違法薬物に手を染める入り口「ゲートウェイドラッグ」とも呼ばれる大麻。大麻に手を出し、少年院に入っている19歳の少年がその胸の内を語りました。

 少年はなぜ手を出したのか、そして、その誘惑や環境から抜け出すことはできるのか…。未成年に大麻が急拡大している背景に迫りました。

■「ノリで勧められて、そのまま」…軽い気持ちから気づけばのめり込んでしまう大麻

 愛知県豊田市の愛知少年院。罪を犯した少年らが、更生に向けて共同生活をしています。

 大麻の所持などで、ここに8か月ほど入っているユウスケ(仮名・19)。

ユウスケ(仮名):
「気持ちの高揚感とか、テンションが上がってきたりって。ほろ酔いに似ている感じなんですけど、体がフワフワしているような感じですね」

 ユウスケが大麻と出会ったのは18歳の夏…。中学を卒業後に就職した建築系の会社の同僚と、海へ遊びに行った時。ほろ酔い状態で、同僚から大麻を勧められて、つい吸ってしまったのが始まりでした。「誘われたから」…。しかし、これをきっかけに、大麻にのめり込んでしまいます。

ユウスケ:
「最初は、悪いものだっていう意識があるんですけど、海外では合法な国があったりとか、そういうところを見て正当化して、罪の意識がなくなっていきました」

■「海外では合法の国がある」…大麻の検挙者の7割が罪の意識薄い若年層

 大麻が蔓延する大きな理由の1つとして指摘されるのが、この「罪の意識の薄さ」です。

 大麻を巡る規制は、国や地域ごとに違いがあり、多くの国が法律で禁止していますが、カナダでは2018年10月から嗜好用大麻が合法化。

 健康被害などのリスクはあるにもかかわらず、「海外では合法」などという言葉から、他の違法薬物と比べ、罪の意識が薄くなっているのが実情です。

 また、愛知県内の大麻の検挙数も、ここ10年の間で急増。特に2020年は、全体のおよそ7割が未成年や20代の若年層で、9月までで既に前年の数を上回っています。

 愛知県警の薬物銃器対策課は「若年層は友人知人等から誘われると断り切れず、周囲の環境に流されてしまう傾向がある。大麻は若年層の間でゲートウェイドラッグ、つまり違法薬物に近づくきっかけとなる場合が多い」と話し、今、特に若者の間で大麻が蔓延していると指摘します。

■「仲介しかやらない、パクられないように」…大麻の売人を紹介できると話す19歳の少年

 大麻の未成年への広がりは、夜の街を取材してもすぐに感じられるほど、日常に迫っていました。

 名古屋・栄の繁華街で1人の客引きの男が「お探しないですか」と声をかけてきました。

記者:
「ハッパ(大麻)とかってありますか?」

客引きの少年:
「一応回せますよ、僕は」


 大麻の売人を紹介できると話すのは、まだ19歳の少年。

客引きの少年:
「僕1回パクられちゃったんで。少年院出てきたばっかりです。なんで、僕はもうプッシャー(売人)やってないです」


 中学生のころから売人をしていたという少年。大麻を売りさばいていたとして、17歳のころ警察に逮捕され、5月に少年院を出たばかりといいますが、大麻との縁は切れていません。

客引き:
「昔プッシャー(売人)で捌いていて、今はもう後輩にやらせて、僕がガッツリ仕入れてるわけじゃないですけど。仲介で仕入れて…みたいな」


 稼ぎについて聞いてみると…。

客引き:
「例えば、仕入れ値プラス1000円(1gあたり)で売ったりとか、10gだったら1万とか。大体仕入れるのが100g単位で仕入れてるんで。ただ、(今は)仲介でつなげることしかやらないです。利益得ていたら、共犯になるんで。たまにメシとか、風俗おごってもらったりとか。現金ではもらわないよっていう。パクられないように」

 少年は、売人も自分と同じ19歳だといいます。

■「酒やタバコの延長線上にあった」…軽い気持ちの月1回が毎日の様に 大麻依存症の恐ろしさ

 使わなくても、様々な形で未成年に付きまとい続ける大麻。愛知少年院で、更生のための指導を受けているユウスケが直面していたのは、その恐ろしい依存性です。

ユウスケ:
「最初の頃は月に1回とかだったのが、1週間に1回とか。捕まる直前は、毎日のように使っていましたね。正直なところ、目の前にモノがあったら使っちゃうと思いますし、誘われたら、断れないと思うので」

 大麻にのめり込み、ひと月に10万円以上をつぎ込んでいった末…。

ユウスケ:
「事件を起こした時に逃げたので、その直後には捕まらなかったけど。そのあと、朝、警察がピンポンしてきて、そのまま“おはよう逮捕”って形で捕まりました」

 保護者と住んでいた家に警察が来たことで、ようやく離れられた大麻。大麻をなぜやめられなかったのか…。ユウスケは「罪の意識が薄かった」と話します。

ユウスケ:
「(罪の)意識っていうのはなくなっていきましたね。他の薬物に比べて安くて手に入りやすいので、お酒とかタバコの延長線上にあったりして、ハードルは低いですね」

■少年院を出ても「また吸うだろ、と友人が多分待ってる」…薬物を断ち切るために今できること

 大麻との関係を断ち切るため、ユウスケが受けているのは、特定生活指導の一環である「薬物再乱用防止プログラム」。

 「大麻をやりたい」という強い欲求が、どんなシチュエーションで湧き上がるのか、そしてそのとき一体どう対処すればよいのか…。一人一人の事情に合わせて、シートを作っていきます。

愛知少年院の濱野智浩教官:
「じゃあ、その対処法として、いま考えていることは何かある?」

ユウスケ:
「適当な理由をつけてその場を離れたり、断ったりとか。ウソでもいいのでその人から離れるのもいいかなと」

 大麻で検挙される未成年のうち、およそ1割は再犯者。少年院では「もし再び薬物に手を染めてしまったら、どこへ相談すればいいか」についても指導します。

 ユウスケをはじめとする少年たちにとって、人生のこのタイミングで、大麻を断ち切れるかどうかは、大きな分かれ道。愛知少年院の濱野教官は、周囲の大人が「サインを見逃さないこと」も大切だと話します。

 濱野教官は、「依存症的行動といって、使っていたときに行っていた行動に、知らず知らずのうちに生活の中で慣れていくと近づいていってしまう。それに気が付いて対処するかしないかで、違ってくる」と指摘しています。

 ユウスケは、「自分が出院しても、捕まる以前僕が使っていたことを知っているので、“また誘ったら吸うだろ”みたいな感じでたぶん待っていると思うので…。大麻を使わずに、できることなら普通に遊びたいですね」

 未成年と大麻。ゲートウェイドラッグから抜け出す出口は、あるのでしょうか。