多くの海外からの留学生が今、日本で勉強に励み、そして就職しこの国を支えてくれています。名古屋の大須には、異国の地で不安を抱える留学生を支援する男性がいます。

 銀行振込や郵便物など生活の些細な事から、アルバイトや就職まで…。彼らの様々な相談に応じる「何でも屋」の男性の元には、多くの留学生たちが集まってきます。

■留学生に月額1万円でランチ食べ放題を提供…外国人を支援するネパール料理店の店主

 名古屋市中区の下町・大須。三田村幸雄さん(42)は、ネパール料理店「サードプレイス」を経営しながら、留学生を中心に外国人を支援しています。

 店で人気のランチは、豆のスープがセットになったネパールの家庭料理「カナセット」(500円税抜)です。

ネパール人の留学生:
「(来るのは)1週間に、1週間くらい。毎日」

 客の多くはネパールからの留学生で、1コインで故郷の味をお腹いっぱい堪能できます。この男性は、会計の際に1枚のカードを見せました。

別の留学生:
「メシのカードです。これ見せたら、現金いらない」

 この店が行っている、留学生限定のサブスクリプションサービス(月額1万円)。このカードがあれば、毎日ランチが食べ放題です。

■1人1人の悩みにも真摯に耳を傾ける…ネパール人留学生を助ける「何でも屋」

 留学生たちが三田村さんの店に来るのは、ランチタイムだけではありません。1人の留学生がやってきました。

ネパール料理店「サードプレイス」三田村幸雄さん:
「どう?手は。電話あった?言わないと会社って動かないから」

 この留学生はアルバイト先の野菜工場で、カートで指を挟みケガをしていました。来日したばかりで医療費が払えないこの留学生のために、三田村さんが立て替えてあげました。三田村さんは、こうして1つ1つ留学生の悩みに対応しています。

三田村さん:
「頼ってきてくれている以上は、そうせざるを得ないんですよね。彼らができないことは何でもやらないと」

 留学生たちの暮らしを助ける、大須の「何でも屋」です。

■人手不足の時に「ネパール人留学生」が助けてくれた…恩を返すために支援活動をスタート

 以前は外食チェーンの社員として店長をしていた三田村さん。慢性的な人手不足で、悩んでいたその時に出会ったのが外国人留学生でした。

三田村さん:
「人手不足を救ってくれたのが留学生。さらに絞って言うとネパールの留学生。それに対する恩返しでこの活動を始めた」

「日本には外国人の力がもっと必要になる…」。そう確信した三田村さんは、2016年に会社を辞めて留学生の支援を始めました。

「銀行振り込みができない」「郵便物がよくわからない」。留学生から持ち込まれる相談は様々です。三田村さんは、それに1つ1つ丁寧に対応していきます。

■同胞の不安につけ込む外国人も…先輩ネパール人から詐欺に遭った留学生

 2019年から導入された「特定技能」制度。介護や外食業といった特定の職種の試験に合格すれば、その職種での就職が可能になりました。この特定技能を目指し、日本での就職を望む多くの留学生が勉強に励んでいます。

 この日は就職を夢見る1人の留学生が三田村さんを訪ねてきました。この留学生はある犯罪の被害にあっていました。

 入国3年目、ネパール人留学生のスレスタ・スディップさん。「仕事を紹介する」と持ち掛けてきたネパール人に、SNSを通じて総額15万円を騙し取られました。しかしすぐには三田村さんに相談できませんでした。

三田村さん:
「(犯罪に巻き込まれた)履歴が残ると、ビザはダメになるんじゃないかって。勘違いと言えば勘違いなんですが…」

 微妙な心理に付け込み、先輩ネパール人が同胞である後輩のネパール人に詐欺行為を働いたのです。

スディッブさん:
「就職するつもりで来たので。普段だったら信じなかったけど、全部だめになったからその時は…。その人を信じて15万払っちゃった…」

 外食業での特定技能資格を持ち、日本語試験で2番目に難しいレベルにも合格していたスディップさん。新型コロナの影響で就職が決まらず、焦りを感じていたところでした。

 スディッブさんは帰国しようとしましたが、コロナの影響で飛行機も飛ばず、ままならない状況が続いていました。

■「できることは全て自分で」…ネパール人留学生の自立心も養う

 この日の三田村さんは、留学生のアルバイト探しのお手伝い。留学生が電話をかけるのを見守ります。

留学生:
「こんにちは、モシモシ。私の名前はビンです。アルバイト、しますか?」

アルバイト先の採用担当者:
「アルバイトのご応募でよろしかったですか?」


 自分だけでなく、何とか仲間と合わせて6人分の面接へのエントリーができました。

採用担当者:
「あなたの携帯の番号を教えてください」

留学生:
「チョットマッテネ!」

三田村さん:
「『少々お待ちください』だろ…」

「できることは自分で」。「何でも屋」といっても、電話を代わったりはしません。

三田村さん:
「楽に仕事を見つけてほしくはないので。苦労して手に入れた仕事だから、辞めたらダメなんだって思わないと」


 外国人の周りには助けてくれる人はほとんどいない。だからこそ自分の力で頑張ってほしいと三田村さんは話します。

■「家族のようにお世話を」…デイサービス施設に内定し目を輝かせる留学生

 三田村さんと詐欺被害にあったスディッブさん。この日、名古屋市天白区のデイサービス施設を訪れました。

スディッブさん:
「日本で家族もいないし、ここで自分の家族のような…大事にしてお世話をします」

デイサービス施設の社長:
「わかりました、よろしくお願いします」

 スディッブさんは、勉強を続け介護でも特定技能試験に合格。この施設で正社員としての内定をもらいました。

スディッブさん:
「スレスタ・スディッブです。ネパールです。長野県(出身)ですか?私、行ったことあります。いい所です」

 利用者の皆さんに、流ちょうな日本語で挨拶します。

スディッブさん:
「ネパールではお年寄りのお世話をするのは、神様のお世話をするのと同じだという考え方があるので」

「就職できず不安だったけど、これから頑張ります」と目を輝かせるスディッブさんに、三田村さんは優しく微笑みかけます。

■「ドアの外で今よりももっと近くで」…店の前に出した「たこ焼きの屋台」に立つ

 三田村さんは、2021年1月から新たな取り組みを始めました。店の前に大須の仲間と、下町らしいたこ焼きの屋台を出しました。

三田村さん:
「ここに立ちたいんですよ。店の中にいるんじゃなくて。中にいたらドア1枚開けないといけないじゃないですか」

 ここにいれば、学校から帰る子たちにも「おかえり」と声をかけられる。今より、もっと近くで…。留学生たちの暮らしを助ける、大須の『何でも屋』です。