愛知黎明高校・野球部の名将・金城孝夫監督が掲げるのは“人間教育”です。金城監督から指導を受け、最後の夏にベンチ外となった3年生の部員は、悔しさを胸にしまい、仲間のためにグランド整備をしていました。チームは4回戦で敗れましたが、最後の夏を笑顔で終えました。

■子供たちの人生は野球だけでない…甲子園で優勝経験もある名将が掲げる“人間教育”

 愛知県弥富市にある愛知黎明高校の野球部。3学年あわせて84人のチームを率いる金城孝夫監督(67)は、かつて沖縄尚学高校の監督として、甲子園優勝の経験もある名将です。指導方針は“人間教育”です。

【画像20枚で見る】活躍した3年生を最後の夏ベンチ外に…甲子園知る名将の心を育てる野球

金城監督:
「子供たちの人生って野球だけではないから、野球をとっても何かが残る、社会で通用するものを身につけてもらいたい」

■監督からの信頼を取り戻したい…練習で手を抜き信頼を失った選手

 2021年3月、トレーニングに真剣に取り組んでいない選手がいました。

金城監督:
「坂井、寝とけ。やらん方がマシ…。グラウンド整備させた方がチームのためになる」

 監督から叱られていたのは3年生の坂井裕樹君(18)です。2020年の夏の大会では背番号をもらうなど期待されていましたが、今年に入って外されることが増えました。

 坂井君は練習中に手を抜くことがあり、金城監督からの信頼を勝ち取れずにいました。そして、気持ちが入っていないことをコーチにも見抜かれていました。

コーチ:
「メンバーに入っていない奴らでも、一生懸命頑張ったやつがすごいと思う。やり切れよ。泣くな、泣いて何があるんだ、その悔しさの分練習しろ」

「やり切ったことに意味がある」。コーチから指導を受ける坂井君。

坂井裕樹君:
「1つのプレーから信頼が無くなってくるので…。信頼を取り戻すためにも声出したり、朝早く来て…。アピールしていかない限りは信頼も取り戻せないと思うので」

 最後の大会でメンバーに入りたい…。この日から練習にも前向きに取り組むようになりました。

■必要なのは技術ではなく人間性…練習試合で大活躍もメンバーから外された理由

 6月、坂井君は練習試合に先発として出場のチャンスをもらいました。すると、4安打の大活躍で最後の大会のメンバー入りへ猛アピール。

 しかし、数日後のメンバー発表の日。

金城監督:
「技術でせっかくチャンスをつかんだと思ったら、日常生活、練習姿勢が…。この状況でメンバーに選んだら、人生にプラスにはならない。だから、メンバーを外してでも教えなきゃいけない」

 部員84人のうち、メンバーに入れるのは20人。坂井君の「最後の夏」、メンバー入りは叶いませんでした。

坂井君:
「先生が人間性を謳っている中で、その人間性で外されるのはとても悔しいことで…。最後まで粘って頑張ってきたんですけど…」

 坂井君は、前日に練習中にふざけているところを監督から注意を受けていました。

■悔しさを胸にしまい…グランド整備などでチームを積極的にサポート

 メンバーから外れたもう1人の3年生今野陽斗君(18)は、なかなか試合出場のチャンスがもらえなかったものの、最後までメンバー入りを目指して頑張ってきました。

 大会直前。グランドには、チームのためにサポート役を買って出た今野君の姿がありました。そして、坂井君も気持ちを切り替え、グラウンド整備にあたっていました。

坂井君:
「メンバーがケガをしないように。水をまいたり整備をして、1つでも貢献できたらと」

■ベンチ外した意味を理解し頑張れ…名将が「最後の夏」に送るメッセージ

 夏の甲子園の愛知県予選。順当に勝ち上がり、迎えた4回戦。中盤までリードしますが、6回に投手陣が相手打線につかまり、愛知黎明高校の夏は終わりを告げました。

「ここで仲間と学んだ事を忘れないで、たくさんの人から受けた恩を人生で成功して返してもらいたい」。試合後、金城監督は3年生に最後のメッセージ。

金城監督(坂井君に):
「自分で分かっているな。先生が最後にベンチ外した意味を、理解してもらいたい。頑張って」

 最後のミーティングのあと、金城監督は3年生を連れて保護者のもとへ。坂井君は、これまで女手ひとつで育ててくれたお母さんに、感謝の言葉。

坂井君:
「最後はプレーしている姿を見せられなかったけど、大学で野球を続けるので見守ってください。ありがとうございました」

坂井君の母親:
「頑張ってやってくれるのを期待しています。お疲れさまでした」

 そして、メンバーに入れず号泣していた今野君。

今野君:
「プレーをみせることができなかったけど、就職して恩を返すのでこれからもよろしくお願いします」

今野君の父親:
「自分が選ばれなかった時に悔しかったと思うけど、それを押し殺してみんなをサポートすると言った時は、俺はうれしかった。2年半お疲れさまでした」

 メンバーから外れた今野君と坂井君ですが、笑顔で最後の夏を終えました。