三重県ではこれまでに、1000人以上に新型コロナウイルスの感染が判明しています。

 その中で、ただ1人実名での公表を希望した女性の思いと、その後の葛藤を取材しました。

 12月8日、津市議会の本会議。

津市議の山路さん:
「PCR検査で陽性になり、議会関係者の皆さまや議会運営に影響を及ぼしましたことを、大変心苦しく思っております」

 三重県内の感染者の中で唯一、実名を公表した1人の女性議員…。公表の「その先」で、彼女が見たのはコロナの現実でした。

三重県医療保健部の担当者(今年9月):
「466例目ですが、この方は50歳代の女性で、お名前は山路小百合議員と聞いております」


 津市議会議員の山路小百合さん(50)。今年9月、本会議の一般質問を終えた翌日に高熱が出て、その後の検査で感染が判明。これまでに感染者が1000人を超える三重県で実名での公表を希望したのは、山路さんただ1人でした。

山路さん:
「ここは正確な情報をちゃんとみなさんにお伝えすることが、いろんな噂が飛び交わなくて、ちゃんと把握していただけると思ったので」


 風評被害を防ぐという、議員としての使命感…。その一方で、1人の子を持つ母としての葛藤がありました。

山路さん:
「公表するってことも、どうかなと思ったんですけど、私は私の人生、家族は家族の人生なので。(子供は)不安ながらも『特定されたりいろんな噂が流されるかな』と言いながらも、同意をしてくれました」


 去年4月の補欠選挙で初当選した新人議員の山路さん。

 この日訪れたのは、過疎化が進む地域で赤字続きの温泉施設。

 町おこしに取り組む男性と賑わいを取り戻す方策を話し合っていると、話題は「コロナ感染」に…。

男性:
「実際どうやったんですか?結構大変やったんすか?熱出るとか」

山路さん:
「えらかったですし、肺炎っていう印象だったので、すごいゲホゲホして」

 一見、取り留めのない会話ですが、山路さんは周りの人が感染への不安を抱いていないか、自分の存在が怖くなるといいます。

山路さん:
「今お伺いしていいのだろうかとか、自分がそういう意味で不安になる。相手の方がどう思って見えるのかとか」


 実際、感染を公表して以降、過去に立ち寄った店のSNSにアップされた写真から、根も葉もない噂が飛び交いました。

山路さん:
「一番つらかったのは、『イベントに一緒に行きます』と告知をした方とか、そういうような方が、そこに私が行っていなかったりもしたのに、噂が立ったり」


 風評被害に苦しむ「コロナの現実」。山路さんは、こうした不安を常に抱える現場にも足を運んでいます。

三重県看護連盟の西川会長:
「子供を幼稚園預けていると、お母さんがその病院に勤めていると、『うつるんじゃないかな』と言われると。それでもう隠さないかんと」


 看護師の連盟で知った医療現場の切実な声…。

 議員や行政は、風評被害に苦しむ医療現場を支援する立場にありますが、そこに「すれ違い」があることも知りました。

鈴木三重県知事(今年5月):
「医療従事者のご尽力に県として報いるため、5万円または3万円のクオカードを、感謝のメッセージを添えて支給することとしました」

 三重県が医療従事者に支給したクオカード。現場で闘う医師や看護師などに向けたメッセージが添えられていましたが…。

三重県看護連盟の西川会長:
「知事のメッセージ入れて渡してもらったらしいんですけど、それをもらった看護師が『地元で使えない』と。『それを出すとコロナで対応したということが分かってしまう』と」

 県の支援策と、差別や偏見にさらされる医療従事者のすれ違い…。

西川会長:
「(コロナ感染を)体験されたから、訴える力も強いので、ぜひ頑張ってください。ありがとうございました」

山路さん:
「ありがとうございます」


 コロナに感染した当事者だからこそできること…。現場の声が山路さんの背中を押していました。

山路さん(12月8日の市議会本会議):
「(感染者は)周りに感染をさせないか心配したり、社会復帰はどうしたらどうすればいいのかと、肉体的にも精神的にも弱っている存在です。決して感染者が悪ではありません。まして犯人としてつるし上げられるような存在ではありません」