様々な業種が新型コロナウイルスの影響を受けていますが、その1つが航空業界です。

 中部国際空港を拠点に、国内外4路線を運航していたエアアジア・ジャパンも運休が相次ぎ経営が悪化、10月に「日本からの撤退」を発表。夢だった「空の仕事」を奪われた客室乗務員たちが再び歩き始める姿を取材しました。

■解雇の客室乗務員「このフライトが最後かもと」…エアアジア日本からの撤退を表明

 10月31日、中部国際空港。シンボルカラーの真っ赤な制服を着たエアアジアの客室乗務員が、家族と共に別れのイベントを行っていました。

客室乗務員の女性:
「正直悲しいという気持ちが大きいですけど、次のところでも頑張っていきたいなって」

客室乗務員の母親:
「今までよく頑張ってくれて。この制服姿が見られないと思ったら寂しいです」


 笑顔の彼女たちですが、多くがこのイベントの数日後、解雇されることを知っていました。

 新型コロナで大きな打撃を受けた航空業界。国内の大手航空会社も巨額の赤字を抱え、従業員の雇用を維持するだけでも精一杯の状態。その先行きは厚い雲に覆われています。

 エアアジアの客室乗務員だった長谷川有華さん(32)。この日、思い出に自身の「最後の制服姿」を写真に収めていました。

長谷川さん:
「初めて袖を通した時とか、初めて就航してお客様を乗せた時とか…。いろんな思い出が詰まった制服です」

 2017年に、中部空港に就航したエアアジア。その2年前、長谷川さんは1期生として入社しました。幼いころからの夢だった客室乗務員。今年7月からは客室乗務員の訓練教官となり、更なるステップアップを望んでいた、その矢先でした…。

長谷川さん:
「コロナが広がるにつれて、今日のフライトが最後になるんじゃないかっていう気持ちは、隠しながらも持っていました」

■夢の職場から一転ハローワークへ…求人票には航空業界とは縁遠い業種ばかり

 コロナに夢の仕事を奪われた長谷川さん。航空業界へのこだわりを持ちながら、向かったのはハローワーク。

長谷川さん:
「安定を求める自分と、やりたいことを追い求めたい自分と、すごい葛藤がありますね」


 掲示されている求人は、航空とは縁遠いものでした。

 エアアジア・ジャパンでは二百数十人いた従業員の大半が解雇。ハローワークにもかつての同僚の姿がありました。この同僚は、年収は大きく下がるものの、航空関連の仕事が見つかり、引き続き中部空港で働くといいます。

ハローワークの職員:
「どうですか、お仕事探しは進んでみえます?」

長谷川さん:
「面接は行っています。もうちょっと探したいなと」

 差し出されたのはハローワークが作成した、「エアアジアの元社員専用の求人リスト」。一部、航空整備士などの空の仕事もありますが、大半は英語や接客を活かせるような、別の職種がまとまっています。

ハローワークの所長:
「エアアジアさんが大量解雇されたということで、同じような仕事で探すと厳しいでしょうし、再就職を優先するのであれば、ある程度条件を広げてもらって」


 こうしたリストが作られることは、異例だといいます。

■客室乗務員の訓練終えて…直後に「撤退表明」…寸前で夢を打ち砕かれた新人CA

 客室乗務員の訓練教官もしていた長谷川さん。当時の教え子にも再会しました。

長谷川さん:
「最後に見て『合格!』って言ったのがこの子です」

エアアジアの入社一年目だった女性:
「訓練終わって、次の週に撤退表明。GoToも盛り上がってきてよし頑張るぞって時だったので、すごく悔しかったです」


 長谷川さんから訓練を受けた入社1年目の女性。訓練を終えたところでフライトが消滅、客室乗務員の夢は寸前で実現しませんでした。

同・女性:
「飛行機に乗った時は、厳しい訓練を乗りこえてよかったと思いましたし、これからという時だったので、まだ悔しいです」

 長谷川さんは「自分の訓練教官としての初めての教え子で、思い入れも強い分、もっと伝えたいことがあった」と涙ぐみます。

■コロナに奪われた夢…「何かにつまづいた時は空を見上げ再び前を向く」

 この日の長谷川さんはスーツ姿。今から面接です。

長谷川さん:
「一歩離れて他の業界も見ると、本当に多岐にわたるお仕事があるんだなと思って。ちょっとワクワクしています」


 コロナに奪われた夢…。それでも、前を向いて進みます。

 厳しい局面を迎えている航空業界では、新たな動きが始まっています。JALグループとANAグループは一部の社員を出向。異業種の企業で学びながら復活の日を待ちます。

 一方、LCCのピーチ・アビエーションは、12月24日から中部空港に就航し、札幌便と仙台便の運航を始めました。1月沖縄などへ路線拡大します。

 手作りの“竹あかり”でコロナの終息を願う中部国際空港。そのデッキには最後のお別れに来た、長谷川さんの姿がありました。

長谷川さん:
「思い出のある飛行機なので、どうしても『ありがとう』を伝えたくて…。定年まで働きたかった客室乗務員として。最後までやりたかったっていう気持ちと、これで本当に終わっちゃうんだなっていう…」


 涙で見上げた「コロナの空」。

長谷川さん:
「何かつまずいた時には、空を見上げたりとか、初心に返って色んな思いを整頓できたらいいなと思っています」