海を守る海上保安庁の巡視船の乗組員が食べているカレー。船ごとにオリジナルのカレーがあり、その秘伝のレシピがインターネットで公開され、人気投票が行われました。

 家庭でも試せる様々な“海保カレー”に注目が集まっています。

■船内の台所狭くても味は本格派!

 スパイシーな香りが食欲をそそるカレーライス。日本に伝わって100年あまり、今や老若男女が愛する国民食です。このカレーを巡って、“海の男”たちによるアツ~い戦いが行われました。

<海保とっておきの絶品カレーをご紹介>と、愛知と三重の海を守る第四管区海上保安本部が今年9月、初めて公式サイトで公開した海保秘伝のカレーレシピ。

 真っ黒なルーが特徴の「イカ墨シーフードカレー」や、色とりどりの「夏野菜のカレー」など管内に所属する9隻のオリジナル海保カレーが楽しめます。

第四管区海上保安本部・紙本全士総務課長:
「海上保安業務の理解、興味を抱いていただききたく企画を実施しました」

 そして、公開したレシピでは一般の人たちによる人気投票も実施!

 取材班は一路、海保カレー初代チャンピオンを目指している、巡視艇の調理師さんのもとへ…。

 三重県にある四日市海上保安本部。海上での火事にも対応できるよう消火機能が備わった珍しい巡視艇「あおたき」です。

乗組員:
「ホース位置前~イチニ!イチニ!」

 訓練に励む乗組員たち…すると1人の男性が離れていきます。訓練を途中で抜けたのは入庁5年目の北村勇気さん、28歳。

 北村さん、実はこの船の“調理師”。訓練をこなしながら、船内にあるキッチンで乗組員たちの食事も作ります。奥さんに借りてきたというエプロンも身につけ、仕込みを始めました。

 キッチンはわずか2畳の広さ、冷蔵庫やコンロもあるので、実際に動けるスペースはその半分以下です。

あおたき 主計士補・北村さん:
「僕も最初、ここに来たときびっくりしましたもん。こんなに狭いのかって」

 この日の昼食は、コンテストにも出した「キーマカレー」。材料は人参、玉ねぎ、ひき肉と、いたってシンプルです。

北村さん:
「キーマカレーの時は、食感を残したいので、割と粗目に切っているんですよ」

 市販のカレールーを細かく刻み、具材と混ぜ合わせます。今回、北村さんにはコンテストで負けられない理由もありました。

北村さん:
「僕が好きだから、キーマカレー。奥さんがちょいちょい作ってくれたりもするんですよ」

 実はこのキーマカレー、今年9月に結婚したばかりの妻・沙耶さんの手料理を参考にしたもの。隠し味はインスタントコーヒーです。

 そして調理開始から1時間、10人分のカレーが完成!新婚夫婦の愛が詰まったキーマカレーです。水分を飛ばし、ゴロゴロっとした大粒の玉ねぎとにんじん。カレーの旨味を凝縮した荒目のひき肉で、訓練を終えた乗組員たちにも食べ応えのある逸品です。

乗組員:
「おいしいです!」

別の乗組員:
「カレーの時はなんかいつも食べ過ぎちゃうよね」

北村さん:
「愛で皆さんのお腹をいっぱいにしているので…愛の力で1位を取れると思います」

 ちなみにカレーライスは、海保では長期の航海の最後の日に食べる定番メニュー。

乗組員:
「出航してから大型船はずっと沖にいて、10日ぶりに帰ってくるとお昼がカレーになって夕方家に帰れる」

女性乗組員:
「カレー食べたら、うれしい!っていう感じになります」

 でも、いつから、なぜ、食べられるようになったんでしょうか?

