2020年、新型コロナの影響で苦境に陥った事業者に支給する「持続化給付金」を巡って、不正受給が次々に発覚しました。

 既に全国で300人近くが摘発されていますが、それ以上に多いのが「不正受給をした」など、自首を含む相談です。愛知県警によると、相談のおよそ6割が20代以下の若者といいます。

 友人に誘われて不正受給し、その後自首をした女子大生は後悔の念を込めて「背負って生きていく」と話しましたが、彼女はなぜ、安易に不正受給に手を染めてしまったのか。そして、なぜ不正受給がここまで若者の間で広がったのか、取材しました。

■「100万円もらえる」きっかけは幼馴染からの電話…犯罪だと確信しても引き返せなかった後悔

 国の持続化給付金の不正受給に手を染めてしまった愛知県内に住む大学3年生のリサ(仮名)さん。

リサさん(仮名):
「仲のいい友達が複数人グループであるんですけど、『100万円もらえる話がある』みたいな。最初は『お金がもらえる話がある』って話していて、やらないかって声をかけられたのがきっかけでしたね」

 きっかけは2020年6月、幼馴染の男性からの電話。疑いはあったものの、一緒に誘われた友人3人と話すうちに軽い気持ちで始めました。

 その後、指示されるままに必要な書類を準備する中で、疑いは強まっていきましたが、申請のための会場に行ったところで、それが「犯罪」であることを確信しました。

リサさん(仮名):
「今となってはわかるんですけど(給付金の申請会場だとは)全然知らなくて。もうしっかり(会場の)旗に書いてあるので、『持続化給付金サポート』みたいな。あ~もう、法に…(犯罪に)手を染めてしまったなって」


 リサさん(仮名)は犯罪だと分かった段階で誘われた男性に、『これ(事件の記事)と酷似しているが、詐欺ではないか』と問い詰めましたが、男性からは『バレないから大丈夫』と言われたといいます。

 犯罪だとわかっても、なお引き返せなかったリサさん(仮名)。そこには、学生ならではともいえる仲間意識がありました。

リサさん(仮名):
「(犯罪だと)分かっていて、薄々気付いていた。確信を持った時に、たとえ仲良くてみんなやるからって、『私はやめる』って身を引けなかったのが後悔というか。(誘った男性はお金を)もらっているんじゃないかなって。証拠がないから想像になってしまうのですけど、やっぱり自分に利益があることじゃないと、そんな仲の良い友達いっぱい誘わないじゃないですか、詐欺と分かっていて」

 申請からおよそ1週間。リサさん(仮名)の口座には持続化給付金100万円が振り込まれました。そしてそのうち50万円を手数料として男性に渡しました。

リサさん(仮名):
「(誘った男性が)詐欺グループの方と会える状態だったと思うので。彼に『その人に渡すからちょうだい』っていう形で言われたので。手渡しでしたね」

■「あなたが言わなければバレなかった」…信頼していた友達の本性が露わに

 大学生を中心に多くの若者に広がった、不正受給の勧誘。犯罪と気が付きながらも、誘いに乗ってしまった大学3年生のリサさん(仮名)は、給付金が入金された数日後、両親に犯行を知られました。

リサさん(仮名):
「実家に(支給を知らせるハガキが)届いて両親が見て、何これ?って問い詰められて、正直にその場で泣きながら答えて…」


 リサさん(仮名)はその後、一緒に申請した友人3人と共に、両親に付き添われ警察に自首。返金手続きを済ませ、現在も警察からの取り調べが続いています。

 なぜ罪を犯してしまったのか…。大切にしていた友情は、思っていたものではありませんでした。

リサさん(仮名):
「普段から仲良くて信頼している友達の言葉だったので。頭では(犯罪だと)分かっていたけど、信じたかったじゃないですけど、変な友情みたいなのがあって…。悪くは言いたくないですけど、『私が(親に)言わなかったらバレなかったじゃん』って今、言われている状態で。いい意味で彼らの本性を知るきっかけになりました」

