名古屋市に住む40代の女性の携帯電話に見知らぬ番号から電話がかかってきたのは、3月中旬の昼前のことだった。

 仕事中だった女性が電話に出ると、年配に聞こえる男の声で、郵便局員を名乗ったという。

 しかし、その内容は全く不可解だった。

男:
「書留をお届けに参りました、本人確認のために住所と名前を言ってください」

 男がまくし立てるように話すため、よく何を言っているのか聞き取りにくかったうえに、いきなり住所と名前を聞かれた女性。

 始めは特に不審に思っていなかったが、誰からの何の書留かが気になり、男に聞くと…。

女性:
「誰から届いているんですか?」

男:
「携帯電話の会社からです」

女性:
「物は何ですか?」

男:
「9600のポイントです」

女性:
「何のポイントですか」

男:
「携帯電話を買った時や、通話の時に使えるポイントです」

 男は「書留」で「携帯電話のポイント」を届けに来たという。9600ポイントといえばかなりのポイントだが、それが郵送されるという話は聞いたことがない。

 女性は、後で郵便局に取りに行こうと思い、不在通知をポストに入れておくよう男に頼んだが、これまた不可解な返事が…。

男:
「間違えて他の家に入れるといけないので、相手に返送します」

 その後も名前や住所を教えるよう繰り返してきた男。さすがに女性も不審に思い、所属の郵便局と男の名前を尋ねたが、「日本郵便」、「課長」と、あいまいな返答を繰り返した。

 送付主の携帯電話会社の名前を聞いても、「ドコモ、ソフトバンク、au、いろいろありますから」と答えになっていない答えを続けた男。その間にも「9600ポイント」という高額のポイントを何度もちらつかせたり、個人情報を教えないなら送り主に返送する、と女性を焦らせることを言い続けたという。

 しかし、女性は個人情報を教えず、その郵便物を「いつから保管しているのか」と聞くと、男は「もういいです、先方に返します」とぶっきらぼうに話し、電話を切った。

 およそ3分にわたり、男はあの手この手で個人情報を聞き出そうとした男の目的は結局、わからなかった。

 電話が切れたあと、女性は携帯電話会社にポイントを書留で送るケースがあるのかを確認したが、「ポイントカードを送ることはあるが、書留で送ることはない」と告げられたという。

 女性の着信履歴に残っていた080で始まる電話番号に、記者がかけてみたが「電源が入っていないか電波の届かないところにあるためかかりません」という聞き慣れたメッセージが流れてきた。

 個人情報を教えることなく女性が電話を切ったため、男の目的はわからないままだが、愛知県警によると、例えばこうしたものが考えられるという。

①特殊詐欺の名簿を作る
②強盗に入る前のいわゆる「アポ電」
③ネットバンキングの口座を作る

 名前や住所などを聞く不審な電話は、愛知県でも年末から2月にかけ、10件が確認されたという。

 愛知県警生活安全部生活安全総務課は、「今回の女性のケースも、一度電話を切って、携帯電話会社に確認したことで被害を防ぐことができたと思います。不審な相手に対しては、個人情報は絶対に言ってはなりません。どうしても気になる人は一度電話を切って、郵便局などに確認をしてください」と注意を呼びかけている。

 電話を切ったあとは、震えて仕事にならなかったという女性…。怒りと恐怖が入り混じった感情で、男とのやりとりについてこう答えた。

「書留の中身を知らせるとか、ありえないことなのに半分信じてしまったことを反省しています。相手が早口で聞き取りにくかったのでおかしいと思いましたが、上手に聞かれたらもっと信じてしまっていたと思います」