新型コロナウイルスの流行が長引き、雇用への影響が深刻化しています。厚生労働省によりますと、新型コロナウイルスに関連する解雇や雇止めは見込みも含め5万人以上で、5月以降、月におよそ1万人のペースで失業者が増加しています。翻弄される雇用の現場を取材しました。

■正社員とし3年半勤めたバス会社…突然解雇

林さん:
「コロナの感染の影響でこのままでは持たないということで、ドライバーを解雇しますというお話でした」

 今年5月、愛知県内の観光バス会社に勤めていた林さん(仮名・45)は、突然「解雇通知」を突き付けられました。

林さん:
「資金繰りも最大限努力したけども、これが限界だと、社長に電話した時もそれは言っていましたね。納得はできないですけど仕方がないです。自分が経営者だったとしても 同じ判断をしただろうなと」

 大型バスの運転手としての経験は20年。正社員として3年半勤めた会社は、新型コロナウイルスの波に飲み込まれました。

 この観光バス会社では、13人いる運転手のうち11人を解雇。退職金は出ませんでした。

林さん:
「悔しさはやっぱりあります。好きな仕事でしたから。ついに来たかと」

 新型コロナウイルスがもたらした「失業」という問題。東海地方でも深刻さを増していました。

■劣悪な労働環境でコロナ拡大前に退社…月収は33万円から4万円に

 名古屋市に拠点を置く人材派遣会社「ワークナビドットコム」では、4月以降、仕事を求める問い合わせが急増。

 普段は1か月で100件前後でしたが、6月の取材時には、約4倍くらいになったといいます。

 しかし、求人の受注はゼロが続いている企業が多く、売り手市場だったコロナの拡大前と比べると全く状況が変わり、8割以上減少しました。

ワークナビドットコムの担当者:
「働きたくても働けない。もしくは働きたい条件とは違う条件で働かざるを得ない、という状況がいま起きているのではないかなと」


 愛知県内の飲食店で今年2月まで店長をしていた三宅さん(仮名・31)は正社員として4年間勤めましたが、労働環境に耐え兼ね、今年3月自ら退職しました。

 三宅さんが見せてくれたのは、その4年分の勤務記録。毎日午前11時頃から深夜0時頃まで働きました。休みは週に1日あるかないかで、残業代の支払いもありませんでした。

三宅さん:
「友人の結婚式だとかそういったものは基本的に出られませんし、自分の親族の葬式とかは帰れないという状況が続きました。プライベートがないような状態で、自分の人生このままで終わるのかなっていう不安もありました」

 会社からなかなか退職させてもらえなかった三宅さん。弁護士に依頼して退職できましたが、今も未払い賃金の請求などを続けています。

 三宅さんの依頼を受けた牧野太郎弁護士は、新型コロナで経営状態が悪化した飲食業などで、不当な解雇や未払賃金などの問題が相次いでいるといいます。

牧野弁護士:
「コロナの影響でガラっと経営状況が変わってしまったという会社も多いですから。いざ裁判所が間に入って、合意をしようとなった時にも『お金をそもそも支払うことができません』と。『いまコロナの影響』でと言われることが多いですね」


 今年6月、改めて三宅さんを訪ねました。自ら職場を去ってから2か月半が経ち、厳しい「コロナの現実」に直面していました。

三宅さん:
「何回かハローワークのほうに顔を出してですね、なかなか今はコロナの影響で、求人が全然ない状態で厳しいですね」


 求人は少なく、次の仕事に就けないでいました。

 生活のため新聞配達のアルバイトを始めましたが、以前は手取りで月に33万円ほどあった給料は約4万円に激減。

 なぜ自ら退職してしまったのか、自問自答を繰り返していました。

三宅さん:
「新しくできる仕事を探しているんですけど、現状なかなか無い状態で。お金がなければ生活できないので、ちょっと厳しいですね。 コロナがこうやって出るってわかっていれば、仕事は辞めずに、会社の方に籍をおいて、お仕事をしていた方がより安全だったのかな。できるなら続けていた方がよかったと思います」


■再び握れたバスのハンドルも…遠い正社員への道

 観光バス会社から5月に解雇された林さん(仮名・45)。その姿は1か月後、愛知県犬山市の別のバス会社にありました。

林さん:
「大型バス乗るのが3か月ぶりくらいだったので、最初の5分、10分は緊張しました」


 慣れ親しんだ大型バスのハンドルを再び握る林さん。実は、3年半前まで働いていたバス会社から声がかかり、スクールバスの運転手の仕事に就くことができていました。

林さん:
「仕事をしていると張り合いが違いますね。乗っていると『仕事してるな』って感じはしますね」


 コロナ禍で林さんを雇ったバス会社。背景には感染が一旦落ち着きを見せていることがありました。

バス会社の社長
「幸いなことに6月から学校さんのお仕事頂けるようになりまして、密にならないように、若干本数が増えた関係で、人出が足りなくなり、彼に声をかけさせていただきました」


 学校の再開と3密対策で、スクールバスの稼働台数が増加したため、ドライバーを急遽増やすことになったためです。

バス会社の社長:
「彼はもともとまじめで、すごく頭がいい子ですから。できればうちでも雇用したい人材なんです。ただ今こういう状態ですから。なかなかすぐ正社員で雇用するのは難しいです」


 アルバイト契約で、仕事があるのは週に1日ほど。依然としてコロナで先行きが見通せない観光バス業界では、正社員として雇用するのは難しいといいます。

林さん:
「1日1万円という話で、このスクールバスに関してはやっています。以前の会社では2万円いかないくらいはもらってました。今は出勤日数も減っていますから4分の1以下ですかね。貯金を切り崩しながら生活している感じです」


 バイト代は月に数万円。将来に対する不安は否めません。

 真面目に働き、評価が高くても安定した仕事に就けない現実。コロナで職を失ったひとたちは再び安心した暮らしを取り戻せるのでしょうか。