人口約1100人の愛知県で最も小さな村、豊根村。この村のPRの方法が「自虐的」と、SNSで話題となりました。

 話題となったのはポスター。

 真っ黒に肌が焼けた高齢の男性がチョウザメを抱えている写真に書かれたキャッチフレーズは、『チョウザメが、村の人口を超えましたので、食べに来てください』。

 当の村の人は、このポスターをどう思っているのか…現地を取材しました。

■人よりチョウザメが多い村…人もまばらでなかなか出会えない

 名古屋から車でおよそ2時間、長野県と静岡県の県境にある愛知県の豊根村。村の面積の9割以上が森林の、のどかな村です。

 まずは、村の人にポスターについて聞いてみようと思いましたが…雨のせいなのか、全く人に出会えません。

 探し始めて15分。自動車の整備工場を見つけました。

Q.このポスターを知っていますか?

整備工場の男性:
「見たことありますね。おじいちゃん日に焼けて頑張ってるなって」

別の男性:
「いいんじゃないの。キャッチフレーズがどえらい有名とかってネットに流れとったもん」

 村の人からは好印象。ネットで話題になっていることも知っていました。

 そして、ガソリンスタンドでは…。

ガソリンスタンドの男性:
「この方はよく燃料入れにみえます」

Q.男性をご存知ですか?

同・男性:「熊谷さんですね」

■ポスターの男性は「チョウザメの飼育者」…趣味が高じて町おこし

 ポスターの男性の居場所を聞いて向かうと…発見!熊谷仁さんです。そして一緒に写っていたチョウザメは熊谷さんが養殖していました。その数およそ5500匹です。

 豊根村の人口はおよそ1100人なので、チョウザメは村民の5倍以上。キャッチフレーズのとおり、チョウザメが村の人口を優に超えていました。

 ところで、そもそもなぜ豊根村でチョウザメに目をつけたのでしょうか…。

熊谷さん:
「役場職員の課長さんが、『熊谷さん、何か面白いものを特産品にできませんかね?』ということを聞かれましたので。『例えば(世界)三大珍味で何かできませんか?』って話を振ってきたので、チョウザメなら飼えるかもしれんでっていうのが最初」

「何か新しい名物を作れないか」という、役場職員との会話から始まったそうです。

 熊谷さんは、元々趣味でアユやアマゴなどの淡水魚を育てていたため白羽の矢が立ち、“村おこし”のために、7年前からチョウザメの養殖を始めました。

■“ユニークポスター”…実は全部で9種類

ポスターは、去年、愛知県の東三河地区の8市町村が、観光客を呼び込もうと共同で作りました。

 全部で9種類ありますが、熊谷さんがモデルを務めるポスターが、ダントツで反響があるといいます。

Q.「チョウザメが村の人口を超えました」というキャッチフレーズの感想は?

熊谷さん:
「自虐的で面白いのかなと。豊根村らしさになったのかなと」

 ところで、チョウザメといえば、「キャビア」ですが…。

Q.キャビアは食べられない?

熊谷さん:
「まだキャビアは販売してませんけど、食用の魚の身は豊根村で4か所、食事処とか道の駅とか、温泉とか旅館とかで食べられます」

 チョウザメのキャビアではなく、「身」を使った料理で“村おこし”をしているそうです。

■果たして味は…村内の道の駅で食べられるチョウザメの「身」

 料理を出している道の駅・豊根グリーンポート宮嶋に案内してもらうと、出てきたのは「チョウザメだんごの香酢定食」、その名の通り、チョウザメの肉団子です。

 チョウザメは身だけでなく、骨、皮、内臓も食べられるそうで、コラーゲンが豊富だといいます。それらをフードプロセッサーで細かくし、団子にしました。

 地元でとれた旬の野菜と香酢で炒め、まろやかに仕上げた「チョウザメだんごの香酢定食」は1000円(取材時)。臭みもなく旨味がよく出ていて、白身で淡白でありながらも程よく脂が乗っているため、モチっとした食感が特徴です。

熊谷さん:
「最高においしいですね。天然の水で、時間をかけて生産した魚なので、豊根の冷たい水がおいしい魚を作ってると思います」

 ポスターを作るまでは1日に5食出ればよかったところが、今では多い日には1日に20食以上出る日もあり、道の駅の看板メニューです。

男性客:
「お肉みたいですね、とってもおいしいですね。ずっと食べたかったので」

 チョウザメ料理を求めて、村外から訪れる人も増え、“村おこし”に繋がっています。

 道の駅以外にも、村の天然温泉施設や飲食店など、あわせて4店で提供。

 どの店もポスターができてから注文する人が増えたそうです。

 その人気ぶりに、道の駅では10月から新メニューを作りました。「うな重」に見立てた、その名も「ザメ重」1500円(取材時)。

 チョウザメの切り身を蒲焼に見立て、片栗粉をまぶして、ふっくらと揚げました。

 一方、村の人はポスターが話題になったことで、村の将来にある可能性を感じています。

道の駅の女性店員:
「私たちのこんな小さな村でも、みんなに伝えられるものがあったかなと思ったらすごくワクワクするし、捨てたもんじゃないですよね、小さな村でも」

■2020年はついに「キャビア」生産へ…ほかの豊根ブランドづくりも

 2020年からは、新たなプロジェクトを始めます。やって来たのは、村唯一の小中学校。

 ついに「キャビアの生産」を始めるのです。学校給食の調理場として使われていた場所を、早ければ3月に、キャビアやチョウザメなどの加工品を作る工場にする予定です。

 チョウザメの養殖を始めてもうすぐ8年。一般的にチョウザメのメスは、卵を持つようになるまで10年かかるとされているため、来年、ようやくキャビアの生産に取りかかれるということです。

熊谷さん:
「この事業は多分、私一代で終わる事業ではないと思いますので、次も、その次も繋がるように。どこまで豊根村単体で頑張れるかというのがこれからの課題になると思いますけど。みんなで頑張っていきたいと思います」

 また加工場では、キャビアやチョウザメ以外にもアマゴや鮎、大豆製品など、豊根でとれるものを使って「豊根ブランド」の特産品を作る予定です。加工場を作ることで、地元の雇用を創り出す狙いもあるそうです。

 ちなみに9種類あるという「ユニークポスター」の他のパターンは、廃線となった旧田口線の写真に『電車にはもう乗れませんが、廃線ブームには積極的に乗っていこうと思います。』のコピー。

 また、手筒花火の写真を使ったポスターには『罰ゲームではありません。好きでやっています』と書かれていました。

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