衆議院議員選挙は、10月31日に投開票されます。与野党の勝敗を左右するポイントは、野党が初めて本格的に候補者を一本化した「野党共闘」です。野党共闘は思惑通りに進むのか…。取材をすると、野党支持者の間に1+1が単純に2にならない複雑な事情がみえてきました。

■共闘すれば勝てるかもという期待感も…立憲候補支援に戸惑う共産党支部

 衆院選の公示を間近に控えた10月13日。愛知県津島市にある共産党の支部で開かれた会合で配られたのは、立憲民主党の候補者のチラシです。

【画像20枚で見る】1+1が単純に2とならず…『野党共闘』愛知9区の野党支持者間に“複雑な事情”

共産党尾張南地区委員会の松崎省三委員長:
「野党共闘で、(愛知)9区は初めて戦うわけで、党内でいろいろ戸惑いとか逡巡はあるし、きちっと意思統一したい」

 参加者の間で、立憲民主党の岡本充功さん(50)を「野党統一候補」として支援することを確認しました。これまで、自前の候補を立てて衆院選を戦ってきた共産党にとっては大きな方針転換です。

共産党員の女性:
「『立憲と組んで大丈夫?』と。『かつてのいろんな党のように、共産党もぐらっといっちゃうんじゃないの?』って心配する声も中にはあるので…」

共産党員の男性:
「今でも迷っている人も少なからずあるんじゃないかと思うんですが、(愛知)9区から自民党を出さないと、そのために(立憲の)岡本なんだと…」

他の共産党員の男性:
「共産党にとっても、これまでやったことない選挙をやるんだし、共産党を支持してきた人たちにも今日の事態を分かってもらって…」

 党員の戸惑いも承知の上で、それでも進める野党共闘。そこには、これまでバラバラに候補者を出していた野党が一つになれば、与党に勝てるかもしれないという期待感があります。

■単純計算で自民候補に勝てる公算も…立憲・共産の支持者の間に横たわる“共闘への抵抗感”

 このところ、津島市や稲沢市などからなる愛知9区では、自民党の長坂康正さん(64)が3連勝中。

 前回2017年の結果だけを見ても、10万4419票を獲得した長坂さんに対し、敗れた立憲の岡本さんの8万9908票に、共産党候補が獲得した2万5489票がそのまま岡本さんに上乗せされた場合、11万5397票となり長坂さんを上回ります。

 今回、立憲の岡本充功さんは、自民の長坂さんとの一騎打ちとなりました。過去の数字の上では有利になる岡本さんは、野党共闘を歓迎しているのかと思いきや…。

Q.共産党とは連携するわけではない?
立憲民主党の岡本充功さん:
「何党だからとか、この党だとああだからとか、そういうことは考えていません」

Q.共産党の支部は支援に動いているようだが?
岡本さん:
「そうなんですか、全く知らないです」

と、少しそっけない感じなのは、なぜなのか。陣営の幹部に聞いたところ、1+1が単純に2にならない事情を話してくれました。

岡本陣営の幹部:
「共産党を嫌がる支援者は多い。共闘というけど、今までの票を減らしたら意味がないでしょう」

 立憲、共産、どちらの支持者の間にも共闘への抵抗感が横たわっています。

■単純に“足し算”されない心理…一筋縄ではいかない「野党共闘」

立憲民主党の岡本充功さん(10月19日):
「コロナ対策を抜本的に変えて、第6波が起こったとしても同じ轍を踏まないようにすることを、皆さんに訴えていきたい」

 衆院選が公示された10月19日、立憲の岡本さんが支援者らと共に出陣式を開いていたちょうどその頃…。共産党の津島市支部では、党員が電話作戦を展開しようとしていました。

共産党員の女性:
「『政権変えないといけないので候補者立てません』と言っている。今回は、初めて候補者立てずに『野党共闘の候補者の岡本さんを応援します』と前段階を言わないと…。そうするとみなさん信頼してくれる」

 古くからの党の支援者らに「野党共闘」の目的を正しく伝え、岡本さんに投票してもらおうと働きかけます。

共産党員の女性:(電話)
「小選挙区は今回共産党から出さずに(立憲の)岡本さんを応援して、野党共闘で議員を増やして絶対変えたいと決意持っている」

 すんなり話をわかってくれる人もいますが、中には理解してくれない人も…。

別の女性党員(電話を切って):
「かなり怒っているよ…。自公を落とすのも理解はできるけど、この人間(岡本氏)は嫌だと。じっくり何回も会って話さないと分かり合えないという感じ…」

 野党幹部が思い描く成果を出すには、地道な説得が欠かせません。

共産党尾張南地区委員会の松崎省三委員長:
「いろいろ思いはありますが、それは抑えて頑張るというのが共産党の方針です。自公政権ではだめと、変えないといけない。達成しようと思ったら、細かい立憲や岡本さんに対する批判はありますけど、そういうのは横に置いておいて大同小異でいくと」

■愛知9区に自民幹部が続々応援に…自民が抱く「野党共闘」への危機感

 対する自民党には脅威に映っているようで、愛知9区には幹部が次々に応援演説に入ります。

自民党の河野太郎広報本部長(10月17日):
「今回の選挙戦、自民党公明党の連立政権をとるのか、共産党を初めて政権に入れるのかが問われます」

自民党の麻生太郎副総裁(10月21日):
「意見の違うところと選挙の協力だけする。そういうのを野合というんです。私どもはそういったところと断固戦わなければならんと思っております」

 きつい口調で「野党共闘」を批判するのは、危機感の裏返し。愛知9区でこれまで勝ち続けてきた長坂さんも、初めての一騎打ちで底力が試されます。

自民党の長坂康正さん:
「与野党拮抗の一騎打ちは、これは大変なことだと危機感を抱いています。自民党公明党の政権与党の姿を、ぜひ引き続いてみなさまにご信頼いただけるかどうか、しっかりとご説明をしていかないといけない」

 愛知、岐阜、三重の全24選挙区のうち、立憲、共産、れいわ、社民、国民民主の5野党は、15選挙区で候補者を一本化させました。

 また全国の289選挙区で見ると、5野党が候補者を一本化したのは213選挙区にのぼります。

 新たな展開に気を引き締める与党陣営。野党共闘は、狙い通りに成果を上げられるのでしょうか。