高齢者が共同生活を送る介護福祉施設では、新型コロナウイルスの感染リスクを抑えるために、入居者の外出制限を自主的に行っています。

そんな中、入居中に妻の最後を看取ることができなかった男性もいました。せめてお参りだけでもと、三重県鈴鹿市の施設では職員が自宅を訪れ、亡き妻の位牌の前からスマートフォンで施設にいる男性とつなぎました。コロナ時代の新たな取り組みです。

■外出や面会が制限される介護福祉施設…コロナ禍の新たな取り組み

職員の男性:
「代わりにご自宅にお邪魔させていただきました。よかったら画面越しにお参りいかがでしょうか」


 スマホのビデオ通話でお参り。促す相手がいるその場所は…。

職員の女性:
「今な、うちの職員がな、市川さんのお宅にお邪魔しています」


離れた場所にある介護福祉施設です。

職員の女性:
「画面、これを見て、お参りしてみませんか?」

入居者の男性:
「そうやな」

外出や面会が厳しく制限される介護福祉施設。コロナ時代の新たな取り組みが始まっています。

 三重県鈴鹿市にある介護付有料老人ホーム「みっかいち」。75歳から99歳の介護が必要なお年寄り29人が入居しています。

ひとたび新型コロナウイルスの感染者が出ると、重症化やクラスターの発生が懸念される老人ホーム。施設では緊急時以外の外出や面会を制限しています。

家族が直接会えない今、唯一のコミュニケーション手段はスマホです。

職員の男性:
「いきまーす!じゃあどうぞ」

職員の女性:
「昨日はよく眠れましたか?」

入居者の女性:
「よく眠れました」

職員の女性:
「今日お風呂一緒に行きましたけど、どうでした?」

入居者の女性:
「ありがとうございました」

今年2月から面会できない代わりに始めた動画撮影。入居者の様子を知らせようと職員が撮影し、週に1回家族に送っています。

【家族からの返信】
「元気そうで安心しました」
「嬉しそうな様子 ありがとうございます」

■せめて「リモートでお参り」だけでも…入所中に最愛の妻失くした男性に

 市川春夫さん、94歳。耳の聞こえも良く、自分で歩くこともできます。認知症が進んでいますが、コロナウイルスが発生する前までは自宅に一時的に帰ることもできました。

春夫さんと仲睦まじく写っているのは妻の信子さん。2人の娘に恵まれ、二人三脚で歩んできました。

信子さんは介護度が重く、春夫さんとは別の施設で暮らしていました。1年前、春夫さんが訪れた時の写真。

信子さんの手には、春夫さんから贈られた手紙がありました。

【手紙の文面】
「甚だ下手な字ですが、心は正直きです。お許しください」「愛してます」

 最愛の妻、信子さん。コロナで外出自粛が求められていた5月18日に亡くなりました。90歳でした。

2人は半年前に会ったきりで、最後の時をともに過ごすことは叶いませんでした。感染のリスクを避けるため、お葬式にも出られませんでした。そんな春夫さんにせめてお参りだけでも…。

 そこで施設が考えたのは、撮影した動画を見てもらうことではなく、ビデオ通話を使った離れた場所からのお参りでした。

■コロナでずっと対面できなかった家族…リモートでも笑顔

職員の男性:
「春夫さん近づきます。祀ってもらっていますよ、信子さん」

春夫さん:
「信子死んだんかな?(職員の女性:亡くなりました)」

職員の男性:
「今からお線香あげます」

春夫さん:
「(仏壇の写真をみて手を合わせる)わし1人残っとるみたい…」

春夫さんの孫:
「おじいちゃんまたね」

春夫さんの娘:
「また会いに行きます」

春夫さん:
「何べんでも来て。ありがとな。ありがとう」

春夫さんの娘:
「皆さん一生懸命やってくれて、ありがたいことです。こんな形で父と母が対面できるって夢にも考えてなかったので」

コロナと生きる時代。介護福祉施設でも新たな取り組みが始まっています。