コロナの影響を受け、キッチンカーは行き場を失っていました。しかし、今「イベントが無ければ自分たちで作る」、人との縁を頼みに奮闘しています。

■売り上げは90パーセント減…イベント中止で行き場を失ったキッチンカー

 何種類ものスパイスとフルーツを使い、昔ながらの味を再現したルウに、大きなメンチカツをトッピング。多い日には500杯が出る人気のカレー。提供するのはキッチンカーです。

 12年前から東海地方のイベントやお祭りに出向き、キッチンカーでカレーを提供する森田純也さん。

森田さん(今年5月):
「全て仕事がなくなった状況ですね。3月に関しては、売り上げは90%減っていう」


 2020年5月に取材をした際、コロナの影響で出店を予定していた全てのイベントが延期や中止に。森田さんのキッチンカーは行き場を失っていました。

 そんなコロナ禍の中で差し伸べられた手もありました。

 当時、イベントで知り合った日本たばこ産業の人の力添えで、名古屋市中区にある日本たばこ産業・東海支社の玄関前に出店。改めて人の優しさに気付いたと言います。

 ただ、数か月経った今も、厳しい状況は変わりません。

森田さん:
「今年の冬のイベントも、中止がまた発表されて。変わらず厳しい状況かなってところですね」

 今も、見通しが立たないままだと言います。

■イベントがなければ自らでつくる…ご縁から見出す明日への活路

 この日、森田さんは愛知県幸田町の町民会館に向かいました。自ら、キッチンカーのイベントを開きます。

森田さん:
「何かやらなきゃいけないと思って。今まで出させていただいた会場とかに連絡して、交渉して。キッチンカーの『テイクアウトマーケット』をやろうと」

 これまでは、何かのイベントに呼ばれて出店する形でしたが、イベントがない今、キッチンカーの“料理自体をメイン”とするイベントを自分たちで開いています。今回の出店を提案した町民会館の担当者とは、以前別のイベントで知り合いました。

幸田町民会館の担当者:
「森田さんの方から相談がありましたので。ぜひ協力させていただきますと。コロナ禍で、お客さんが来るかどうかも未知数なので、場所の提供は基本無料でやらせてもらっています」

■国からの助成金もない…苦境の仲間たちと開いたキッチンカーのお祭りに客続々

 午前9時半。キッチンカーがやってきました。

 森田さんは会場に一番乗りし、車の誘導や他の出店者へのあいさつ回りも行います。

出店したキッチンカーの店主:
「(コロナの影響で)ほとんど仕事らしい仕事は無かったですから…」

森田さん:
「キッチンカーには、飲食店に対しての国からの休業補償とか、時短営業の協力金は、一切対象外なので。そういった補償が少ないこともあって、みんな辛い思いをしているのかなと」

 そのため、お互い協力しあって5月から毎月数回こうしたイベントを開くようになりました。今回は森田さん含め5台のキッチンカーが揃いました。

 神戸牛を使ったお寿司に…。

 ボリュームたっぷりの広島焼き。

 牛肉の串焼きや、定番の焼きそばまで。

 どれもおいしそうで、まさに食の祭典です。

 もちろん、感染予防対策にも気を遣います。各キッチンカーには消毒液を設置。ソーシャルディスタンスを促す目印も置きました。

 午前11時、イベント開始。人が集まってきました。

子連れの母親:
「少しでも気分を変えるイベントがあると嬉しいですね」

女性客:
「テイクアウト出来るので、持ち帰って家で食べられる安心感もあるので、いいかな」

男性客:
「新聞に入っていたチラシを見て来ました」

 森田さんたちはチラシも自ら制作。新聞の折り込み広告を見て訪れた人もいました。

■「いつか恩返しを」…感謝を忘れずに思い描くキッチンカービジネスの未来

 午後1時。絶えず人がやってきて、イベントは順調です。

町民会館の担当者:
「普段、館内のレストランやコンビニとかで買う人が多いですから。働いている職員のみなさんも、楽しみにしています」


 場所の提供をした町民会館の職員たちからも好評です。

 イベント中、森田さんは接客で気をつけていることがありました。
 
森田さん:
「一番気をつけているのは、暗い話題だけは、喋らない様にと。大変な時期でもあるので、あえて明るく接していますね」

 そして午後3時半、イベント終了。

キッチンカーの店主:
「こういった公の場所を貸してくださるっていうのは、とてもありがたいです」

別のキッチンカーの店主:
「協力してくれるところは、こういう状況の中だと勇気があると思う。手を上げて場所を提供していただけるのは、僕らにとってはすごくありがたいです」

 イベントを取り仕切った森田さん。変わりつつあるキッチンカーのビジネスに、新たな可能性を感じています。

森田さん:
「今までは、企業さんのランチとか、あまり出ている業者はいなかったですし、こういったテイクアウトを主体にしたマーケットも、コロナ終息後でも一つのイベントとしてやっていけるのかなと」

 そして、人の優しさに支えられてきた森田さんは、「会場を厚意で提供してくれた幸田町民会館さんや現在もランチ営業をさせて頂いている日本たばこ産業の皆さんにいつか恩返しがしたい」と話します。

 感謝の思いを胸に、キッチンカーは、“前へ前へ”と進んでいきます。