新型コロナウイルスの影響で、仕事や収入面で影響を受けている人がいます。あるシングルファーザーは、感染の拡大が、3歳の1人息子とのギリギリの生活に更なる追い打ちをかけていました。

■頼れる人は誰もいない…ひとり息子を「ワンオペ」で育てるシングルファーザー

 から揚げに玉子焼き。手際よくお弁当を作るのは、名古屋市に住む小野寺哉さん(31)。

陽哉くん:
「おしっこでぬれちゃった~」


小野寺さん:
「ちょっと待ってよ、パンツ出すからね」


お弁当作りの途中で、ひとり息子で3歳の陽哉くんの世話に追われます。

 家事も育児も一人でこなす小野寺さんは陽哉くんが生後10か月の時に、離婚。

 男手一つで育てる「シングルファーザー」ですが、小野寺さん自身が児童養護施設で育ったこともあり、頼れる親族などはいません。

■ガソリン代の節約のため公園までは長時間の徒歩で…食材も安い野菜が中心に

 6月初旬の土曜日、2人が向かったのは陽哉くんが大好きな公園です。

この頃、愛知県の新型コロナウイルスの新たな感染者は、連日ゼロ、または1人と小康状態でしたが、密や遊具からの感染を避けるため小野寺さんは広い公園を選んでいました。しかし…。

小野寺さん:
「普通に30~40分は歩く。やっぱりガソリンもったいないので、なるべく休日は車を使わないようにして。今までギリギリだったのが、さらに厳しくなっているので、できることを少しずつやってくしかないですね」


車ならわずか5分ほどの距離ですが、ガソリン代の節約のため、片道40分ほどかけて歩きます。

さらに、帰り道に寄ったスーパーでも。

選んだ食材は、安い野菜が中心です。

小野寺さん:
「子供いると余計なものをいっぱい買っちゃう。白菜が1玉400円しました。ここは野菜が安いんですけど、安くてもそれだけするんで。キャベツも1玉200円ちょっと、買えない…」


■6月の収入は約22万円…コロナ禍で不安定な収入

 離婚する前までは、居酒屋の店長として働いていた小野寺さん。給料は手取りで30万円ほどありましたが、仕事が毎日深夜まで及ぶため、転職しました。

 現在は、金属加工の工場で正社員として働いていて、基本は週に6日の出勤ですが、喘息もある陽哉くんの体調が悪いときは、保育園に預けられず仕事を休まざるを得ません。

 さらに、新型コロナの影響で3月ごろから工場の稼働が減少。給料は日当制のため影響は大きく、去年より平均で月に2万から3万円減りました。

 小野寺さんの6月の収入は、県の手当てなどを合わせておよそ22万円。支出は、家賃や食費などおよそ17万円で、5万円余りの黒字でした。しかし、給料が安定しないため、貯金にはならず、赤字の月の補填に回るといいます。

小野寺さん:
「できること心掛けていかないと、生きていけるかどうかの瀬戸際になるので。自分の好きなことを切り詰めてやっていけば、子供喜んでくれるからいいかなって。なるべくプラスに捉えるようにして」

子どものために唯一の楽しみだった毎晩の缶ビール1本も、コロナで給料が減ってからは我慢。

コーヒーに変わりました。

■コロナ禍を乗り越える・・・心の支えはひとり親同士の「オンライン交流会」

 コーヒーを片手に、参加したのはひとり親を支援する協会が主催するオンラインの交流会。

去年、子育てのアドバイスをもらおうと入会しました。コロナで生活がひっ迫し、シングルファーザーとして重圧が強まる中、同じ境遇の仲間はますます心の支えとなっています。

小野寺さん:
「生活がまず大丈夫かな、という不安が大きい」

ひとり親支援協会の今井智洋代表:
「皆さん抱えてる不安は一緒なのかな。仕事が無くなったら収入に直結するし、支出も今増えてきていると思うから」


 話題はコロナへの不安から、ひとり親がぶつかる悩みに。

小野寺さん:
「保育園のお迎えはママさんが多い。『なんでママがいないの?』ってふと言われて、それをどう子供に教えていくかとか」


3人の娘を持つシングルマザー:
「お兄ちゃんがいて、お姉ちゃんがいないとか。みんなが揃っていることが普通ではない、色々な形があるんだよ、みたいな伝え方が無難な感じかな」


頼れる家族のいない小野寺さんにとってはもちろん、他の参加者にとっても本音を話すことができる救いの場だといいます。

2人の娘を持つシングルファーザー:
「(ひとり親に)なっている人同士は、本音で本当に困っていることをそのまま話ができる。格好つけてもしょうがないですし」

2人の息子を持つシングルマザー:
「ひとり親ならではの辛さをくどくど説明しなくても分かり合える。このオンライン交流会がなかったらコロナ禍を乗り切れたか…精神的に」


 この協会では、2月末の時点で1500人ほどだった会員が、今ではおよそ4000人と2.5倍以上に急増。その背景には、日に日に高まるひとり親の不安があるといいます。

今井代表:
「(ひとり親の)孤立が深まっている。コロナの影響で分断されていますので。あとは生活の不安(ひとり親の)声を代弁して伝える場所も限られますので(オンライン交流会は)期待をされているのかなと」


■拡大する新型コロナ 6月以降さらに仕事が減少…生活の不安はいつまで

陽哉くん:
「新型のコロナウイルスもいる。人の手を触ると病気になっちゃうかもしれないよ」


8月2日。すっかりコロナを認識した様子の陽哉くん。変わらず元気に見えますが、7月からの感染の再拡大を受け、大好きな公園に連れて行く回数を減らしているため、ややストレスが溜まってきているといいます。

また、変化は小野寺さんの仕事にも。

小野寺さん:
「お仕事もらっている元の会社も8月、9月は土曜日(の仕事が)なし。先行き見えないと」


6月以降、さらに仕事が減ったといいます。

1人一律10万円の特別給付金は、7月半ばに入金されましたが、先行きが見えないため手は付けていません。

小野寺さん:
「生活的にはどうなっていくのだろうという不安が募るばかりで。考えたくないけど、考えて自分が動かないとダメな状況に来てしまったなと」

できることを少しでも。コロナで収入が減少したひとり親世帯への追加の給付金5万円も申請しました。

不安定な生活はいつまで続くのか。先行きが見えないままシングルファーザーと子供、ふたりの生活は続きます。