東海テレビ

悪い犬 悪い犬
  • 2015年、名古屋市の住宅からドーベルマンが逃げ出し、通行人などに噛みつきケガをさせた。犬は4歳のオスで、事件後に動物愛護センターの職員に捕獲され、殺処分のガス室送りされるはずだった。しかし、殺処分の寸前に救済の手を挙げた人がいた。犬のしつけ教室をしている訓練士・高橋忍さん。今は更生の努力を続ける“悪い犬”と訓練士の日々、そこから見える社会の姿を描く。
  • 出演者:高橋忍
  • 制作著作:東海テレビ

プロデューサーより

 たくさんのご意見、ご感想、ありがとうございました。このサイトだけでも、100通を超えるメールを頂きました。今後の番組制作の参考にさせていただきます。また、頂いたメールは概ねそのまま載せましたので、隣人が、何を考えているか感じてもらえたら幸いです。
 ドキュメンタリーを制作・放送する時に、大切に思っていることを書きます。世の中には多様な考え方があり、それらを認め合うことだと思います。現代は、異質なものを激しく排除し、不寛容の時代だと言われますが、私たちは豊かな言論空間を作り上げていくことを心掛けたいと思っています。今回の番組に込めたメッセージも、そうしたことを根っ子に結実させたものです。
 このドキュメンタリーには、およそ2年という歳月がかかりました。ある時は毎日のようにスタッフが取材に行き、「ヒカル」を見守り続けました。時間と労力をかけたことで、ようやく言えることが盛り込まれていると直感した方もいました。日常を記録するということは、取材対象にとっても煩わしいことですが、高橋さんはそれを受け容れてくれました。取材スタッフは、「殺処分ゼロ」という大目標に向かっていく高橋さんの日々をつぶさに見ることになりました。その日常は凸凹だったようで、取材スタッフは様々な感情の揺らめきを感じ、優しさと厳しさの二つの視線を持って見続けることになりました。人間は多面体ですから、良いところも悪いところもあるものです。
 ご意見の中で、一番多かったのが、「悪い犬」というタイトルについてです。「悪い人間」じゃないかと別のタイトル案まで書き込まれていました。タイトルを入り口に考えてもらうのはありがたいのですが、制作者にとってタイトルは番組の命であり、番組は自分の子どものようなものです。制作スタッフも生身の人間ですから、感情もあります。その一言で、傷つき、悲しい気持ちになることもあるのです。思ったり考えたりするのは自由ですが、意見を表明する時は、その向こう側には人間がいることを少し立ち止まって考えてみてほしいと思います。このタイトル論議の中で、反語的な表現で深い意味があると読み取った方もいました。そうです。「あなたって、悪い人ねぇ~」と言われて、本気で怒る人はいないですよね。言葉の海は広く、そして深いと思います。こういう時、「深いところまで届いている…」と実感する意見に出会うと、制作者は喜び、満たされるものです。
 最後にもう一つ、番組すべてを、今すぐ全部分かる必要はないと思っています。分かりやすいのが一番大事・絶対だとも思っていません。何でもすぐに分かってしまったら、つまらなくないでしょうか。何か、引っかかるのだけど、何だか分からない。で、分からないままで、置いておく…。ある日、思い出して「ああ、あれは、そういう意味だったのか…」と胸に落ちたりする。そういうことがあってもいいと思うのです。分からないで置いておく力…。ドキュメンタリーを通じて、豊かなコミュニケーションがとれるように、これからもがんばっていきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします。

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