名古屋の演劇といえば、アマチン・天野鎮雄さん。俳優一筋で、84歳になりました。
今年は大きな舞台の主役に、と声がかかっているようです。どんな風にお過ごしか、取材しました。

 天野鎮雄さん、84歳。奥さまの山田昌さん、90歳。2人合わせて174歳。ニッポン最強の役者夫婦です。

天野鎮雄さんは、1936年(昭和11年)名古屋生まれ。高校時代から俳優を志し、現在の愛知教育大学を出た後、東京の文学座に入りました。

「女の一生」、東京での初舞台でした。

その後、地元でタレントを続けたアマチンさん。

49歳の時、劇団「劇座」を創立しました。

1年に2本の演劇を主催するなど、名古屋の舞台には欠かせない人になっていきました。

 俳優生活も65年になろうとする去年、地元の演劇人から大きな役の依頼がありました。シェークスピアの『テンペスト』、その主役です。

天野鎮雄さん:
「シェークスピアが、ペストでヨーロッパが荒れているときに芝居ができなくなって、芝居が劇場封鎖でできなくなってしまって、その間に書いた最後の作品なんですよ。だから因縁浅からず」


『テンペスト』は訳すと『嵐』。

本番の10月、世の中はどうなっているのか、演劇の先行きに忍び寄るコロナの影。

天野さん:
「やっぱりムチャクチャ不安ですよね。いつ3人以上集まっていいのか、いつ間隔を開けなくてもよくなるかというような…。みんなが集まって、今一番いけないことをしなきゃいけないんですよね、それができない状況なので」

 豊田市の愛知工業大学。「チームAI」はラボで、学生たち80人が映像制作に取り組んでいます。

今回、『テンペスト』の舞台には、プロジェクション・マッピングが使われます。

学生:
「主人公のプロスペロがところどころで魔法を使うんですけど、それで使えないかなって。今実験段階なんですけど」

学生たちを率いているのは、鳥居一平教授です。

愛知工業大学 鳥居一平教授:
「表現の幅が非常に広がるってことだと思うんですけど。もうハリウッドの映画でも見たことがないような映像表現をみんなに求めているということです。ですからみんな何回も作り直していこうという考えでやっています」

最先端の映像と演劇の競演。アマちんさん、一世一代の舞台です。

 4月27日、名古屋市東区。アマちんさん、演劇関係でのお出かけは久しぶりです。

『テンペスト』はキャストの顔合わせも稽古もできないまま、この日、パンフレットの写真撮影を迎えました。

演劇の稽古は密接。劇場は密集。10月に公演はできるのか。

 5月15日、明るい兆しなのか、愛知の緊急事態宣言は解除。しかし、『テンペスト』は延期か決行かで揺れていました。そして6月1日…。

テンペスト事務局の野村大介さん:
「テンペストの延期公演を来年の10月ないし11月に開催いたします」

コロナの嵐に翻弄される演劇。今の状況ではまともな公演はできない、それが結論でした。

天野さん:
「本当にちょっと悔しいと思いますけど、仕方がない。でもまあね、僕の年になるとちょっと問題ですけど、この1年は、大きな問題ですけど、あなた方にとってはこの1年はね、やった、よっしゃというくらいの1年になるといいなと思います。絶対になるはずです」

 来年85歳になるアマチンさん、1日1日が大切です。

天野さん:
「ちょっと悩みましたね、やっぱり。どうなるかなぁ」
妻の山田昌さん:
「1年半後?」
天野さん:
「1年半くらい後だ、来年の10月だ」
昌さん:
「よく引き受けるね」
天野さん:
「いやいや、引き受けるねって、もう引き受けてしまった後だもん」

昌さん:
「いつでもあんた言うの後からだわ、私に言うの。決めちゃってから。何でもそうじゃない。」
天野さん:
「そんなこといちいち相談せないかんかね」
昌さん:
「いかんことないけど、そういう話が来たら『どう思う?』って言ったら『死んでる死んでる』って言う」
天野さん:
「ハハハハ、まあそういうわけです」

 公演までの長丁場を無駄にしないため、アマちんさんは、「シェークスピアの勉強会」を提案しました。

主演、天野鎮雄。演劇『テンペスト』は来年10月の本公演に向けてゆっくりと船出しました。