北村さん:「全然知らないです」

女性乗組員:「知りません…」

 カレーといえば、横須賀海軍カレーや呉海自カレーも有名です。海保以外でも、海で働く人たちと結びつきが強いカレー。海上自衛隊にその歴史を聞いてみました。

(電話インタビュー)
防衛省海上幕僚監部・堀田浩美さん:
「帝国海軍が創立されたのが明治初頭で、海軍兵が慢性的な栄養不足になり、“かっけ”に悩まされていたということがあります。寒さと暑さへの適応力の向上、新陳代謝の促進、そういった健康効果が期待できるため、イギリス方式のカレーが導入されたと言われています」

 堀田さんによると「栄養豊富」で「大量調理が簡単」、そして「美味しい」と、3拍子揃ったイギリス式のカレーを帝国海軍が明治初頭に導入したのがきっかけ。

 そして戦後、海上保安庁や海上自衛隊が設立された時、旧帝国海軍の職員もいたため、カレーを食べる慣習が広まったのではないかとされています。

■“海猿”も太鼓判のスープカレー

 愛知県の中部国際空港にある中部空港海上保安航空基地。

 カレーは救難救助のスペシャリスト「海猿」たちの胃袋も掴んでいます。彼らが訓練を続ける中、基地に所属する巡視艇「いせゆき」のキッチンでは、お昼ご飯の調理中。担当は入庁10年目の中島大介さん、30歳です。

いせゆき 主計士補・中島さん:
「今日はチキンストック(鶏がら)を使ったスープカレーを作ります」

 中島さん一番のこだわりは、鶏がらのスープ。

中島さん:
「材料は鶏がら、2羽分、今回10時間ほど煮込んでいます」

 鶏がらスープをベースに、カレーの味付けも中島さんオリジナルです。クミン、コリアンダー、ターメリックなど6種類のスパイスを調合。

中島さん:
「市販のカレールーは油分が多くなってきます。船の乗組員、いせゆきの方は健康志向派が多いので、なるべく油を使わないように作っています」

 午前11時半、訓練を終えた海猿たちが船に戻ってきました。

乗組員:
「あれ、なんか今日は手の込んだものを作ってるね」
中島さん:「いや、いつもですね(笑)」

中島さん:
「主計課(調理師)はこの船だと一人だけなので、みんな気を遣って調子はどうとか、様子を見に来てくれて相談に乗ってくれたりとか、ああいう感じでいじってもらったりします」

 仕上げのスパイスを加えて完成。黄金色に輝く中島さんオリジナルのチキンスープカレーです。

 10時間煮込んだ鶏がらスープとオリジナルスパイスが、醸し出すハーモニー!油は控えめ、乗組員の健康を思ってこそです。

中島さん:
「できれば1位を取りたいですけど、いいところまで行けたらいいなって思っています」

■1位の海保カレー、そのお味は…

 果たして、結果はいかに…?今回、コンテストを企画した第四管区海上保安本部の紙本課長に教えてもらいました。

紙本課長:
「1位のカレーは……『南国ビーフカレー』に決定しました」

 見事、初代チャンピオンに輝いたのは、鳥羽海上保安部・巡視艇しまなみの「南国ビーフカレー」!残念ながら、北村さん、中島さんのカレーは1位になれず…。

「南国ビーフカレー」はパイナップルをくりぬいた器にたっぷり盛ったゴロゴロのビーフが入ったカレーと、ライスは彩り鮮やかなサフランライス。何ともトロピカルな雰囲気です。

 作り方は、半分のパイナップルを取り出し、ミキサーにかけ、牛肉を柔らかくするため、1時間漬け込みます。飴色になるまで炒めた玉ねぎに、トマトやオリジナルのカレー粉などを混ぜ合わせ、そこに焼いた牛肉とパイナップルの果汁を投入。弱火で分煮込めば完成です。

 レシピ通りにつくった「南国ビーフカレー」。週2回食べるほどカレー好きな東海テレビ・高井一キャスターが試食すると…?

高井キャスター:
「見た目のインパクトは『訓練航海で赤道越えました』みたいな、そんな遠洋航海みたいな雰囲気ですよね。(カレー食べて…)うん、ゴロゴロとした肉が入っていて、しかも肉が柔らかい。複雑な味、ちょっぴり酸味を感じるんですよ。スパイシーでピリ辛っていうのだけがカレーじゃなくて、カレーの本当の醍醐味って味の複雑さにあると思うんですよ」

 そう『海保カレー』についてアツく語った高井キャスター。そのアツさは、カレーを通じて海保の皆さんの仕事に対する熱意が伝わったかのようでした…。