百七十三、
2009/11/27
至上命題
国の予算の事業仕分けが注目されています。これに関する新聞記事に、「予算の年内編成は鳩山首相の至上命題」という表現がありました。
この「至上命題」という言葉、いつの頃から見聞きするようになりました。政治や経済の分野でよく出現している印象があります。しかし、本来は辞書にはない言葉です。フジテレビ系列の放送用語の会議でも「昔からある『至上命令』との混同から生まれた表現」と判断しています。
もともと「命題」は論理学の用語で、「AはBで
ある」のように【判断を言葉にあらわした文】のことです。
実際の「至上命題」の使われ方を見ると、文脈から「重要使命」とか「最優先課題」という意味であると読み取れます。この場合の「命題」は「使命+課題」をイメージしていると解釈できます。これは新しい意味でしょうか。
手元の辞書では、論理学用語としての「命題」の他に、【課せられた問題】という解釈を載せていたのは新明解・明鏡の二つ。日本語大辞典・大辞林・広辞苑・角川必携・三省堂国語にはありませんでした。
また、どの辞書も「至上」の用例としてあげているのは「―命令」だけで、命題との組合せはありません。「命令」と「命題」が音が似ていることから、新たに「至上命題」も使われ始めたかも知れません。
「至上命題」を好んで使う人は、「最優先課題」より迫力があるとか、最上級の課題が「至上命題」であると位置付けている、とも受け取れます。
こうした新しい言葉を使う人は、いろんな場面で多用する傾向があります。言葉には、誤用は広まりやすいという傾向もあります。本来は存在しない「至上命題」もメディアに登場する度に定着し、他の辞書にも採用されるのでしょうか。