新型コロナウイルスの蔓延で街の喫茶店も厳しい状況が続いています。その影響は店にパンを卸す会社にも広がっています。

 普段はライバル同士の業務用パンメーカー3社がタッグを組んで一緒に喫茶店文化を盛り上げようと、小倉トーストのアレンジレシピを開発するプロジェクト「小倉トースト100変化」を始めました。

■4つの手作りジャムが楽しめるトーストが人気…コロナ前には長い行列できた店も苦境

 名古屋駅の東に店を構える、老舗の純喫茶「コーヒーハウス かこ花車本店」。この店で若者を中心に人気なのが、「シャンティールージュスペシャル」(ドリンク代プラス350円※モーニング時間)です。

 小倉あんをはじめ、ホイップクリームや、季節ごとに変わるコンフィチュールまで自家製にこだわった小倉トーストです。

 コロナ感染拡大前には、このメニューを求めて長い行列ができていましたが、客足は少しずつ戻りつつあるものの、以前に比べると厳しい状況が続きます。

 その影響はコロナの感染拡大以降、喫茶店へ食材を卸す企業にも暗い影を落としていました。

■ライバルからの“いいね”がきっかけ…ライバル3社がタッグ組み「小倉トーストプロジェクト」始動

「コーヒーハウス かこ」が使うパンは、愛知県小牧市にある「本間製パン」が作っています。コロナ感染拡大前には、食パンだけで1日1万本を製造。東海地方の喫茶店約3000店に出荷する、業務用のパンメーカーです。

本間製パンの担当者:
「最初に緊急事態宣言が出た時は(売上が)6割ぐらいに落ち込んだ時もありました」

 売上が回復しない中、この日、本間製パンにやってきたのは愛知県で業務用のパンを製造している「永楽堂」と「エースベーキング」です。本来ならライバルの企業が、それぞれ自社の食パンを持参していました。

 目的は「小倉トーストの試作会」です。ライバル関係にある業務用食パンメーカー3社がタッグを組み、小倉トーストのアレンジレシピを考案。喫茶店文化を再び盛り上げるべく、「小倉トースト100変化」というプロジェクトを始めました。

 プロジェクトのきっかけは本間製パンの担当者が、永楽堂のツイッターに“いいね”したことでした。

永楽堂の担当者:
「本間製パンからすごく“いいね”がたくさんついて、もしかしたら今なら仲良くやれるんじゃないかなと思って」

 名古屋市瑞穂区にある永楽堂は、喫茶店向けのパンでは愛知県内のシェア3位のメーカー。根っからの小倉トーストファンの広報担当者が、本間製パンに送ったメッセージから「共同プロジェクト」は始まりました。そして…。

本間製パンの担当者:
「じゃあ『エース』さんも呼ばないといかんねと。大手3社なんで」 


 2社から声をかけられたシェア2位の清須市の「エースベーキング」は、「喫茶店業界が好転することが第一」と快く誘いを承諾。

 こうして、合わせて5000以上の喫茶店にパンを卸しているライバル3社が手を握り、小倉トーストのアレンジレシピを100通り提案するプロジェクトが始まりました。

■味や食感を変えて3度楽しむ「小倉ひつまぶし」など…試作会で提案された『オリジナル小倉トースト』

 レシピの提案は、企画に賛同してくれた一般の小倉トーストファンも参加し、オンライン会議で何度も行われました。

小倉トーストファンの男性:
「小倉にウコンを混ぜて欲しいです」

同・女性:
「思い切って鶏肉。照り焼きとか」

同・別の男性:
「ブランデーをかけて燃やすとか」


「あんかけをかける」「小倉トーストをテレビ塔の形にする」など…。次々にアイデアが出てきます。

 アイデアが出尽くした所で、3社でのべ2日間に渡り試作会は行われました。実際に様々な独創的な小倉トーストが作られました。

 1つ目は、「小倉ひつまぶし」です。まずは小倉あんだけで、次はナッツやシナモンをトッピング。最後はミルクコーヒーをかけていただきます。

 人気の名古屋めしから着想した、これまでにはない小倉トーストです。

 アツアツにしたぜんざいを、鉄板に乗せたバタートーストにかける「鉄板小倉トースト」や、トロトロにしたラクレットチーズをトーストにかける「おぐらくれっトースト」など、SNS映えも狙ったメニューが次々と試作されていきます。

 最も評価が高かったのが、「小倉モンブラン」です。マロンクリームの代わりに使うのは、ラム酒でのばした「こしあん」。ホイップクリームを使って積み上げたトーストに、タップリと絞り出します。見た目はモンブランケーキのようですが、栗は頂上に乗せたもの以外は一切使っていません。

 予想外においしいメニューが続出。試作会は盛り上がりを見せました。

■ラム酒のかけすぎも…程よくフランベした大人の小倉トーストも無事採用

 他には…。

試食会に参加した男性:
「(これは)『お蔵トースト』だ」

 ラム酒に浸した小倉トーストを鉄板で焼きながら、更にラム酒をかけてフランベした「大人の夜の小倉トースト」。どうやらラム酒をかけすぎたようですが…。ラム酒が控えめにすればいけると、無事採用となりました。

 次は丸くくり抜いた食パンを積み上げ、塔の形にした「小倉テレビ塔トースト」です。トーストと言いながら焼いていないパンを使っていますが、「小倉トースト100変化」に特に決まったルールがないため、こちらも採用となりました。

 そしてトーストの上に辛いあんかけソースと、甘い小倉あんを乗せた「あんかけ小倉トースト」。

試食会に参加した男性:
「合うよ。全然小倉が邪魔してない」

同・別の男性:
「うん、おいしい。これいい」

 小倉あんは、意外に辛いものや塩っぱいものとの相性が良く、こちらも採用となりました。

■ライバル3社のタッグの先に見えたもの…愛知の喫茶店文化を共に支えたい

 2020年11月から始まった、小倉トーストプロジェクト。のべ4か月かけ、100種類のアレンジメニューが完成。広く活用してもらうため、「小倉トースト100変化」のホームページで全てのレシピが公開されています。

 行列ができる喫茶店、「コーヒーハウス かこ」のマスターが、この「100変化」の中で最も気になったメニューは「小倉とクリームチーズのとろ~りフレンチトースト」です。実際に試作してもらいました。

コーヒーハウス かこ花車本店の店主:
「フレンチ小倉トーストは斬新なアイデアで、名古屋らしいあんことクリームチーズがよく合うと思います」

 普段はライバルで話す機会もなかった3社の初めてのタッグ。思わぬ効果もありました。

試作会に参加したエースベーキングの社長:
「普段はライバルですけど、例えば仕事のやり方も知る事ができて、うちに足りないものとか会社の課題とかもよく分かりました」


「みんなで、愛知の喫茶店文化を小倉トーストで盛り上げたい」と3社の担当者は話しています。