三重県津市の老舗のお酢の製造所は、新型コロナウイルスの影響で、厳しい経営状況でしたが、新商品の“そのまま飲めるお酢”がヒットし、オンラインの売上が5倍になりました。背景には伝統を守りつつも新しいことに挑戦する取り組みがありました。

■創業から守り続ける確かな味…明治20年から続くお酢の老舗

 三重県津市にある「山二造酢株式会社」。明治20年から続くお酢の老舗です。築100年以上の蔵が、その歴史の長さを物語ります。

 現在の主は、5代目・岩橋邦晃さんです。

岩橋さん:
「じっくりゆっくり発酵させることによって旨味成分が出てきますので、酸味の角がとれてまろやかになって、お酢が主張しないので色んな料理に合うお酢ができます」


 100年以上使われる木桶の中には、「種酢(たねす)」と呼ばれる発酵を終えた酢。代々引き継がれていて、うなぎ屋のたれと同じように、お酢の味を決める大事な物です。

 これをもとに、昔ながらに時間をかけて発酵させ、お酢を作ります。今の技術をもってすれば、2、3日で作れるところを、仕込みから熟成と、出来上がりまでに2か月かかります。

 自然の力を借りてじっくりと発酵・熟成させることで、酸味がやわらぎ、ほんのりとした甘みと旨味が生まれます。

 創業から守り続けてきた確かな味です。

■継いだ20年前は苦しい経営…「飲む酢」の新商品を次々開発 海外にも出荷

 しかし、それだけで生き延びていくのは困難でした。岩橋さんが家業を継いだのは、今から20年ほど前。

 お酢は体に良いと知られていましたが、会社の経営は苦しい状況でした。そこで 新商品の開発に着手。今ではよく見かける「飲む酢」でした。

 果実のおいしさそのままに巨峰の果汁を加えたお酢に、女性ウケするよう、身体を温める生姜とフルーツを合わせた甘くてちょっと刺激的なものなど、17種類のフルーツのお酢や黒酢のドリンクを開発。

 他にも、ぽん酢やドレッシング、ソースまで、約50種類を展開しました。

岩橋さん:
「お客さんの嗜好も変わってきて、色んなものを好むようになりましたので、基本のお酢の作り方は変えずに、変えて良いものと、変えてはいけないものときちっと見極めて…」


 国内だけでなく百貨店を通じてマレーシアやシンガポールなど海外へも出荷するように。

■オンラインの売上が5倍に…求人サイト「ふるさと兼業」で出会ったパートナー

 ところが、新型コロナの影響で得意先が休業するなどし、海外での販売が中止に…。売上は約3割減少しました。

 そこで、さらに新しいものに挑戦しようと、4月に新商品「Gin Vine SWEET YUZU スイート」(270円)を発売。

 それまでは、希釈して飲むタイプのものでしたが、これはそのまま飲めるゆずを使ったお酢です。

 これを発売する時にある取り組みをしたことで、一気に注目を集め、オンライン販売の売上が昨年度と比べ、5倍にまで伸びました。その取り組みが「ふるさと兼業」というサイトの活用です。

 「ふるさと兼業」とは、2018年にスタートした、人材やノウハウ不足に悩む地方企業と、地域貢献などをしたい都心で働く人を、引き合わせる求人サイト。

 岩橋さんは、知り合いのNPOの人に教えてもらい、このサイトを利用しました。

 そこで知り合ったのが、もともとは福岡の通販会社でサプリメントや化粧品を販売し、現在はフリーランスで通販の支援をする、大分県在住の富崎一真さんをはじめとする3人でした。

 富崎さんは、実家が農家ということもあり、これまでの通販経験を生かして食品を通販で販売したい思いがありました。

 富崎さんからの具体的なアドバイスは2つ、サイト内で、商品をアピールするプロモーション用の画像についてと、広告の運用について。

岩橋さん:
「長く作っているので、作るのは得意なのですけど、それを売っていくノウハウがうちにはなくて、その辺を助けていただきました」


 アドバイスから、新商品を積極的にメディアにリリース。オンラインストアのホームページは注目を集めるよう、季節に合わせてギフト特集を組み、情報を頻繁に更新。

 バラバラだった商品写真も、サイズや質感を統一し見やすくするなど工夫。今まで手をつけられていなかった宣伝にも力を注ぎました。

 さらに、若い世代にもアピールしようとSNSも立ち上げ、20代の社員を広報担当に抜擢。お酢を使ったレシピや写真などをアップしました。

 するとそれらが客の目にとまり、オンラインストア全体の売上を、およそ5倍に押し上げました。

 サポートした富崎さんは、「食品を販売するのは初めてで、どこまで手伝いができるのか、結果を出せるのか不安だったが、今までの経験が生かせて嬉しかった」と話します。

岩橋さん:
「やって良かったと思います。知らないことばかりで、専門的な知識を教えてもらい、生かすことができたと思います。教えてもらったことを、引き続きやっていきながら、新しいことに挑戦して、厳しい時代を乗り切っていきたいと思っています」

 地方の企業が都心で働く人の力を借りる。「ふるさと兼業」はこれまで100件以上の成功例があり、これから広がっていくかもしれません。