■動物園の“広報”のお仕事とは…

 いまや全国区の大スター“イケメンゴリラ”のシャバーニに、“おっさん”みたいな鳴き声でのし上がった、フクロテナガザルのケイジくん。

 家族連れでにぎわう、紅葉シーズン真っ盛りの名古屋市の東山動物園。入園者数は全国2位です。その大勢の入園者の中で、一眼レフカメラを手に動物たちの写真を撮る1人の女性。動物園を陰で支える、広報の早川理英さんです。そのお仕事は…?

早川さん:
「アクシスジカはこの時期、オスの角が一番立派に生えていて、是非来て下さいねというのを書こうかなと思っています」

 そう、東山動物園の魅力を発信すること。事務所に戻ると、この日撮った写真をブログに次々アップしています。

<ブログの内容>
「紅葉するとこんな感じで撮れます!日々移り行く秋の東山動植物園を、ぜひお楽しみください」

 仕事はこれだけではありません。向かったのは、園内の売店。

早川さん:
「あっ、すいません、おつかれさまです!この前ブログ書いてもらってありがとうございました。9月のウェブサイトの閲覧数が出たので持ってきました。結構良くて、これですね、ロバート秋山さんとのコラボ」

 責任者に報告したのはブログの閲覧数。早川さんはブログやツイッターのアクセス数を見ていて売店とその情報を共有しています。

 シャバーニと、お笑い芸人のロバート秋山さんの「体モノマネ」がコラボしたTシャツ。そのブログ閲覧数が多かったため、また書いてもらうよう依頼しました。

早川さん:
「ブログに書いてもらったTシャツはどうですか?」

売店の責任者:
「Tシャツはもう反響がすごくて、お店に買いに来てくれるお客さんはもちろんなんですけど、他県からも問い合わせがすごく多くて驚いてます」

 早川さんたちが、ブログやツイッターを重視する理由。実は、シャバーニも、ケイジ君も、全国的なスターになったのは“SNS”での拡散がきっかけだったんです。

早川さん:
「(ケイジ君は)全国放送で取り上げて頂いたということがあって、東山動物園のと客層とは違う方にも知っていただけて、そういう世代がツイッターとかで発信してくれて爆発的に火がつきました。普段は8時とか9時に一番アクセス数が多いんですけど、わりと夜遅い番組で取り上げられて午前0時過ぎからすごくアクセスが伸びていて、これはチャンスかもしれないと」

 ブログやツイッターのアクセス数から、いま人気の動物を把握し、さらに東山動物園のPRに生かそうとしています。

 そんな早川さんのイチオシは、カナダヤマアラシ。北アメリカに暮らすネズミの仲間です。

早川さん:
「エサは結構選り好みして食べるんですよ。たまにペッて捨てるので、ダメだよって思うんですけど、そこもかわいいんです。この子たちのツイッターはほとんど私があげてます」

 もちろん、広報の仕事はSNS対策だけではありません。早川さんが今気にかけているのはチンパンジー。2017年10月に生まれた双子の赤ちゃん、コエとカランです。

 今年9月には、展示施設の改装によりシャバーニの隣にお引越し。しかし、シャバーニばかりに人が集まり、コエとカランの前にはなかなか人が集まりません。

子ども:
「(Q.今日は見たかった動物は?)ライオン!」

別の子ども:
「(Q.名前を知ってる動物は?)シャバーニ。
(Q.チンパンジーのカランとコエは?)知らなかった」

 子どもたちの知名度もイマイチ。そこで計画したのが、カランとコエの、1歳のお誕生日会です。

 準備したのは、誕生日ケーキ。レタスやトマトなどに、巨峰やカキなど季節のフルーツものせ、中央には2頭の似顔絵が描かれた手作りです。

早川さん:
「みなさんに写真とかとってもらえるといいなと思ってます」

 早川さんの狙い通り、みんな写真を撮りに集まってきました。そして始まったお誕生日会。お客さんとバースデーソングを歌い、反応は上々。

参加した父親:
「元気に育ってほしいし、もっと人気が出てほしいなと思います」

(Q.動物園の広報の仕事を知っていましたか?)そういう仕事があるって知らなかったです。素敵なケーキでかわいかったです」

子どもたちからもかわいいの声が飛び交いました。

早川さん:
「今日この誕生日会で知ったという方もたくさんいると思うので、誕生日会を通してよりみなさんに知っていただけてよかったと思います。楽しい思い出を持ち帰ってもらうのが一番の広報だと思うので、来てくれた人に楽しんでいただくことを大切に、情報を発信していきたいなと思います」

■「変わった」東山動物園

 1937年に開園した東山動物園。動植物園の入園者は1969年の339万人をピークに、2005年には165万人まで減少。しかし、スター動物が誕生すると80周年の2017年は260万人まで回復しました。

来園者の男性:
「設備が新しくなってより見やすくなったかなと」

同・女性:
「(昔は)あまりきれいじゃなくて、食べるところもあまりなくて。新しく変わったら『ちょっと天気がいいから来ようか?』みたいな」

 訪れる人たちも「変わった」と話す動物園の雰囲気。実は、東山動物園は見る人たちだけではなく、動物たちにも配慮する施設づくりを進めていました。

 チンパンジーの双子、カランとコエの誕生日会で司会をしていた飼育員の近藤裕治さんは、9月に完成したチンパンジー舎のデザインを担当しました。

近藤さん:
「あれがアリ塚ですね、岩みたいなやつ。現地のアリ塚を見た人がいたら非常に似ていると思われるはずです」

 近藤さんはチンパンジーの故郷、アフリカのタンザニアを10日間視察。野生のチンパンジーが暮らす森に入り、自然の中で暮らす様子や、付近の植物や土の色を調べました。新居をできるだけ故郷の環境に近づけるためです。

近藤さん:
「排気ダクトも木の株をイメージした色で、現地の林をイメージして木と木をロープでつなげて高い位置を横に動く行動を引き出すために、こうやってつなげました」

 本物そっくりに作られたアリ塚、再現されたのは見た目だけではありません。もともと、木の棒で穴をつつき、棒の先についたアリを食べる習性があるチンパンジー。この野生の行動を引き出すため、アリ塚の裏は空洞になっていて、中には、エサになるヨーグルトなどを置いています。

近藤さん:
「例えば(エサを)やらない日もありますし、ペットボトルをつける位置を変えたりして、そうすると『探す』という行動が引き出されるんです。『あれ?今日はないな?ああ、ここにあった!』とか」

 こうすることで、チンパンジーは野生に近い環境で過ごせるうえ、来園者も、より自然な姿を見ることができます。

■新たな“もふもふ”が仲間に

 進化し続ける、東山動物園。2020年には新しい仲間も加わります。現在、ライオン舎の隣で工事が行われている場所では…

整備担当・戸子台さん:
「アジアの高地エリアというエリアで、今工事をやっているのが、レッサーパンダの新しい獣舎です」

 やってくるのはレッサーパンダ。つぶらな瞳と、ふわふわの毛、さらにしましまの太いしっぽが自慢です。中国やネパールに住む人気者。2020年、4頭が仲間入りする予定で、遊ぶための運動場や寝室が準備されています。

戸子台さん:
「来ていただいたお客さんに楽しんでいただくのは当然なんですけど、それだけではなく暮らす動物たちが出来る限り幸せに暮らせるように、動物たちにも優しい施設整備を心がけたいと思っています」

 入園者数のアップだけでなく、動物にもやさしい環境づくり。東山動物園の挑戦は、これからも続きます。