愛知県一宮市に、石窯で焼くピザが人気のキッチンカーがあります。店を営む58歳の男性は、12年前に車に石窯を積み、薪の火でピザを焼くスタイルで店を始めました。

 高温の窯で一気に焼き上げたアツアツの「マルゲリータ」や「チーズのはちみつがけ」。男性は、自慢の石窯ピザで笑顔を届けます。

■訪れた場所は12年で1000か所以上…石窯で焼いた本格的なピザ

 12年前に、愛知県一宮市で始まったキッチンカー「石窯ピザ屋台 ボッケーノ」。店舗を持たず、愛知県を中心に岐阜や三重などにも出向き、ナポリピザを焼いて販売してきました。出店場所は毎日変わり、これまでに訪れた場所は1000か所以上にのぼります。

【画像20枚で見る】“薪のある生活”へ憧れた男性がキッチンカーの石窯で焼くアツアツのピザ

 焼きたてピザを作る若尾直哉さん(58)。この日は、名古屋市中区の「東別院」を訪れました。

若尾直哉さん:
「(週に)3~4日くらいは出ていますね。色んな場所で色んな人と出会えるのがおもしろい」

 午前8時半。看板を出し厨房となる車内を整えると、ピザを焼く石窯の準備です。ピザが美味しく焼ける温度は約350度。薪に火をつけ、ゆっくりと1時間半かけて窯全体をあたためます。

この“薪の炎”こそが、若尾さんが移動販売を始めるキッカケでした。

■薪のある暮らしがしたい…46歳で脱サラし石窯ピザの移動販売店をオープン

 もともと名古屋市内のアパレル会社に勤めていた若尾さんは、40代で管理職になると「このままでいいのか?」と疑問を持ち、46歳で退職。そのとき心に芽生えたのが…。

若尾さん:
「薪のある暮らしがしたくて…。じゃあ山に行って暖炉でとか考えたんですけど、なかなか生活とのバランスがうまくいかず…」

 山での暮らしを家族に反対された若尾さんは、車に積める小型の石窯があることを知り、「これを商売にできないか」と考えました。

「石窯でピザを焼くと毎日薪が焚ける」。若尾さんは、車に石窯を設置しピザの作り方を一から学びました。半年後、東海地方初の石窯ピザの移動販売店をオープン。しかし当時、出店できる場所はほとんどなく苦難の日々が続きました。

 出店場所を開拓し続け2年…。様々なイベントやマルシェなど活動の場を広げていくにつれ、徐々に「石窯でおいしいピザを焼く移動販売車がある」と噂になっていきました。

若尾さん:
「主役はコイツ(石窯)。お客さんも窯の中の炎を見にいらっしゃる方は多い。この炎が好きだっていう方が多い」

■モチモチの生地とチーズがおいしい…高温の窯で焼き上げたアツアツのピザ

 食材にもこだわります。特に自慢なのは、「ピザの命」という生地。国産小麦を使い、ビール酵母で2日間低温発酵。手間もコストも惜しみません。

 午前10時、いよいよ開店。すぐに人が集まります。注文が入ってから、生地を一枚一枚手で伸ばします。手作りのトマトソースに、モッツァレラチーズ。そこに、フレッシュバジルをのせ、パルメザンチーズとオリーブオイルをふったら石窯へ。

 高温で一気に、1分以内で焼き上げます。チーズの溶け方、生地の焦げ具合を見て、少しずつ場所を変えながら付きっ切りで焼きます。数秒違うだけで、仕上がりが大きく変わる真剣勝負です。

 ボッケーノの看板メニュー「マルゲリータ」(800円)。焼き上がりからわずか15秒でお客さんの元に。焼きたてアツアツが提供できるのは、移動販売車ならでは。もう1つのレギュラーメニューは、「4種のチーズのはちみつがけ」(900円)です。

女性客:
「モチモチの生地がおいしい、チーズと。しょっちゅう来ています。大好きです」

 定番メニューの他に日替わりピザは2種類あり、毎回違うメニューが楽しめます。

この日は、「牛すじのカレー煮込み」(900円)に…。

「オイルサーディンとズッキーニ」(900円)でした。

■一期一会を大切に…ピザを焼きながら客とのコミュニケーションも楽しむ

 午前11時半、キッチンカーの前には行列ができていました。若尾さんは、40度をこえる車の中で休む間もなくピザを焼き続けます。

「一期一会。その機会を大切にしたい」。若尾さんは、ピザを焼きながらお客さんとの会話も欠かしません。お客さんは、会話をしたり窯の中を覗いたりと、待っている間も退屈しません。

女性客:
「普通だったら出てくるまでアレ(退屈)ですけど、見ているのも面白い」

 去年はコロナ禍でイベントやマルシェが中止になり、出店回数が激減。この場所にボッケーノが出店するのも、この日が2か月ぶりでした。

女性客:
「おいしかったので、またどっかで出会えたらいいなと思っていたら…」

別の女性客:
「『待ってました!』という感じです」

若尾さん:
「コロナで忘れられちゃって、お客さんが来ないんじゃないか不安はあったので…。本当に嬉しいですね」

■何かを残していけたらな…後輩のためにランチマーケットも開催

 別の日。若尾さんが向かった先は、一宮市にある自宅近くの一角。そこで開催されていたのは、4台のキッチンカーが並ぶ「渋ビル百貨店 ランチマーケット」(毎週木曜日 午前11時~午後2時開催)。コロナ禍で出店場所を失った時に若尾さんが立ち上げ、後輩たちの出店場所として開放しています。

ランチマーケットに出店している女性:
「毎回、(若尾さんに)いろんなことを教えてもらえる。困ったら相談して」

同・男性:
「すごい方なので…。みなさんを巻き込んで色々やってくれていたので。尊敬する先輩です」

若尾さん:
「キッチンカーやっている子たちが楽しんでいる姿を見ると、ホッとするというか嬉しいというか…。後輩たちに何かを残していけたらなと思いますよね」

「記憶に残るピザ屋」をテーマに掲げる若尾さん。石窯ピザで元気と笑顔を届けます。