新型コロナウイルスは日本の歴史にも影響を与えています。三重県・多度大社の「上げ馬神事」。700年続く伝統の祭りですが、今年中止に追い込まれました。織田信長による焼き討ち以来、実に400年ぶりのことです。

 時は、二つの朝廷が同時に存在した“南北朝時代”。若武者の馬術をめぐる競い合いに始まったと言われる「上げ馬神事」。高さ2mの壁に向かって一気に坂を駆け上がる勇壮な姿は、見るものを圧倒します。

 700年以上続く天下の奇祭「上げ馬神事」。4年前の祭りで、乗り子を努めた水谷さん。馬にまたがり坂道を駆け上がりました。

 自身もかつて乗り子の経験がある父親も、息子の勇姿に喜びもひとしおでした。

水谷さん:
「平成28年に乗らさせてもらいました。上がった直後は何が何やらって感じですよね…放心状態。上がってしばらくしたら、すごい嬉しかったですけど」

父親:
「そりゃ嬉しかったですよ、何とも言えなかったです。自分が上がったときの数十倍嬉しかったですね」

 しかし今年、新型コロナウイルスの影響で祭りは中止になりました。大勢の見物客が密集することを避けるためです。

父親:
「まさかこんな時が来るとは…。今年に関しては寂しいの一言ですね」

 代々、上げ馬神事に奉仕してきた水谷家…。

父親:
「(乗ると)1人前じゃないけど、ホントに自分が大人になったなという一つの階段として、騎手はそういう位置づけというか」

 乗り子は毎年4月1日に多度大社で行われる神事で選ばれ、本番までの1か月間、馬に乗る訓練や自身の修行を積み重ね上げ馬に挑みます。

水谷さん:
「平日は朝4時半から、土日も毎日やりますね」

父親:
「(朝の練習が終わって)各々学校に行ったり職場に行って勤めたりして、夜は夜で馬の装飾品とかをみんなで作るんですよ。本当にここの地区の人が全員一致団結して毎年ご奉仕させていただく」

 地域で700年もの間守り続けてきた伝統の祭り。実は、過去に一度だけある武将の行いによって祭りが行われなかった時期があります。その武将は…織田信長。

 今から450年ほど前の1571年に、この地を平定するため多度大社は焼き討ちに遭い、上げ馬神事は途絶えてしまいます。

 断絶の期間は40年に及びましたが、1612年に復活。以来400年以上太平洋戦争の期間中も途切れることなく続いてきました。

水谷さん:
「これ(花笠)は親父が作ってるんです」

 乗り子がかぶる「花笠」は父親が15年以上作り続けてきましたが、今年はその花笠作りもありません。

父親:
「1年の中でも仕事や遊びと一緒に過ごしていく中で祭りは必ずあったので、もう人生の1つになってるよな。(上げ馬神事は)やりたいんですけど、今年というのはこれだけコロナで亡くなった方とか、まだまだ病院に入院されている方がみえて、人命に関わってくるので…」

 地域の人たちにとっては、結婚や出産と並ぶほどに大切な行事である「上げ馬神事」。それを執り行う多度大社の宮司・杉原さんも中止を重く受け止めています。

宮司の杉原さん:
「皆さんこれだけ楽しみにしている、一生懸命神様にご奉仕して、騎手に選ばれる子たちも非常に誇りをもってやりますので。予想もしてなかったですね。普段ですと地区の方や青年会の方が神社に来て、話があるような状況なんですけど…。これだけ静かな年はないですね」

 祭りに集まる人の数は2日間でおよそ20万人。県外から帰省する人も多く、地元で何度も話し合い断腸の思いで中止を決断しました。

宮司の杉原さん:
「これで絶えるわけではないので、一度中止になったということは、非常に残念で仕方がないですけど、来年に向けて皆さん気持ちを1つにして、頑張っていかれると思います」

 信長による焼き討ちから民衆の力で復活した「上げ馬神事」。見えない敵・ウイルスにも負けず、来年こそは再び馬が跳ねる姿を力強く見せてくれるに違いありません。