するものがありますが。演出の面では、星田良子監督、皆川智之監督のおっしゃったことで、印象的な言葉は全部自分のものにしています。先日も「芝居は流しちゃダメ、絶対」とこの現場で言われましたが、まさに自分の言葉のように後輩に使わせていただきましたから(笑)。あと星田監督は周りからものすごく撮影が早い、と聞いていたんです。僕もかなりせっかちなので、星田監督のテンポの良さがすごく合っているんですね。テンションを上げなければ雄一は演じられませんが、ポンポン撮影が進むから、高いテンションを持続できるんです。雄一が視聴者の皆さんに好意的に受け入れられたのは、スピーディーな撮影のおかげもあるかもしれません。

――諦めの40代

 雄一が40代になったところからのテーマは“諦め”です。自分の人生の先が見てきて、もうこれ以上のことはないやろうな、と思いながら生きている男の悲哀を少しでも表現したいですね。どこかで一発逆転を狙いながら、「それも無理やろな」と思っているような(笑)。雄一のそういう面を演じるのは楽しいですけど、前半のように激しくて長いセリフもせっかくなんで時々あるとうれしいですね。テンションも上がりますし。

ページ先頭に戻る