雑誌の付録が進化しています。女性誌には、もはや付録とは言えないクオリティのリュックや、ミニ美容家電まで付いています。

 一時不振に陥った90年の歴史を誇る幼児向けの雑誌は、キャラクターものの付録から「ATM」やスーパーの「セルフレジ」など、日常生活にある身近なものを本物さながらに再現した付録にして復活しています。

■「ぬいぐるみポーチ」まで…宝島社が力を入れるハイクオリティーな「雑誌の付録」

 街で雑誌の付録について聞きました。

女性:
「コスメとかも、付録でお試しみたいな感じであるので」

また別の女性:
「付録目当てで買ったり。コスメポーチとか、使い勝手も良かったです」


 書店の女性誌のコーナーには、付録が付いた多くの雑誌が並びます。収納ボックスにマスクのセット、それにミニ加湿器まで。もはや当たり前となっている豪華な付録が付いたこれらの雑誌は、「宝島社」発行のものです。

 人気雑誌『リンネル』の最新号の付録は「肩からかけられるエコバッグ」です。

雑誌「リンネル」の編集長の西山さん:
「(読者が)手で持つストレスを感じていらっしゃると…。肩にもかけられるエコバッグがあればと」


 またセブン-イレブン限定の増刊では、人気キャラクター「『ひつじのショーン』のぬいぐるみポーチ」が。

 最近、特に反響の大きかったのは「ミッフィーのクッション」が付録だった2021年4月号です。

 数日で完売しました。付録とは思えないクオリティーです。

■付録きっかけでファン獲得…編集長「単にオマケでなく特集と同価値のコンテンツ」

 宝島社の雑誌は大半が1000円以上。月刊誌としては若干高めですが、その金額以上と思わせる付録が付いてきます。

 宝島社が豪華な付録を付けるようになったきっかけは、約20年前、ビーチボールを付録にした男性ファッション誌が大きな反響を呼んだことでした。

 その後、全雑誌に毎号付録をつける事を決定。「付録付き雑誌」という新しいジャンルを確立しました。

 付録はブランドの監修を受け、「使用感」にこだわって制作されています。例えば「大人のおしゃれ手帖」の付録のリュックサックは、重いモノを背負っても負担が少ないよう、肩掛け部分に中綿を入れ、しっかりホールドできるようになっています。

 作りもしっかりとした付録を武器に、宝島社は女性ファッション誌部門で10年連続シェアトップ。2020年の上半期の販売部数ではトップ4を宝島社が独占しました。

「付録はオマケではなく、雑誌の特集とほぼ同じ価値のコンテンツ」と話す西山さん。読者の目も肥える中、期待にこたえられるよう、「毎月ビクビクしながら付録作りをやっている」そうです。

■本物作る企業とコラボし生まれた「セルフレジ」…雑誌『幼稚園』の付録へのこだわり

 女性誌以外にも付録の効果で人気の雑誌があります、小学館が発行する幼児雑誌『幼稚園』です。

 過去には、公衆電話にATM、アイスの自販機など、幼児向けとは思えない精巧な付録で話題を呼んでいます。

 小学館の付録一筋20年の雑誌『幼稚園』副編集長の大泉さんに、特別に発売前の5月号の付録を見せてもらいました。それはスーパーなどにある「セルフレジ」。本物さながらの精巧なデザインだけでなく、実際に動きます。

 紙で作られた商品を本体にスキャンすると、レジスターからスキャン音と価格を読み上げる音声が。そして、液晶パネルには、ランダムに値段が表示されます。

さらに買い物を終えると、レシートまで出てきました。レシートに書かれている文字も、本物さながらです。

 このセルフレジは、POSレジスターなどを手掛ける企業「東芝テック」とコラボして製作。実際の企業とコラボすることで、よりリアルに再現されています。

大泉さん
「カゴ置き場を、我々は地面と平行に作っていたんですけど、東芝テックさんからちょっと角度を付けた方がカゴは安定しますよと」


 試作品と完成品を比べてみると、確かに角度が変わっています。

 本物のセルフレジを設計するプロからのアドバイスはすぐに反映。大泉さんは「プロからアドバイスをもらえるのは大きなメリット」と話します。

■子どもたちにウケるのは身近なモノ…販売部数不調からの復活

『幼稚園』の創刊は1932年。約90年の歴史を誇ります。66年前の誌面にも「付録」の文字があり、当時から付録が売りの雑誌でした。

 しばらくの間、人気のキャラクターものの付録を続けていましたが、5年ほど前から部数が伸びなくなり不調に。

 ピンチに陥った『幼稚園』。「何か違うことをしないと」と試行錯誤した末、3年前に生まれたのが、くら寿司とコラボした「かいてんずしつかみゲーム」でした。

 初めてモーターを付けたこの付録は、話題を呼びました。対象が幼児でありながら、モーターを付けたこの高度な付録が生まれたきっかけは、大泉さんのある日常の一コマでした。

大泉さん
「くら寿司に行った時に、お子さんがキャッキャと喜んで注文したりお寿司取ったりしているのを見て、これはウケるんじゃないかと」

「身近なものこそ、子供たちにウケるはず」。大泉さんのそのひらめきが、ヒットに繋がりました。

 大泉さんは、「親も知っている社会に存在するもので、子供が触りたくても触れないものを、おもちゃの様にデザインするのではなく、そのままリアルに再現する。子供は大人が使っているものと同じものを使いたいという願望があるので」と成功の秘訣を話します。

■子供たちに紙の手触りを…電子書籍にはない「紙の雑誌」の強み

 これらの付録がスタートすると、それまで数年に一度ほどだった完売が、一年に数回のペースになり、雑誌「幼稚園」は見事復活。

 以来、企業コラボ路線が続き、最新号の付録は「セルフレジ」に。実際に作ってみると、大人でも45分以上かかる精巧さです。

 そもそも、これらの付録は親子で一緒に作ることを想定しており、作りながら親子の会話が生まれることも狙っています。リアルで組立ても難しいから、大人も楽しめる、「親世代の心もつかむ」戦略も隠れていました。

「まずは紙の手触りを子供に体験していただいて。リアルな紙の付録がつけられるのは電子書籍にはない強み」と話す大泉さん。

 電子書籍などに押される出版業界。子供たちに紙の手触りを。大泉さんは、街で付録化できそうなものはないかと日々探しています。