「催事は1,2年やめると後が続かない…」夏祭りに並ぶ行灯“たんころりん” コロナ時代だからこそ絶やさぬ灯
愛知県豊田市足助町の夏祭り「たんころりんの夕涼み」では、伝統工芸品の行灯“たんころりん”が街道沿いに並び、人々は外に出て夕涼みを楽しみます。
各地の夏祭りが中止や規模を縮小する中、今年のたんころりん祭りは、通常の規模で開催されました。月の夜、道々を照らすたくさんのたんころりん。コロナ時代の夏祭りには、行灯の明かりに願いを込める人々の姿がありました。
■2年ぶりに祭り開催…伝統工芸品“たんころりん”が街道沿いに並ぶ
古い町並みを照らす優しい灯りが、豊田市足助町の夏の風物詩”たんころりん”。およそ1.5キロの街道沿いに、竹かごと和紙で作られた行灯が並び、風情ある夜の町並みを堪能することができます。
【画像20枚で見る】街道沿いに並ぶ伝統工芸品の行灯“たんころりん” コロナ時代だからこそ絶やさぬ夏祭りの灯
今年は感染症対策をして、通常規模での開催に踏み切りました。
午後6時。店先のたんころりんに明かりが灯されると、祭りの始まりです。灯りに誘われるように、観光客がやって来ます。
豊田市から来た女性:
「自治区のお祭りも中止になっちゃったので、コロナで。記念になってよかったです」
小牧市から来た男性:
「すごく綺麗です、風情があって。去年から結局、全然お祭りみたいなのに行けなかったので」
2年ぶりの夏祭りです。
■近所付き合いで始めたイベントが町をあげての夏祭りへ…20年前に祭りを立ち上げた男性
この祭りは、足助町出身の河合康男さん(70)が20年前に立ち上げました。
たんころりんの会の河合康男会長:
「この田舎で、何か人が集まることがやりたいなって…。住んでいる人が(外で)井戸端会議みたいな雰囲気がとれる町にしようじゃないかと始めました」
当初は近所付き合いで始めた小さなイベントでしたが年々住民が集い、町をあげての夏祭りになりました。しかし、去年はコロナで規模を縮小…。今年は人が密集する花火大会やアルコール類の販売などをやめて、通常規模での開催に踏み切りました。
河合さん:
「イベント自体っちゅうのは、1年2年やめちゃうと、あとが進んでいかんくなるじゃんね」
■モチーフにした和菓子も…たんころりんに込められた住民の思い
祭りの灯で町に活気を…。住民たちの思いも同じです。
和菓子店の長橋透さん
「正直うれしいです。足助の人じゃない人と会話ができたり、知り合いができたりして非常にありがたいです」
創業55年の和菓子店を営む長橋透さん(59)は、祭りを盛り上げようとある商品を考案しました。祭りのシンボルをモチーフにした和菓子「中馬街道たんころりん」(270円)です。
長橋さん:
「『これなんだ?たんころりん!』ってお客さんから気付いてくれる。喜んでもらえるっていうのは楽しいですよね」
町の暗闇をコーヒー味のわらび餅で、灯りをカスタードクリームで表現しました。冷やして食べると固めのプリンのような食感です。
「たんころりん祭りと一緒に育ってきた」というこのお菓子は、実物そっくりの見た目で観光客の間で人気商品になりました。丹精込めた和菓子でおもてなしです。
長橋さん:
「ふっと、たんころりんの並びを見た時に肩の力が抜ける。日本人の心の中にあるDNAをくすぐってもらえる灯り、なんとなく見たことあるような灯りであってほしいっていう思いは、始めた時から思っています」
実物のたんころりんも、住民一人一人が足助産の竹を編み、和紙を張り手作りしています。コロナ収束を願い、アマビエが描かれたものなど、個性豊かなものが並びます。
和菓子も、行灯も…。1つ1つに、心が込められています。
■夜の町に浮かぶ「鬼滅の刃」…江戸時代の建物と令和のアートのコラボ
中根千代子さん(73)が営む創業86年の書店の店先には、12個の「たんころりん」が並びます。そこにあしらわれているのは、人気アニメ「鬼滅の刃」のキャラクターです。
中根さん:
「(建物の)前のところは格子になっているんですよ。障子に、(絵を)切り抜いて貼って、奥で光をあてるとこういう風に出てくるんです」
切り絵を障子に張り照明を当てると、夜の街に浮かび上がります。江戸時代の建物と令和のアートのコラボに、思わず観光客もうっとりです。
中根さん:
「この町がにぎわってくれればいいと思って…。ほとんどの人が『すごいきれい』って言ってくれるので嬉しいですね」
毎年、製作に2か月かけます。2014年には「アナと雪の女王」、2019年には「ラグビーワールドカップ」を題材にしました。
流行の「切り絵アート」で、来てくれた人たちをもてなします。
■”たんころりん”は孫の成長の証…祭りに参加して20年の洋菓子店女将の思い
午後7時半。すっかり日が暮れると、祭りは佳境を迎えます。20周年で初めて、たんころりんの特別ステージを設置。バイオリンやハープなどの音色に、住民も観光客も酔いしれます。
洋菓子店女将の加藤さん:
「いっぱいあったシュークリームもプリンもみんな売り切れちゃった」
創業70年の洋菓子店の女将、加藤美子さん(69)。店を休みにした去年に比べると、今年はたくさんの人が来てくれて、全く様相が違うと話します。祭りに参加して20年…。店先には、歴代のたんころりんが並びます。この20年間での思い出を聞きました。
加藤さん:
「やっぱり孫の成長だね。たんころっていうと(孫が)着物を一番に着て外へ出て。竹灯りをやってて、結構お写真、撮っていただいて…」
家族一同が集まる夏祭り。たんころりんに描かれた“じいじ”や“愛猫”の絵。毎年、孫が描いてきたといいます。
加藤さん:
「本当に家宝ですよ。これがあってお祭りがある、大事にしなくちゃね」
加藤さんにとって、たんころりんは孫の成長の証です。
■足助の町に灯る600以上の灯り…”たんころりん”に込める願いや思い
今年は、足助の町に600以上の灯りが灯ります。地元愛を込めた“たんころりん”に、子供が手がけた“たんころりん”などがあります。
職人の匠の技で作られた“たんころりん”や、おもてなしの心を込めた“たんころりん”も…。
工具店を営む女性(72):
「観光客の方たちが足助に来るとほっとしますね。大勢の方来てくださるし、それが一番の楽しみですね」
観光客の女性(59):
「たんころりんも毎年同じものじゃないので、見ていてすごく楽しいですよ」
別の観光客の女性(32):
「光があったかいなと思って、すごく心が綺麗になった気がします」
午後9時。祭りは終わりますが、明かりを灯し続けます。
たんころりんの会の河合康男会長:
「何事も続けていかんことには…。維持していくってことが一番難しい。四苦八苦しながら、みんなが喜ぶようなたんころのイベントにしていきたいなと思っています」
コロナ時代だからこそ、絶やさぬ祭りの灯…。そこには、”たんころりん”に願いや思いを込める人々の姿がありました。