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INTERVIEW

北園由布子役 斉藤由貴さん

ヒロイン・ひかり(渡辺麻友さん)の母親、由布子は息子の事件や夫の死など、辛い出来事の連続で精神を病んでしまった女性。斉藤由貴さんは何気ない佇まいにも、ときに凄みを見せ、由布子が日々をどう過ごしているのか演じています。その演技は、役として生きているというほかありません。しかし、斉藤さんの演技に対する向き合い方は予想外のものでした。

斉藤さんはこの作品のどんなところが気に入っていますか?
第1話をテレビでも拝見しました。撮影現場のモニターで見ていたものより、さらに画面が冷たいというか、硬質な感じがしたんです。最近のドラマにはないテイストで、物語に異質な彩りを添えていて、素敵でした。
ひかりは兄・國彦(桐山さん)のことや由布子のことで悩みが尽きません。ひかりの状況をどう思いますか?
もちろん辛いと思います。ただ、私は(渡辺)麻友さんが演じているところを間近で見ていて、彼女は本質的なところで強さを持っている人だと思うんです。麻友さん自身の強さがあれば、ひかりがどんなに大変な状況に追い込まれても、決して悲壮感が漂うことはないと思うので、企画としてよく練られているし、主人公のキャラクターと演じる人の個性が見事にマッチしていておもしろい効果を生み出しているな、と感じています。

キャストと役が合うというのは、作品にとってプラスだということでしょうか?
もちろん。お芝居で別の人間を生きるとき、そこに演じる役者の生身の部分が加わります。よく“役に成りきる”なんて言いますけど、私は演技に関して、そういう言い方は信用していません。あくまで“演じている”だと思っているので。役者の個性と役柄が合わさって何が生まれるのか、予想できない未知数の部分が面白いんです。
斉藤さんは、その役に憑依するかのように演じているのかと思っていました。
私が大切にしているのは斉藤由貴としてその役の感情をどう動かせばいいのか、エネルギーをどう発すればいいのか、ということ。その作業が“憑依している”と思っていただけたのかもしれないですね。

由布子の愛情表現のもどかしさに感情を込め、爆発させたい

由布子を演じる上で、斉藤さんが“エネルギー”にしているのはどんなところでしょうか?
まずは子どもたちに対する無償の、至上の愛情です。ひかりのことも、國彦のこともかけがえのない存在だというのが、根元にあります。ただし、あまりに辛い出来事が起きてしまい、感情表現や愛情表現の回路が壊れてしまいました。それゆえに子どもたちへの愛情をうまく伝えることができず、歯車が狂ってしまったのがいまの由布子です。愛情はあふれんばかりだし、示したいという気持ちも常にあります。
私が由布子のどこに感情の発露を持っているのかといえば、彼女の愛情表現のもどかしさです。そこに感情を込め、爆発させたいと思っています。
母としての愛情は理解できますか?
実際の私は…。由布子よりもっともっと、子どもたちへの愛情表現が下手かもしれないです(笑)。
ひかりや由布子のように、辛いことを背負って生きている人も実際いると思います。できれば、乗り越えたいものですが…。
そうあってほしいです。一方で、実際はそんな夢物語ばかりでない、という意見もあるかもしれません。でもテレビドラマというエンターテインメントとしては、視聴者の皆さんに光や救いというものを、ほんのひとかけらでも提示したい。それがテレビでお芝居をする者としての使命なのではないか、と思っています。だから由布子にはこれからも大変なこと、辛いことが待っているかもしれません。それでも立ち直れないまま終わってほしくないです。理想論かもしれませんが、由布子なりに愛することの素晴らしさを伝えたいです。

物語はここから中盤に突入します。由布子たち母娘の見どころをお聞かせください。
ひかりが苦しみながら、どう成長していくのか。その心の変わりように由布子は大きく関わっていきます。ひかりって、基本的に人を信じていないと思います。だからこそ、人の心の奥底にある本音に敏感。本当は何を考えているのか、察知します。由布子は“コミュ障”ですけど(笑)、気持ちに偽りはないし、言葉を超えて響くものがあるから、ひかりはきっとそばを離れないのだと思います。由布子はそれをよすがにして娘にすがっていますけど、この母娘の切っても切れない絆がどうなっていくのかご覧下さい。
ひかりは由布子を持て余しています。でも、由布子がいるからこそ生きていられるのかもしれないですね。
実際の社会の中でもありますよね。まったくもって手に余る、手のかかる存在が、実際は自分が生きる意義になっていることって。そういう存在がいるから立ち続けられる。往々にしてあることじゃないでしょうか。

女優とて“裏の顔”があるのは悪いことではないです

ひかり役の渡辺さんとはドラマ初共演になります。印象をお聞かせください。
これは悪い意味で言っているのではなくて、渡辺さんには“裏の顔”があると思います。それは表に出さない心の奥底で、いろんな感情があるということ。様々なことを考えているということです。疑問、葛藤、悩み、苦しみ…。もしかしたら、アイドルをやってきたから、他の人より多く抱えているかもしれないです。でも、そういう気持ちは女優をする上で武器になるんです。渡辺さんは女優として歩み始めたばかりで、自分の中でまごついたり、おぼつかなかったりすることもあるかもしれません。そういうときでも周りの人をたくさん見て、鍛錬して、自分を磨いて、表現のしかたやお芝居を学び、自分の中にあるマグマを演技に乗せて発信できる女優さんになっていってほしいです。
いまおっしゃったのは、斉藤さん自身が歩んできた道でもありますか?
私も以前からいびつな人間でしたから。いまもですけど(笑)。でも一言で言うなら、劣等感みたいなものが自分を支えて、ここまでやってこれたのかもしれないですね。