環境や経済、貧困や差別など社会が抱える様々な問題について、17の目標を掲げ、2030年までに達成しようという取り組み「SDGs(持続可能な開発目標)」。その目標の1つに「つくる責任、つかう責任」があります。

 名古屋市に、親子3代にわたって愛される“木のおもちゃ”を作り続ける「平和工業」があります。このおもちゃメーカーが作る、素朴で温かい木のおもちゃには、未来へのヒントがありました。

■44年のロングセラー商品も…無着色・無塗装の木のおもちゃを作り続けるメーカー

 名古屋市昭和区の「平和工業」は、大正15年創業のおもちゃメーカーです。子供が安心して遊べるよう、無着色、無塗装の木のおもちゃを作り続けています。

 口の部分と尾びれが交互に合わさっていくことで積みあがっていく、まるでアート作品のような「さかなブロック」(2750円)に、「プカプカ金魚すくい」(1540円)などのオリジナルの木のおもちゃが並んでいます。

 その中でも、子供が上に乗ったり手押し車にしたり、パズル遊びもできる「森のパズルバス」(1万4300円)は、発売以来44年のロングセラー商品です。

平和工業 3代目の大野晴正さん:
「長くおもちゃを作り続けないと伝承になりませんので、売れる時と売れない時がありますけど、じっと我慢しながら作り続けるというのが大事かなと」


 3代目の晴正さんは、1000人の中で1人でも支持してくれたらそれは立派なおもちゃと話します。

 2020年10月に発売したばかりの新商品が、赤ちゃん用の“ガラガラおもちゃ”「森のラトル」(1540円)です。無塗装で、表面がスベスベ。赤ちゃんが握りやすく、咥えやすいサイズにこだわりました。

■植林後に放置され荒れ果てた山々…地域が植えた木材を加工 商品にして里山に貢献を

 岐阜県郡上市の工房「キナリ」。地元の木にこだわり、おもちゃや日用品を作っています。ガラガラおもちゃの「森のラトル」はここで作られています。丸みをつけて、柔らかい肌触りにするために入念に磨きます。使っている木材は、山桜、ヒノキ、ブナの3種類です。

キナリの野村さん:
「割れがあったり節があったりで、あまり活用されない材料を使えるところだけ。(使える部分を)木取ってそれで製品にしていくモノづくりをしています」


 野村さんは綺麗な木材でなく、加工し終わって細くなった木材でも、節を避けながら最後まで使えるといいます。

 工房では、すべて岐阜県産の木材を使用。地元の郡上や、高山の製材所から仕入れています。

野村さん:
「近くに木材が買えるところがある方が、実際に見に行って、少しの量でも購入することができるというメリットですね」


 岐阜県は、面積の81パーセントが森林で、45パーセントが人工林です。戦後の復興や高度成長期に高まった需要にあわせ、スギやヒノキを伐採し、植林しました。しかしその後、外国産の安い木材におされ需要が減り、木は切られずに放置され、故郷の山は荒れ果てました。

野村さん:
「人工林が多いということは、元をただせば人が植えたということなので。人が植えたものは、僕たちでなんとかしていかなきゃとは思います」


「地域の木材を買って、加工して、商品として出ていく。結果として少しでも里山に貢献できるのであれば嬉しい」と野村さんは話します。

 木のおもちゃで遊んだ子供が、いつか木の家を建ててほしい。野村さんの夢です。

■親子3代受け継がれる木のおもちゃ…息子が成長し友人に譲ったおもちゃが再び我が家に

 木のおもちゃを作り続けて94年。平和工業の倉庫には、これまで作ったおもちゃの部品が保管されています。

平和工業3代目の大野さん:
「お客さんが部品がなくなっちゃったと、そういう時にすぐに出せるように。だんだん“物を大事にする”、そういう風潮が出たのかな。やっぱり社会が変わってきたと思うんです」

 全国から届くお礼の手紙…。おもちゃの修理の依頼が増えています。

(平和工業に届いた手紙)
「とても大切なおもちゃでした」
「3家族に渡って愛用しています」
「30年前、私が遊んでいた車に娘が乗って遊んでいます」

 平和工業が44年前から作っている「森のパズルバス」を、親子3代にわたって使っている家族がいました。

 愛知県一宮市の木村さん一家。40年前に作られたベストセラーのパズルバスで、孫たちが遊んでいます。

息子の佳紀さん:
「こうして直していただけて、自分の息子とか甥っ子とかが遊んでいる姿を見ると、すごい嬉しいですね」

 祖母の幸江さんは38年前、息子の佳紀さんのためにパズルバスを買いました。その後、佳紀さんが成長すると、他の家にパズルバスを譲りました。やがて孫が生まれると…。

幸江さん:
「おばあちゃんのお家で使ったらどうと、お友達がくださったんですけど…。昔見たのと似てるねと話をして」

 幸江さんの友人が譲ってくれたのは、あのパズルバスでした。40年近い時を経て、幸江さんの家にパズルバスが帰ってきたのです。

幸江さん:
「すごくうれしくて、思わず同じポーズで写真を撮りました。直せるものなら直して使わせてあげた方が、新しいものを与えるよりも、いいかなと思ったんです」

 木のおもちゃが教えてくれる、未来へのメッセージ…。「モノを大事にすることは地球を大事にすること」。

平和工業の大野さん:
「モノを大事にすることは、大きく言えば国を大事にすることです。新しいのを買ってくださいではなくて、誰かにずっとぐるぐる回って使い続けるのが、一番いいおもちゃ。そのおもちゃはとても幸せなおもちゃだと思うんですね」

工房「キナリ」の野村さん:
「自分の子供とか孫の代まで受け継げれば、この流れはずっと循環して続けていけることなので。そうなれば必然的に山を管理して、必然的に環境を守ることに繋がっていくのかな」