自家製のチャーシューや激安のからあげで人気の町の精肉店があります。コロナ禍にも関わらず多くの客が次々に来店するお店の魅力を取材しました。

■他の店の焼き豚はもう食べられない…美味しさの秘密は40年継ぎ足しの秘伝のダレ

 愛知県美浜町にある「布土(ふっと)精肉店」。お惣菜が大人気の町の精肉店です。

男性客:
「お肉も美味しいし、総菜もお値打ちで、町の人にも人気があるので寄らせてもらっています」

 大人気のからあげや手羽先など揚げ物が20種類以上並び、自家製の焼き豚や知多豚や知多牛など、地元特産の精肉も揃います。

 店主は二代目の石川佳男さん、29歳の時に店を継ぎました。きっかけは先代である父親の焼き豚でした。

石川さん:
「実家に帰った時焼き豚を食べたのです。こんな美味しい焼き豚食べたことない。これさえあれば、もっと美味しいものを届けられるという自信が湧いてきて、この店を継ぐ決心をしました」

 脂が染み出し、飴色に輝く焼き豚。地元産・知多豚のバラ肉を40年継ぎ足し使うタレに、およそ15時間漬け込みます。

 そして糸で縛った豚肉を窯へ。弱火で4時間かけて余分な脂をさらに落としていきます。

 先代から受け継いだ焼き豚はあっさりとした肉の旨味と、甘めの醤油だれの味わいが絶品。店頭に並べられると次々売れていきます。

男性客:
「ここは一番です。他の焼き豚が食べられない」

別の男性客:
「おいしいですよ、もう常連です。1週間に2回とか買いに来ています」


■子供たちのお腹を膨らませてあげたい…10円からあげに込めた店主の思い

 昼前になると、特に出るのが揚げ物です。目玉は1個10円のからあげや、同じく10円の揚げシューマイやハムカツ。

女性客:
「安いは安いですが。意外に脂っこくないから好きです」


 中でも一番人気は、からあげです。

石川さん:
「10円と言えども美味しいものを出すという気持ちで、手間暇かけてからあげを1個1個作っています」

 国産の胸肉を原価ギリギリの大きさにカットし、あの焼き豚のタレに1日漬けこみます。衣をつけて、さらにもう1日寝かせて、味をしっかりなじませます。価格を10円にしたのには理由がありました。

石川さん:
「小学生の兄弟がコロッケを買いに来たのですよ。コロッケが当時1枚60円で、2人で100円しか持ってなくて、2枚買えないじゃないですか。外に出たら2人で半分に割って食べていまして。それを見て、もうちょっと値段が安くて、お腹を膨らませてやることができないかなと思って」

 10円という価格は、石川さんの優しさの表れでした。ただし、10円の惣菜は1人10個まで。11個目からは1個20円となり、30個までしか買えません。それでもお値打ちです(30個500円)。

 布土精肉店には、もう一つの人気商品があります。1日1000本売れる「知多の手羽唐」です。

国産手羽に、地元・美浜の天然塩で下味を付け、揚げた後に醤油ベースの自家製タレにサッとくぐらせた逸品です(1本105円)。

■あなたならもう1回できるから…廃業の危機から店を救った常連客の一言

 激安の揚げ物や絶品の焼き豚で人気の布土精肉店ですが、実は6年前、廃業の危機がありました。

石川さん:
「僕がこの店を継ぐと決心して、父さんの元で修行中、年末の営業が終わって明けて正月に朝来たら、火事になっていたのです」

 父、雅和さんに仕事を教わっていた2014年の正月、お店が火事で焼けてしまいました。もう廃業するしかないと途方に暮れていた時、勇気をくれたのは常連客でした。

石川さん:
「近所のお婆ちゃんが『あんたならもう1回できるから、お父さんの焼き豚をこんなに有名にして、10円からあげ売ってテレビ局が来てくれて、これだけ外から美浜町の“布土”って田舎に呼ぶことができたのだから、もう1回借金してでもやりなさい』と」

 常連客の応援を受け再開を決意。親戚から借金をして、火事から5か月後、今のお店を構えました。

■コロナ禍でも頑張ってお肉を届けたい…地元の人がお肉を買いにきてくれるから

 大人気のお店ですが、新型コロナの影響がありました。

石川さん:
「卸で旅館さんへなどは(納品が)ほとんどゼロに近いぐらい。外食をしないで、自分の家で焼肉やしゃぶしゃぶをやろうというお客さんが買いに来ていただきました」


 旅館などへ卸していた精肉は、パタリと注文がなくなりました。その一方で巣ごもり需要から、個人客は以前よりも増えました。

石川さん:
「今までは火曜・水曜とお休みでしたが、今は火曜だけ定休日にして水曜は営業するようにしました」

 客からの要望もあり休みを減らして、その期待に応えます。

 午後7時。閉店の時間。焼き豚やお惣菜はもちろん、2000個あった10円からあげも完売しました。

石川さん:
「地元の人がお肉を買いに来てくれて。コロナの時期でも店を閉めずに頑張ってお肉を届けていきたいなと思っています」

 布土精肉店は、名古屋から車でおよそ1時間。愛知県美浜町の国道247号線沿いにあります。