■「不正受給してしまった」…自首を含む警察への相談約2800件 76億円以上が返還

 2020年5月から受付が始まった国の持続化給付金制度。新型コロナの影響を受けた事業者を支援するため、一定の条件を満たせば、個人事業者の場合100万円が支給される制度。

 しかし、全国でが不正受給が相次ぎました。これまでに全国で276人が摘発され、被害額は2億円を超えています。

 さらに、警察に寄せられた自首を含む相談は約2800件。これまでに76億円以上が返還されました。

 愛知県警もこれまでに税務署の職員など3つのグループ、10人を逮捕。それぞれ知人などを勧誘し、あわせて850人以上に不正受給をさせ、報酬を得ていたとみられています。

  特に10代から20代の若者の間で広がり、逮捕・起訴された岩堀新大被告ら愛知大学の学生2人も、20人以上の学生などを巻き込んでいたといいます。

■手当たり次第に大学生を誘う詐欺グループ…薄い罪の意識が「不正受給」の拡大を助長

 起訴された岩堀被告から、実際に勧誘を受けたという男性(22)から、話を聞くことができました。

岩堀被告から勧誘を受けた男性:
「小学校入ってすぐくらいに仲良くなって、彼自身もノリ良くて、親しみやすい感じだった。普通に電話がきて『給付金って知っている?』って、単純に『50万もらえるやんね』って、そういう感じで誘われた」

 簡単な申請で50万円もらえると、持ちかけてきた岩堀被告。必要な書類や、手続きの流れをわかりやすくまとめたマニュアルが送られてくるなど、迅速な支給のために簡素化された手続きを逆手に取って犯行を繰り返していたとみられています。

 しかし、個人事業者の給付金は100万円のため、詳細を尋ねると「別の話」を持ちかけてきました。

同・男性:
「上にも手続きする人がいるから、その人たちにも50万のうちのいくらかが行くっていう話は聞きました。僕も提案されたのが『色々給付金のこと広めて、自分でいくらか手数料つけて稼げるよ』って」


 男性は、岩堀被告から不正受給の仲介をやらないかとも誘われたといいます。

同・男性:
「僕も最初聞いたときは『すごいじゃん、いいね』って魅力的に思ったんですけど、よくよく考えたらこれアウトじゃない?と思って。僕は『やめるわ』ってことで流したんです」

 薄い罪の意識が拡大を助長したとみられる、不正受給の勧誘…。それは、街を歩く学生にも広がるなど、驚くほど日常に迫っていました。

 記者が実態を取材するため、街で声をかけた大学生も、持続化給付金の不正受給の勧誘を受けていました。

大学生(20代):
「(誘ってきた人は)手当たり次第というか、色んな人を誘っている感じです。(誘いを受けたのは)大学生が多いです。急に『やる?40万円もらえるけど?』って言われて。あまりうまい話ないなと思って、危ないなと思って、『やらん』って言いました」


 これまでに369人が愛知県警に、自首や相談をしていて、このうち6割あまりは20代以下の若者です。(愛知県警12月22日時点)

 今回、取材に応えてくれた大学生のリサさん(仮名)は、後悔をしながらも「警察に行ってよかった」と話します。

リサさん(仮名):
「安心というか、やっと全部言えるし。まだ逮捕って決まったわけじゃないけど、未成年じゃないので前科がつくって考えると…。これから社会復帰も警察の方も『若いから全然できるとは思うし、それはあなた次第だよ』って言ってくださるんですけど…。それでもやっぱり偏見というか、人の見る目は変わってくるとは思うので、仕方がないことだと思って背負って生きていこうと思っていますね」

 本来なら、まもなく就職活動が始まるはずのリサさん(仮名)。現在は大学を休学し、将来についても白紙だといいます。戻らない時間と、過ちの重みを感じています。