新型コロナウイルスに翻弄され続けた2020年。若者の仕事や住まい、そして、家族の絆も奪っていました。コロナによってゆがんでしまった様々な人々の「暮らし」を追いました。

■コロナの影響で退職した23歳…路上生活送り“炊き出し”で命つなぐ

 12月17日、名古屋市中区若宮大通り沿いの公園。路上生活者に向けた炊き出しには、100人近くが列を作っていました。

 その列の中に、ひときわ若い男性の姿が…。

 男性は23歳。今年9月まで東海地方の企業で営業職をしていましたが、コロナの影響がきっかけで退職しました。

男性:
「コロナで対面営業ができなくなった。対面営業ができなくなるということは収入が減っちゃいますよね。利益を出さないといけない、ノルマがある。大学も行けたし、何も不自由がないなと思っていたんですよ」


 退職後、一旦は友人の家に転がりこみましたが長居はできず、もう2か月近くも路上生活を続けています。ボランティアが行う1日1回の炊き出しが、命をつないでいました。

 コロナ禍でアルバイトの需要も減少、住所もないため仕事を見つけるのは難しいといいます。

男性:
「家庭環境があまり良くなかった。価値観が合わない親とは。ということでこういう生活をせざるを得なくなったということです」


 両親にも頼れず、厳しい寒さのなか、先の見えない“きょう”を生きていました。

男性:
「全てが変わっちゃったでしょ。もう元には戻らないですよ、コロナ前には。まず寒さに耐えて、その中で道を掴んで前に進むしかないじゃないですか」


 コロナ禍の年末。こうした若い路上生活者の姿が目立つようになったといいます。

ボランティア団体の代表:
「コロナが原因かどうかは分からないけど、若い方が少し増えてきたなという感じはあります。表面化してくるのにはまだ少し時間がかかると思います。冬の厳しい時期に入ったので、凍死をしたりとか、体調を崩さないかが心配です」


■空き缶集め“ライバル増”か…アルミ価格も下落して長年の路上生活者にも影響

 コロナが生んだ「ひずみ」は、長く路上生活を送っている人の暮らしにも及んでいました。雪の深夜。名古屋の街で空き缶を集めるのは、11年間、路上生活をしている田辺博さん(仮名)、69歳。

 週4日の空き缶拾いが唯一の収入源ですが、以前よりも集めにくくなったと言います。

田辺さん:
「(空き缶が)めちゃくちゃ少ない、(他の)人間が来ているっていうことやから。普通、雪降ったりしたら来ないんやけど」


 コロナ禍で空き缶を集める人が増えたのではないかと考えます。コロナの拡大前は、1日に30キロは集めていましたが、この日は、その半分ほどしか集められませんでした。

 そして、今年はアルミ缶の買取価格も下がってしまったといいます。

田辺さん:
「(アルミ缶は)コロナの前が1キロ65円で、5月頃か?20円いっぺんに下げられた」


 コロナの影響で、アルミの取引価格が下落。当然、買取価格も下がり、コロナ前は1か月に3万円ほどあったという田辺さんの収入も半減しました。

 家を持たない田辺さんには、“全国民”一律で支給されるはずの「特別給付金」10万円を得る術もなく、自分の存在について「国民でもないし、ゴミ」と自嘲します。

田辺さん:
「みんなホームレスは栄養失調の餓死。外で寒くて死ぬ人間も出てくるし、これもコロナの影響だよな。子供がおるもんで、もう年は40歳になっているけど、3歳のときに別れたままなので分からんけど、孫ができたときにしわ寄せがいくわな。そっちの方がちょっとかわいそうと思うだけで」


■ 家賃滞納者が急増…従業員寮の支払い滞るバー経営者「遅れ遅れに」

 コロナの影響は、暮らしの基礎である「住宅」にも及んでいます。

 12月、愛知県豊橋市内のアパートを回ったのは、日本賃貸保証の社員。この会社では、賃貸契約の連帯保証人を引き受けていますが、コロナ以降、家賃を滞納する人が急増し、中には連絡が取れなくなる人もいるといいます。

日本賃貸保証の担当者:
「コロナが始まって、3月-5月というのは(家賃の)お支払いが滞る方が増えてきました。飲食の方であったりとか、そういう方にコロナの影響がかなり激しいのではないかなとは思っています」

 豊橋市でバーなどを経営する稲垣正和さん(仮名)、36歳。コロナの影響で、売上が激減しました。

 店のテナント料や8人いる従業員の給料は、なんとか支払えていますが、従業員の寮として借りているマンション2部屋の家賃、合わせて約6万円の支払いが滞っていました。

稲垣さん(仮名):
「なんとかなんとか支払っていく段階ですが、遅れ遅れになっていたのは事実なので。(店の売上は)一番いい時の5分の1、6分の1くらいまで下がりました」


 「公的支援」を受けられないか。稲垣さんは、連帯保証人である日本賃貸保証の担当者と市役所に相談に訪れました。

 相談したのは、「住居確保給付金」について。収入が減り、住居を失う恐れがある入居者などを対象に、自治体が家賃相当額を支給する制度です。

 しかし、この制度は物件に入居している人が契約者でないと適用されず、従業員の寮として利用する稲垣さん(仮名)に、給付金は出ませんでした。

稲垣さん(仮名):
「(支払いを)何とかしていかないといけないなと思っています。先が見えないのは皆さんあると思うんですけど、どういう風になっていくのかがわからないので、そこが一番不安ですね」


■コロナだから「また今度でいいんじゃないか」…起こると思っていなかった家族の孤独死

 12月3日、片付けが進められる名古屋市内の住宅。2020年10月、この家で一人暮らしをしていた82歳の男性が亡くなりました。

 浴室で亡くなっているのを息子が発見したときには、死後2日以上が経過、「孤独死」でした。

亡くなった男性の長女(51):
「(孤独死が)我が家で起こるとは思っていなくて、父には『コロナで、もし亡くなるようなことがあれば私達会えないんだから』って(父に)言っていたんですけど」


 長女は、車で1時間ほどの場所に住んでいて、月に1回は顔を出すようにしていましたが、コロナは、家族の『繋がり』も奪っていきました。

亡くなった男性の長女(51):
「私の子供達も大学生と社会人なんですけど、その子たちが万が一感染して、とかになると、あまり父に合わせないほうがいいかなと思ったりとか、末っ子が今年関西の方に出たんですけど、やっぱり夏帰って来た時も、『(会うのは)また今度でいいんじゃないかな』なんて言って。リスクがあっても会わせるべきだったなって」


 亡くなった男性の部屋の遺品整理に訪れた業者も「この家以外でも、コロナで会う頻度が減って、孤独死したというケースがあった」とこの現場が特別ではない、と指摘します。

 片付けを進めるにつれて見つかった家族の思いでの品々。

 片づけに立ち会った24歳の孫娘は今年、旅行代理店に就職しましたが、コロナの影響でいまだ1度も出勤できず、祖父に相談しようと思っていた矢先の知らせでした。

亡くなった男性の孫娘:
「社会人1年目だし、楽しみというよりも不安が大きかったので、色々な経験を積んだ人がいたから相談にも乗ってほしかった。お酒のおいしさも分かってきたので、おじいちゃんと1回飲んでみたかった」

 日常やささやかな幸せさえも奪った新型コロナウイルス。先の見えない不安が続きます。