15日、愛知県東三河地方の「唯一の百貨店」が45年の歴史に幕です。豊橋市の「ほの国百貨店」が閉店しました。

 開業当時からテナントとして営業してきた呉服屋の店主、冨田伊那さん(84)の最後の一日に密着しました。

 愛知県第2の都市、豊橋市。市電が走る大通り沿いに、「ほの国百貨店」があります。

1974年、ほの国百貨店の前身となる「豊橋丸栄」が開店。高度経済成長の真っただ中、店の前には大行列ができました。

 当時ひと際目をひいたのは、開店日のチラシにも掲載されたガラス張りのエレベーター。通りを一望できると人々を驚かせました。

冨田さん:
「ちょっとびっくりしたね、外が見えるなんてって思ってねえ。市電が見えたりとかするもんねぇ。今、ちょっと無いのが寂しいね」


 そう話すのは、開店当時からこの百貨店で呉服店を営んでいた「紅屋」の店主・冨田伊那さん(84)。

 自慢のエレベーターも去年9月、老朽化のため停止。大型スーパーや通販の台頭で、業績は悪化の一途をたどり、止まったエレベーターを直すことはできませんでした。

 そして、去年「ほの国百貨店」は閉店を発表。呉服店「紅屋」も決断を迫られることになりました。

 半世紀近く百貨店で続いてきた呉服屋さんには店主の冨田さんを訪ねて、馴染みの客がたくさんやってきます。

 サイズ直しに駆け込んだお客さん。冨田さんは慣れた手つきで着つけていきます。

常連客の女性:
「(冨田さんは)すごい!何がすごいって、私が何かこのお店で買ったりすると、私のタンスの中身を知っているから、良い安い帯とかお得なのがあると、『はい、これ!あんたこれ』って…。あたしだけじゃないよ、ほかのお客さんにもそうだもん」


 笑いの絶えない店内、お客さんとの信頼のあらわれ。積み重ねた時間は45年…。世代を超えたお付き合いです。

客:
「私も子供の時から成長をお店の方に見守っていただけて。なんですかね、あると安心ないと寂しいというか。なんていうんだろうな…節目の時に必ず来たいところかな」

冨田さん:
「色んなお客さんにお会いできたもんで、その方たちのつながりっていうのが続いとるかなとは思うだけどね。ああやって若い人が来てくださるとうれしいよね」


 着物が代々受け継がれるように、母の代から続く呉服屋の暖簾も次の世代へ…。

 孫の藤田阿依さん(30)、別の場所で衣料品店を営む長女の娘です。去年6月、冨田さんに「店を継いでほしい」と頼まれ、勤めていた名古屋の会社を辞めて、豊橋に戻ってきました。

冨田さん:
「去年の6月ぐらいに(孫に)来てもらったじゃん。で、(百貨店が)辞めるっていったのが10月終わり、11月だもんね。『え、本当に?えっ!』って」


 孫娘とともに歩み始めた矢先に飛び込んできた“閉店”の知らせ。

冨田さん:
「(百貨店が)続くって思っとったもんで。なくなるならね、たぶん来てって言わなんだかもわからん」


 そして迎えた15日。45年間、毎日この場所に立ち続けてきた冨田さんの最後の1日が始まりました。

 ほの国百貨店の前には、最後の買い物をしようと朝から大勢の人たちが訪れました。

 呉服屋「紅屋」も、いつもよりちょっぴり忙しい日に。時間は瞬く間に過ぎていきました。

そして…。

<店内アナウンス>
「本日はご来店くださいまして、誠にありがとうございます。ほの国百貨店は本日をもちまして、百貨店の営業を終了させていただきます」

冨田さん:
「『蛍の光』ってね、この店で終業の時にはならんじゃんね。今日初めて鳴るもんで、ほの国になってから…この音楽が。この音楽聞くと嫌だな~この音楽聞きたくないな…」

 地域の人から愛されてきた「ほの国百貨店」。

最後は惜しまれながら45年の歴史に幕を下ろしました。

 冨田さんにとって、うれしいこともありました。孫の阿依さんが別の場所で店を続けることにしたのです。

孫の阿依さん:
「うーん、不安、不安、不安でしかないですけど。でも呉服は新しいお客様ももちろんなんですけど、昔ながらのお客様がメインになってくるかなと思うので」


 これまで来てくれたお客さんを大切にしたい、阿依さんも、お婆ちゃんの思いをしっかり受け継ぎます。

冨田さん:
「私はぼつぼつ仕事ができる年じゃなくなってくるもんで、若い人たちにやってもらうって思ってるもんで…。うーん、余分なこと言いに行くかもわからんけど、なるべく少しずつ、少しずつ引いていこうかな。だって…無理だって。うふふふ」


 閉店を機に、一線からは退くことにした冨田さん。これまでを振り返って、今思うこと…。

冨田さん:
「楽しくなかったらできないと思う。楽しさがあったから続けることができたと思うし、それはまあお客様が来てくださったもんで、仕事が続けられたという思いはありますよね」

 楽しかった思い出を胸に、冨田さんは百貨店をあとにしました。バトンを孫に託して…。