「水の都」岐阜県大垣市のフランス菓子店はこの時季、大垣の夏の風物詩“水まんじゅう”を洋風にしたお菓子が人気です。

 地元産の梨やブルーベリーなどを練り合わせたあんに、大垣の名水を使ったゼリーを注いだ涼しげな「新・水まんじゅう」。その柔らかく絶妙な口どけを生み出すのは職人の技と勘です。

■まるで花が咲いたよう…パティシエが作る涼しげな「新・水まんじゅう」

 岐阜県大垣市の、名神高速大垣インターの北にあるフランス菓子店「ギャルリー シュシュアー」。

【画像20枚で見る】仏菓子店が夏の風物詩を洋風に…パティシエが作った唯一無二の『水まんじゅう』

店内には、宝石のように美しいケーキが揃います。

 客の目の前で作り上げるもっちり食感のケーキ「オムレット」(770円)や、ヨーロッパの“グラニテ”というシャーベット状の氷菓と、日本のかき氷を合わせた新感覚のスイーツ、飲めるかき氷「ボワソン・グラニータ」(550円)など個性的なスイーツが並びます。

 中でも、この時季に人気なのが地元産の果物をあんに練り込むなど、大垣の夏の風物詩をアレンジした「新・水まんじゅう~芭蕉のしずく~」(378円 テイクアウト料金)です。わさび、みかん、ほうじ茶、ブルーベリー、梨、いちごの6種類の味が楽しめます。

女性客:
「暑いなという時に食べたくなる感じです。おいしい」

別の女性客:
「差し上げるとすごく喜んでいただける。食べるのがもったいないなと思うくらい」

 作るのは、フランスで腕を磨いたパティシエの白木亮年さん(46)。白木さんは、たくさんの人に大垣を知ってもらいたいと、フランス菓子職人としてオリジナル水まんじゅうを考案しました。

白木さん:
「フランス菓子店に水まんじゅうがあること自体にまず驚かれますね。その柔らかさを一番表現したいと思っています」

■白あんとブルーベリーのピューレを合わせて…柔らかな口どけを生み出す職人の手仕事

 パティシエが作る水まんじゅう。まずは、あん作りから。海外のものより甘味がしっかりしているという揖斐川町産のブルーベリーをピューレにしていきます。

シロップを加えてミキサーですり潰すと、火にかけて水分を飛ばし、濃度を高めます。焦げつかないようにかき混ぜ続けて30分…。濾して皮などを取り除いたら、冷蔵庫で冷やします。

白木さんは、地元産の果物などで風味あるピューレを作っています。

 続いて取り出したのが“白あん”。洋菓子職人の白木さんには作れない白あんは、隣町・垂井町で高校の同級生が営んでいる和菓子店から仕入れています。あっさりとした甘みの白あんに、ブルーベリーのピューレを混ぜあわせ、手でこねていきます。

白木さん:
「硬さがすごく重要なので、機械だと目でしか見られないので…。柔らかさとか硬さがわかるので、手でやっています」

 目指す柔らかな口どけを生み出すために、手のひらに伝わる微妙な変化を見極めます。

白木さん:
「しっかりしているんですけど、これくらいでおさめておかないと、柔らかい状態だときれいに絞れるんですけど、液体を流したときに開いちゃう。ある程度の硬さは必要」

 絶妙な硬さに練り終えると、バラの形に絞っていきます。一見簡単そうに見えますが、洋菓子作りで一般的なバタークリームとは異なり、あんを絞るのは勝手が違うといいます。

白木さん:
「すごく難しいです。バタークリームは硬さが一定ですけど、あんこは手で均一に混ぜたつもりですけど…。角度を間違えるとたれてしまったりとか…」

 若い頃に何万個と練習したという白木さん。その頃に培った技術があるからこそ、応用が利くといいます。しかも、1つ1つに個性をもたせるために、全ての形を微妙に変えるというこだわりよう。これを冷凍庫で凍らせます。

■年配の方でも食べやすいフランス菓子を…試行錯誤の末に完成した洋風の水まんじゅう

 白木さんは、8歳の時に友人の誕生会で振る舞われたロールケーキに衝撃を受け、パティシエになることを決意。製菓学校卒業後にフランスで修業し、その後名古屋の名店などで経験を積み、15年前に独立しました。

 開業と同時に開発を始めたのがオリジナルの水まんじゅう。そのきっかけは、介護施設からのある依頼でした。

白木さん:
「喉に引っかからないスイーツを作って欲しいと…。ご年配の方なので新しいフランス菓子を作るよりも、大垣で馴染みのあるものでって…。水まんじゅうかなと」

 試行錯誤の末に完成したものの、当初は和菓子の水まんじゅうとずいぶん違う商品に反応はいまひとつでしたが、次第にその美しさが注目を集め、SNSなどで人気が一気に広がりました。

■大垣自慢の水を飲むのでなく食べてもらいたい…大垣の魅力詰め込んだ「新・水まんじゅう」

 こだわりのオリジナル水まんじゅう作りも佳境に。ゼリー作りのために取り出したのは、井戸水です。

 揖斐川などの伏流水が豊富な「水の都」大垣市は、蛇口をひねれば清らかな井戸水が出てきます。この井戸水を主役にと考えた白木さん。沸騰させて風味付けにレモンを加えると、少量のグラニュー糖と海藻が原料のゼリーの素を溶かし合わせます。

白木さん:
「子どもの頃から井戸水で生活してきたので…。大垣のおいしい水を飲むだけではなくて、食べてもらう。口どけ感と水感を出したかったので、体温を36度と考えたときに溶けていくようになっていますね」

 混ぜ合わせたものを程よく冷やし、凍らせたあんを入れたグラスに注ぎます。まるで水中に一輪の花が咲いたようです。

 最後に冷蔵庫で3時間ほど冷やせば完成。白木さんの手仕事が生んだ「新・水まんじゅう」。見た目の美しさもさることながら、水ゼリーのつるんとした食感ととろけるあん。さわやかに広がるブルーベリーの味わいが心地よく喉を潤す、大垣の魅力を詰め込んだ逸品です。

女性客:
「かわいいですね。食べるのがもったいない感じがします」

白木さん:
「ここに来たら、ほかのケーキ店にないものが食べられると思ってもらいたい…」

 白木さんは、オンリーワンの水まんじゅうで、大垣の人たちに笑顔を届けています。