文化や芸術にも深刻な影響を及ぼした新型コロナウイルスの拡大。休止を余儀なくされる公演が多い中、名古屋の劇団がコロナ危機を逆手に取って、ソーシャルディスタンスを維持しながら鑑賞できる新しい舞台を作り活動しています。その劇団の密回避の秘策は「のぞき穴」でした。

■コロナで軒並み舞台は休演に…ダンサーとしての仕事は9割減少

 愛知県にある小牧市公民館で、一風変わった舞台が行われていました。幻想的なダンス、舞台を丸く囲む壁、そこにある穴から覗き見る人たち…。ウィズコロナ時代の新しい鑑賞様式です。

 名古屋市中村区を拠点に活動する劇団「月灯りの移動劇場」。主宰者は、ダンサーの浅井信好(37)さんです。

浅井さん:
「ダンサーとして残った企画が1個しかなかったんですよ。だから、結果的には(仕事は)1割くらいだけ残ったのではないか」

 浅井さんはこれまで、フランスなど世界をまたにかけて、前衛的なダンスのパフォーマンスを行ってきました。しかしこの1年、新型コロナの影響で予定されていた公演は軒並み休演。ダンサーとしての仕事は9割ほど減少しました。

■感染対策と舞台を両立…ソーシャルディスタンスを保つ新たな鑑賞スタイルを構築

 そこで浅井さんらは、ソーシャルディスタンスを保つ、コロナ禍に対応する舞台芸術を作りました。円形の舞台、そこを囲む黒い板はドアで、出演者と観客を仕切る壁となります。

 郵便受けと覗き穴から、中の出演者を“覗き見”するというスタイルです。

 公演前日。会場では浅井さんと劇場スタッフが30枚のドアを円形につなげ舞台を組み立てていました。4時間後、舞台は完成。客と客との間にも仕切りが設置され、まるで個室のような客席から安心して舞台を観劇できます。“覗き見”してみると…。

(リポート)
「すごく視界が限定的で、ドキドキしてきますね」

 会場の小牧市公民館は、コロナで多くの公演が中止や延期になりました。そのような状況下で、密を避けるアイデアで待望の公演が実現しました。

■「出演者から覗き返されているような臨場感」…客は思い思いの角度から覗き見る

 迎えた本番当日。30席のチケットは完売、客はそれぞれの個室のような区切りの中に座っていきます。

女性客:
「感染に対しての安心感があると思います」

別の女性客:
「無観客での動画配信とかは見ますけど、生で見ることはなかなかないのでありがたいです」

 照明が落ち、演目「ピーピングガーデン(覗き見る庭)」が始まりました。小さな穴の向こう側に広がる幻想的な光景。庭の住人が、1人ずつ思い思いに遊んでいます。

 出演者を見つめる穴からの眼差し。観客はドアの隙間や鍵穴から、思い思いの角度で舞台を覗き見、切りとっています。

女性客:
「演じられる方がすごく近くに感じて、ドキドキしました」

別の女性客:
「普通の舞台だと、(演者が)みんなを見ているような感じですけど、個人的に覗き返されているような感じがして、すごく面白かった」


 “覗き見”で観賞する事により、普段の舞台鑑賞にはない効果が出ているようです。

浅井さん:
「コロナがあったおかげで、副産物じゃないけど新しい鑑賞形式、新しい視点があるって発見させていただいたので、感謝しています」


 コロナで生まれた新しい鑑賞様式。生の舞台を求めている人がいる限り、挑戦は続きます。