貧困や差別など世界が抱える様々な問題について、17の目標を掲げ、2030年までに達成しようという取り組み「SDGs(持続可能な開発目標)」。その目標の1つに「飢餓をゼロに」があります。

 30年後に世界の人口は97億人となり、現在の2倍の食糧生産が必要となります。注目されているのが“昆虫食”です。

 愛知県豊田市にある創業93年の八丁味噌の老舗は、食用コオロギを使って作られた醤油の製造販売を始めたり、廃校になった小学校の教室を移設して食育をするなど持続可能な企業を目指しています。

■そのままより発酵させた方が旨味が増す…「コオロギ醤油」1か月で400本完売のヒット

 愛知県豊田市。創業93年の八丁味噌の老舗「桝塚味噌」。蔵の中には、大きな木樽が並んでいます。

野田さん:
「桶の微生物、蔵の微生物の力を借りて、お味噌が勝手に育っていくので、味噌を造るとは言わず、育てると言っています」

 「味噌は造るのではなく、育てるもの」と話すのは4代目の野田好成さん。

 大量生産ではなく、昔ながらの製法にこだわって天然醸造の味噌や醤油を造り続けています。スギやヒノキの桶がおよそ400個。中には100年近く使っている桶もあります。

 桝塚味噌が、2020年11月に発売した新製品が「コオロギ醤油」(1680円)です。1か月で400本が完売しました。

野田さん:
「(桶のフタを開け)コオロギを使用したお醤油、香りが一気に、ちょっとフルーティーだったりするかもしれません」

 見せてもらったのは、大豆の代わりに粉末状のコオロギを米麹とともに、9か月ほど熟成させた醤油の素となる“もろみ”。発酵すると、メロンのような甘い香りになります。野田さんは最初、「こんなに香り立つんだ」とその香りに驚いたといいます。

 絞り出した醤油は、さらに1か月ほど熟成させれば完成です。透き通った薄口しょうゆと、少し濁りのある濃口の2種類。

野田さん:
「(薄口は)旨味がしっかりした醤油。白身魚のお刺身とかに非常に合います。(濃口は)魚醤とか、お魚で作られる醤油に近かったりもします」


 どちらもコオロギが入っているとは想像もできない味です。

 コオロギは大豆よりたんぱく質の含有量が多く、発酵させると旨味を感じるグルタミン酸を引き出します。コオロギ醤油は1本あたり482匹を使用。食用に養殖した2種類のコオロギを独自の配合でブレンド。3年間、試行錯誤し完成させました。

 野田さんは、「コオロギはそのまま食べるより、醤油のように発酵の力で分解することでうまみが出る」と話します。

■老舗の味噌蔵が始めた未来の主役のためのサステナブルな取り組み

 枡塚味噌は、戦時中、戦闘機の格納庫だった建物を味噌蔵に改装。

 そもそも味噌づくりはサステナブルな営み。木桶は、初めは酒作り、次に醤油、最後に味噌と、100年がかりでリサイクル。役目を終えた桶は、蔵の壁などに使われています。

 さらに野田さんは、趣味を生かして、木桶でサーフボードまで製作しています。そして、こんな取り組みも…。

野田さん:
「廃校になった小学校から、机や椅子を頂いてきて…」


 味噌蔵の奥に、廃校になった小学校の教室を移設。ここに年間2000人以上の子供たちを招き、食育をしています。

野田さん:
「未来の主役、この子たちに素敵な日本を残してあげたいのが私のゴールの1つであるので、実現するためにどうやっていくか、色々トライしているところです」