タオルが手放せない季節がやってきました。岐阜県に驚きの吸水力で大ヒットしたタオルがあります。そこには開発者の強い思いが込められていました。

■開発者語る「年間5万本でヒットのタオル界で120万本」のエアーかおる

 岐阜県安八町。水を張った田んぼの中に目を引く建物がありました。

白い壁の工場と庭のあるおしゃれな和風の家屋です。その家屋に入ってみると、沢山のタオルが…。

その名は「エアーかおる」。吸水力に優れた大ヒット商品です。

浅野雅己さん。このタオルの開発者です。

浅野撚糸 浅野雅己さん:
「このタオルが、なんと年間120万本以上売れているんです。これから夏なので、さらに需要が高まるというか売れる時期ですね。タオルは(年間)5万本売れたらすごいヒット商品なんです。年間120万本ですからね、毎年ミリオンセラー」


■比べれば違いは歴然!「エアーかおる」は脅威の吸水力

 果たしてどれほどの吸水力なのか、用意したのは一般的なタオルと「エアーかおる」。バスタオルの半分程と同じ大きさ、重さもほぼ同じタオルです。

それらに、1.2リットルの水を注ぎます。

一般的なものが水をはじいてしまうのに対し、エアーかおるはグングンと吸い、ほぼ全てを吸収しました。確かにその差は歴然です。利用者からも絶賛するメッセージが届いています。

利用者からのメッセージ:
【こんなに吸水性のいいタオルは初めてです。】

【エアーかおる以外のタオル使えなくなりました】

■吸水性の秘密は“膨らみのある”撚糸…水に溶ける糸が作るスペース

 果たして、なぜここまで吸水性に優れているのでしょうか。家屋の隣にあった工場、製造元の浅野撚糸にお邪魔します。

社名の通り、撚り合わせた糸「撚糸」を製造する会社で、浅野さんはその社長です。

浅野社長:
「撚糸というのは糸を2-3本合わせて撚る。1本だけだと切れちゃうとか、もしくはデコボコになっているとか、色んな事情があって2本合わせた方が、より強くて良い生地ができる」


 衣類やタオルなど、私たちの身の回りのものに、撚糸は使われているそうです。その中でも、タオルの材料となったのが撚糸。これに吸収力の秘密がありました。

一般的な綿の糸だけを撚った撚糸と比較すると、エアーかおるで使う撚糸は随分とボリュームが違います。

浅野社長:
「糸を膨らませる。実はこれ、同じ重さ。全く同じ重さですけど、こんなに膨らむ。なぜ膨らんでいるのか?糸に隙間があるから。この糸の隙間が水分をどんどん吸うから、ということですね」


膨らんでいるのは、撚った糸の間に隙間があるから。その分、水を吸うといいます。

浅野社長:
「実は綿とお湯に溶ける糸を合わせて、そしてお湯に溶ける糸だけ溶かすと糸が膨らんじゃう」 
    

その製造には水に溶ける糸が使われていました。

 その仕組みは、綿の糸と水に溶ける糸を撚っていき…。

それをお湯につけると、水に溶ける糸だけ溶けてなくなります。

すると残った糸がねじれから元の形に戻ろうとして膨らむことで隙間ができ、水分を含むスペースが生まれます。

改めて綿だけを撚った撚糸と比較してみると、綿だけのものが、全く水を吸収しないのに対して、グングンと吸い込み、3分程で全てを吸い取りました。

確かにこれだけの吸水力があれば、汗をかくこれからの時期に重宝します。

 バスタオルの半分のサイズのものが、1本1800円前後。一般的なもののおよそ2倍はしますが、それでも売れて大ヒットとなりました。

このヒットの陰には、浅野社長のある強い思いがありました。

■きっかけは外国製品の台頭 目覚めたオンリーワン技術の活用

 浅野撚糸は今から半世紀前、浅野さんの父親が創業。紡績メーカーや商社の下請けを担い、業績を上げていましたが…。

浅野社長:
「どうしようもなかったのが、2000年に入って根こそぎ中国から製品として入ってくるようになった。それで一気に仕事がなくなってしまった」

 2000年代に入ると安い外国製品に押され、受注は激減。7億円あった売上は3割以下の2億円まで落ち込みました。

そこで考えたのが…。

浅野社長:
「オンリーワン技術ですね。これを徹底的にやろうと。最初にやったことが、うちでしかできない技術。 (糸に)鉄とか、わらとか、紙とか、もちろん伸び縮みするゴムとか糊をつけたりした」


2年の試行錯誤の末、この糸を開発。

13年前、三重県のタオルメーカーに依頼して、「エアーかおる」が誕生したのです。

すると業績は右肩上がり。昨年度には22億円まで売上が伸びました。

そして本社の横に和風の家屋を直営店として建て、創業者の自宅や庭も改装し、工場と共に2020年4月から「エアーかおる本丸」として販売や情報発信の拠点に。

浅野社長が欲しかったのは「旗艦店」、そしてここを安八町の観光名所にしたいという思いがありました。

『地元を観光名所にして、全国に発信したい』。その思いから大勢が立ち寄れるように広い駐車場も作り、直営店にはコーヒーや紅茶が無料のコーナーを設置。創業者の自宅を日本庭園のあるカフェに改装しました。

■新型コロナで苦境でも…本業と旗艦店に注力し「さらに育てていきたい」

 しかし、ここにも新型コロナウイルスの影響が。4月11日に予定していた記念式典も中止にし、バス100台ほどの予約もありましたが、全てキャンセルになったといいます。タオルの売り上げも激減。それでも浅野社長は前を向きます。

浅野社長:
「1つは本業が撚糸という柱がありますので、これをしっかりやっていく。もう1つは直接お客さんに売りたいということで、今回の本丸旗艦店ですね、ここに力を入れていきたい。ファンクラブじゃないけども、常にお客さんとつながっていたい。そういう方々と会話をしながら浅野撚糸を、エアーかおるをさらに育てていきたい」

吸水性に優れた大ヒットのタオルを調べてみたら、町おこしをも視野に入れた開発者の強い思いがありました。