塩ゆでにしても、パスタにしてもおいしい、旬を迎えた「ワタリガニ」。漁獲量が日本一の愛知県では、漁が最盛期を迎えている今、美浜町でワタリガニの密漁が横行しています。

 コロナ禍で収入が減る中、追い打ちをかけるように漁師らを悩ませる密漁。緊迫する深夜のパトロールに密着しました。

■最盛期を迎えたワタリガニ漁で相次ぐ「密漁」

 ほんのり赤く染まったワタリガニ。ぎっしり詰まった身と旨味がたっぷり。店で買えば1匹1000円は下らないワタリガニですが、今、外国人による密漁が横行しています。

漁協関係者:
「おいちょっと待て!中見せて、何があるの?カニがあるじゃん。ちょっと貸せ。ダメ」

警察官:
「日本のルールとして法律でやっちゃいけないよと決まっている」


 密漁したワタリガニの数は、なんと500匹。地元の産業を大きく揺るがす事態となっていました。

 知多半島の伊勢湾に面した愛知県美浜町。この時期、ワタリガニ漁が最盛期を迎えます。

 しかし、地元の野間漁協の組合長・吉田和広さんは新型コロナウイルスの影響で、飲食店や旅館の需要が減ったため、去年の同じ時期に比べ、収入は2割ほど落ち込んだといいます。

野間漁業協同組合 組合長 吉田和広さん:
「今年はコロナの影響で、漁も大分減っちゃっとるもんで。漁師さんたちも困っちゃっとるし、カニ漁とかかご漁とかいろいろやって夏場生計立てとるんだけど」


 そこに、密漁が追い打ちをかけています。組合員の日記には、「カニどろぼう」や「海どろぼう」と書き込まれていました。

 漁協では、8月8日に密漁を発見して以降、毎日パトロールしたところ、23日までの16日間に8日間、密漁者を確認しました。

吉田さん:
「あれだけとられちゃうと我々漁師たちも今から食っていくのに困っちゃう状態だもんで。今まで見たことのない量を(密漁者に)かなり持っていかれとるんだわ。我々漁師たちも怒っとるんだけどね」


■闇夜に怪しげな光…密漁パトロールに密着

 8月23日、そのパトロールに密着しました。

 午前0時半、組合員から連絡を受けた吉田さんが急いで現場に向かうと、暗闇の海から時折、光が確認できました。

吉田さん:
「あそこ、あそこに見えるでしょ、わかる?あかり光ったでしょ?間違いないと思う」

 真っ暗な海の中、怪しくゆらゆらと揺れる「2つの光」。バシャバシャと水しぶきを立てながら人が歩いている姿も確認。

 現場に警察官も駆けつけると、怪しい人影がこちらへと向かってきました。

吉田さん:
「何やってきた?海で、今、中に入ってたじゃん」

男:
「ニホンゴ、ワカラナイ」

吉田さん:
「何も持ってない?何をやりに行った、海に?」

男:
「カニ」

吉田さん:
「カニ ダメだよ!」

 男は、美浜町内の飲食店で働く中国人で、仕事終わりにカニを獲りに来たといいます。さらにもう1人、中国人の男もいました。

警察官:
「何してた?」

男:
「サカナ」


 今回は密漁したカニなどが確認できなかったため、厳重注意で終わりました。

吉田さん:
「モリを飛ばすとだめだよ」

男:
「ワカリマシタ、ゴメンナサイ」


■密猟者が決まって真夜中に現れるワケ

 こうした密漁者が現れるのは、決まって真夜中の時間帯。カニの習性に合わせた“ある理由”があるといいます。

 ワタリガニは光に集まる習性があるため、密漁者はライトを海に当てて、集まったカニをタモで大量に捕まえます。

 このライトを照らしてカニを獲る方法が密漁行為にあたります。

 ワタリガニを捕まえるだけでは「密漁」になりませんが、ライトをつける行為が愛知県の規則で禁止されていて、刑事処分が科せられることもあります。

 後を絶たない密漁者に対し、漁協では看板を設置。外国人が多いことから、中国語やベトナム語など4か国語で「カニと貝をとらないで」と書かれています。

吉田さん:
「話を聞くとさ、外国人の人もさ、コロナの影響で仕事がないもんで、休みも多いしっていう話も言う人もおったどね。やっぱり食べるためとは言っとるけどね」


■後を絶たない密猟者…外国人風の3人は「カニ」に「はまぐり」も

 その後、過去に500匹のワタリガニが密漁された現場へ行くと、ライトをつけて動く、外国人風の男3人組がいました。手には大きく膨らんだカバンが…。

組合員:
「とまりなさい、ちょっと見せてください」


 男たちが持っていた網の中には「ワタリガニ」が大量に入っていました。

組合員:
「中見せて。カニがあるじゃん、はまぐりもある、はまぐり。ちょっと貸せ、ダメ」

 男たちは突然、海の方に走り出し逃走。カニを捨てて証拠を隠すつもりなのか…。車で追いかけ、海沿いを逃げる男たちを発見。

組合員:
「持ってないでしょ、おまわりさんに捕まえてもらうだわ、逃げにかかっとるもんで、下手なことすると(モリで)一突きでやられちゃうから」

 男たちが凶器にもなり得るモリを手にしていたため、捕まえるのは断念。警察の到着を待って監視していましたが、男たちは散らばってあっという間に暗闇に消えていきました。

 今回没収した密漁者のカバンにはワタリガニが5匹、はまぐりなどの貝が30個以上入っていました。

吉田さん:
「海を抱えとる組合さんたちはさ、色々こういう関係だ、密漁関係かなりみんな苦労しとると思うんだけど、行為自体が重いもんで、本当に皆さんね、やめてほしいんだけどね」


 ワタリガニの密漁では、禁止されているのは「ライトを使ってタモ網で取る」方法で、たとえば日中に網で捕まえる行為までは禁止されていません。

 密漁者の中には、「制度を知らなかった」と言い張って罪を逃れる人もいて、パトロールや取り締まりを続けていてもいたちごっこになってしまっているのが現状です。