カヌー・スラロームの東京オリンピック日本代表の羽根田卓也(33)選手には、高校時代の親友がいます。その親友は2008年に交通事故に遭い意識不明の重体になりましたが、5か月後に意識が回復。その後、懸命のリハビリを続けています。

 共に励まし合ってきた2人。2016年のリオ五輪でアジア勢初のメダルを獲得した羽根田選手が、帰国後真っ先にメダルをかけたのは、その親友でした。

【画像20枚で見る】カヌー羽根田「お前にも負けてないぞという姿を」事故後懸命のリハビリ続ける親友との約束

 東京で叶えたい、2人の約束。4度目のオリンピックに挑む羽根田選手は、親友と共に表彰台の頂を目指します。

■技術力で水の呼吸をよむ…「地の利」が強く影響する競技カヌー

 2019年12月。東京オリンピックの会場で羽根田選手はカヌーに乗り、コースの確認を行っていました。カヌーは「地の利」が強く影響する競技で、実際のコースを熟知した選手が有利なため、事前にトレーニングできる機会は貴重といいます。

 全長約200メートルのコースで、ポールに接触すると2秒のペナルティ。激流の中、いかに早く正確にカヌーを操るか、東京を制すには技術が求められます。

羽根田選手:
「(自分は)他選手よりも体格が小さかったりするので、そういった面を水の呼吸をよむという技術面で補う」

 世界で勝つための技術力です。

■どれだけ盗んで自分のものにするか…世界ランク1位の選手と切磋琢磨

 2020年3月、真夏のオーストラリア。羽根田選手は自ら志願し、ある選手と合宿を行っていました。当時世界ランキング1位のスロバキア代表スラフコフスキー選手です。正確なライン取りと華麗なパドルさばきの技術は世界一といわれています。

スラフコフスキー選手(日本語訳):
「羽根田選手はとても速いので、私たちはよりいいタイムを出すための競争ができています」

「強い選手と練習できるのは何よりもプラス」と羽根田選手。

羽根田選手:
「彼をライバルだからって敬遠するのではなくて、彼からどれだけのものを盗んで自分ものにするか」

 世界最高の技術を求め、すべては東京で勝つためです。

 高校卒業後、単身でスロバキアに武者修行に出た羽根田選手。信頼を勝ち取り、今はスロバキア代表チームと一緒に練習しています。

■「お前も早く元気になるって約束しろ」…事故にあった親友と約束したメダル

 世界で戦う羽根田選手の励みとなっていたのが、かけがえのない親友の存在でした。

 高校時代の同級生・中西拓馬さん(33)。プロ野球選手を目指していた拓馬さんでしたが、2008年に交通事故に遭い、意識不明の重体。生きるか死ぬかの瀬戸際でした。北京オリンピック直前、羽根田選手はスロバキアから駆け付けました。

羽根田選手:
「当時、意識がなくてしゃべれなかったので…。自分が北京オリンピック行く前で、彼の分までと大げさなこと言うつもりはないですが、自分に今までない気持ちが生まれましたね」

 眠ったままの拓馬さんに「約束」。

『メダル取ってくるわ。お前も早く元気になるって約束しろ』

 2008年北京五輪。初めてのオリンピックは予選敗退。約束は果たせませんでした。5か月後、奇跡的に意識を取り戻した拓馬さん。そんな拓馬さんを励ましたのが、羽根田選手でした。

 4年後の2012年、拓馬さんは、車椅子でロンドン五輪の会場に駆けつけました。結果は7位。またしてもメダルには届きませんでした。そんな羽根田選手を励ましたのも拓馬さんでした。互いに支え合う2人の絆です。

羽根田選手:
「あいつ握力強いんですよ、昔から。握手するときは握りつぶす覚悟で、やつの手を握らないと手がやられますよ」

■親友に届けた約束のメダル…カヌー競技アジア勢初のメダル獲得

 2016年のリオオリンピックで、羽根田選手はアジア勢として初の銅メダルを獲得。空港で待ってくれていた拓馬さんに約束のメダルをかけることができました。

羽根田選手:
「やったよ!」

中西さん:
「そうか!そうか!」

■歩いて東京オリンピックへ…2人が交わした新しい約束

 4年後。2人には新しい約束が出来ていました。

拓馬さんの母親:
「約束してたみたいで、立って歩いて(東京オリンピックを)見に行きたいって」

 自分の足で東京オリンピックを見に行きたい…。拓馬さんの夢です。

羽根田選手:
「そりゃあ見に来てくれないと困りますよ。見に来て欲しいですよ、友達には」

中西さん:
「卓也頑張れよ、頑張ってメダルとれよ。メダルとってくださいよ。上しかないから」

羽根田選手:
「お互い頑張り合うじゃないですけど、自分の方が頑張ってるぞとね。今回の大会でもお前にも負けてないぞという姿を見せられるように頑張りたいと思います」

 2008年北京14位、2012年ロンドン7位、2016年リオで銅…。東京の舞台で、羽根田選手は親友と共に頂点を目指します。