1月24日に投開票を迎える岐阜県知事選挙には、これまでに4人が立候補の意向を表明しています。

 岐阜県の知事選挙はこれまで、圧倒的な支持基盤を持つ自民党の推薦候補が圧勝し、事実上の信任投票とも揶揄されることがありましたが、今回は保守が分裂、激しい選挙戦が予想されています。

■国会議員と県議の代理戦争…岐阜県知事選は55年ぶりの「保守分裂」

 揺れる保守王国・岐阜…。

 古田肇知事と元官僚の江崎禎英さん。保守の候補が並び立つ分裂のきっかけは、ちょっとしたボタンの掛け違いでした。

猫田孝県議会議員:
「我々が側にいるので(知事選に)出たいなら出たいで相談があって然るべきなのが、全然ないというのは全くおかしい。怒り心頭に来ている」

 公然と古田知事への不満を口にしたのは猫田孝県議会議員。自民党岐阜県連の会長代行を務め、古田知事の過去4回の選挙を取り仕切ってきた重鎮です。

 当初、猫田県議ら県議団の幹部は、古田知事から支援の依頼がなかったため、知事の姿勢やコミュニケーション不足などに理由に新人候補の擁立を模索。

 これに対し、古田知事は県議団ではなく同じ自民党の野田聖子衆院議員ら国会議員に素早く接触して続投への支持を取り付け、メンツをつぶされた形になった猫田県議らは江崎さんを擁立。こうして次第に県議団幹部と国会議員の代理戦争の構図に…。

野田聖子衆院議員(12月6日):
「感情的に、古田知事が言うことを聞かないという前提で今回の選挙を進めようとしたことに対して、私は自民党としてそうあるべきではないと」

猫田県議(11月19日):
「国会議員が、あまり知事選挙に口を出すのはいかがなものかと思いますね」

野田衆院議員:
「長老支配の政治を変えたい」

猫田県議:
「私としては全く受け入れることができない。反省をしていただきたい」


 火花を散らす2人ですが、本来、強い絆で結ばれていました。15年前の郵政選挙。郵政民営化法案に反対し党本部の公認を失った野田議員の選挙戦を、捨て身の覚悟で支えたのが猫田県議でした。

野田衆院議員:
「私にとって一番悲しい所ですね。私は猫田先生を父のように思っていましたから、政治の中でそういう判断をされてしまったことを非常に残念に思う」

 対立する両陣営。

■どちらを支持するのかを明確に…選挙会議は「同日同時刻」 板挟みで態度を決められない県議も

 選挙の会議はまさに同じ日、同じ時刻からスタート。同時刻に会合を開くのは、双方の支持者を明確に色分けするため、保守分裂選挙で時折みられる手法です。

 古田知事を支援する大半の国会議員とそれに従う県議、江崎さんを支援する県議団幹部らにすみわけられました。

 この保守分裂で両陣営の板挟みとなる人は、気が気ではありません。

 11月、瑞浪市で開かれた自民党岐阜5区の会合。古田知事支持を打ち出し、大臣経験もある古屋圭司衆院議員の呼びかけで、選挙区内の県議らが集まりました。

古屋圭司衆院議員:
「5区の仲間は一致結束して、古田現職知事を応援していこうと。これを皆様に了解をいただいて結束し、いよいよスタートする日がきょうであります。一部の人が牛耳る、何でも自分の言うことを聞かなければいけない、昭和的な運営をする勢力から良識を取り戻す」

 県議を次々と壇上に上げ古田知事の目の前で支持を表明させる、まさに「踏み絵」が行われる中、最後に登壇したのは、瑞浪市選出、当選1期の小川祐輝県議。

小川祐輝県議:
「瑞浪市においては(支持が)拮抗している、割れたような状態です。きょう、決意表明できなかったことは、非常に残念に思いますが、私の立場を古屋先生、そして同志の県議会議員の先生方にもご理解いただいて、大変恐縮です。支部をまとめきれていない、私のふがいなさでございます」


 この場で唯一態度を保留。国会議員に刃向かえば、次の自身の県議選で支援はない。

 かといって安易に推す候補者は決めることはできない。様々な思いが巡る中、この日結論を出すことはありませんでした。

 12月8日、小川県議の姿は地元瑞浪市で開かれた江崎さんの講演会の会場にありました。支援者らと江崎さんの話を聞くため自ら企画しました。

小川県議:
「膝から崩れ落ちそうなくらい、ハラハラドキドキしている」

江崎さん:
「今変えなければいけない、まさにその時だと思います。我々は、コロナの禍を乗り越えた先に、素晴らしい社会を作らなければいけない。そのきっかけをコロナは見せてくれている」


 熱心に講演に耳を傾ける小川県議の支援者たち。一方で、彼らもまた複雑な思いを抱えていました。

講演会の参加者(瑞浪市民):
「小川県議の思いを達成してあげたい。ただ(古田知事支持の)市長さんはじめ、国会議員の立場も理解していますので、本当に難しいところにある」

Q.両方に関係があるから、どちらも無下にできない?

講演会の参加者:
「できないです。大変苦しい立場だと思います、みなさん」


 両陣営の事務所開き。

 決意を固めた小川県議の姿は江崎陣営にありました。

小川県議:
「やはり支援者が分かれてしまうとか、そういった街の雰囲気であったり東濃の雰囲気であったりとかが…。そこから自分の意思を貫くのが、すごく大変だった」

Q.国会議員からのプレッシャーはありました?

小川県議:
「まあそれはそうですよね…。地域を代表する方なので…。お互い思いがあってやることですので、ポジティブなことだと思います」


■岐阜県知事選では『初の女性候補』…保守分裂選挙は「県民不在」 女性や子供、生活弱者を吸い上げる政治を

 政治家だけでなく、多くの支援者も巻き込んだ保守分裂選挙。そんな状況を尻目に知事の椅子を虎視眈々と狙う候補者がいます。保守分裂は「県民不在の選挙」と訴えるのは共産党が推薦する新人・稲垣豊子さん。

 小・中学校の教師を定年退職後、NGO団体「新日本婦人の会」で岐阜本部代表に就任。女性や子供など、弱者に寄り添った政治の実現を目指し活動してきました。

 岐阜県知事選挙に女性が立候補するのは初めてで、稲垣さんは県庁の主要ポストへ女性を登用し、女性目線で県政に新たな風を吹かせたいとしています。

稲垣豊子さん:
「分裂選挙で、県民不在の選挙にしてはいけない。女性の声、子供たちの声、生活弱者の声をもっと吸い上げる県政にしなければ、権力争いの中でみんなはじかれてしまう」


 このほか元県職員の新田雄司さんも立候補を表明、知事選の候補者はこれまでのところ4人に。

 保守分裂がきっかけで、激しい選挙戦が予想される岐阜県知事選挙は来年1月7日告示、24日投開票です。