衆議院議員選挙は、10月31日に投開票されます。コロナ禍で浮かび上がった様々な課題から「デジタル敗戦国」と呼ばれる日本。これまであまり争点にされてこなかった「デジタル政策」について、IT企業や飲食店の経営者を取材すると、“ユーザー目線での行政のデジタル化”を求めていることがわかりました。

■誰でもいつでもあらゆる場所で働ける環境を…大企業がとる「アフターコロナ」の働き方

 10月28日の午後2時頃、東京都内にあるNTTコミュニケーションズの本社を訪れると、地上30階の広いオフィスで働くのは、わずか数人だけ…。緊急事態宣言の解除後も、全国1万8000人の社員のうち8割がテレワークで働いています。さらに、9月28日には…。

【画像20枚で見る】『デジタル敗戦国』と呼ばれて…IT企業や飲食店経営者が求める“デジタル政策”

日本電信電話株式会社の澤田純社長(会見):
「誰でも、いつでも、あらゆる場所で働ける環境を整備いたします」

 NTTグループ全体で、従来の働き方を大幅に見直し、2022年度から「転勤」や「単身赴任」を段階的になくす方針を発表。今後、ネット環境があれば、全国どこでも働くことができるようになります。今回の方針について、2020年2月からテレワークを続ける社員は…。

NTTコミュニケーションズの社員:
「先輩も“単身赴任”嫌だなと言っていたり、せっかく家を買ったのに(転勤で)5年くらい住めないとか聞いていたので、そういうのを考えるといいんじゃないかと思います」

 大企業が大きく舵を切った、「アフターコロナ」の新しい働き方です。

■デジタルの力で地方と都市の差を縮める…政府が掲げる“デジタルのインフラ整備で進める地域活性化”

 浮かび上がった課題もあります。国民1人あたり10万円の「特別定額給付金」では、オンライン申請をめぐり混乱がありました。

 感染者の接触確認アプリ「COCOA」では、不具合が4か月放置されていたことが発覚。デジタルを活用した国のコロナ対応は、トラブル続きに…。

 2020年9月に発表された「世界のデジタル競争力ランキング」(「国際経営開発研究所」調べ)では、1位はアメリカで、5位に香港、8位の韓国など、アジア各国も上位にあります。

しかし、日本は「27位」でした。

そんな中、9月1日には「デジタル敗戦国」の脱却を目指し、デジタル庁が発足。岸田総理も就任会見で…。

岸田総理(10月4日)
「なかなか進まなかったデジタル化の加速など、地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めます」

 デジタルのインフラ整備を進めることで、地域活性化を目指すと訴えました。NTTグループでは現在、試験的に地方への移住を認め、地域活性化に貢献している人もいます。NTTコミュニケーションズに勤めるこの女性は、2021年7月から実家がある大分県で勤務しています。

NTTコミュニケーションズに勤める女性:
「大企業の方ですとか、地方分散が進んでいるなと思っていまして。私自身もこの制度のおかげで、自分のその時の事情に合わせて安心して働き続けることができるのかなと考えています」

 国内外30万人を対象に、テレワークを原則化するNTTグループ。来年度以降には、自宅で仕事場を確保できない人のために、サテライトオフィスを今の4倍、全国260か所以上に増やす予定です。NTT本社に、政治に求めることを聞いてみると…。

NTTグループの回答:
『政府がデジタル化も進められていますが、何より国民ファーストで対応を進めていくことが必要と考えています。例えば、国民1人1人が役場などに直接出向かず、スムーズに様々なサービスを利用できる仕組み等が必要であり、その辺りの整備を期待します」

■各自治体で要求される資料もバラバラ…政治に求めたいのは「デジタルで“行政をスピーディー”に」

 鰹だしが効いた醤油ラーメンが人気の、名古屋市東区の「白壁あおい」では、売上が3割4割減という状態が2年間続いたといいます。

今も厳しい経営環境が続いていますが、時短要請に従い申請した協力金は、まだ2021年6月分までしか振り込まれていません。

「白壁あおい」を運営する企業の代表・澤竜一郎さん:
「ヨーロッパはスピード早いですよね。だいたい申請から1か月以内に(補助金が)振り込まれていたので、やっぱそういう感じでは日本はないので」

 経営者の澤さんは、この店だけでなく「フジヤマ55」の名前で国内40店舗の他、フランスや中国などで38店舗を展開しています。その中で感じた、“日本のデジタル化の遅れ”。

澤さん:
「愛知、三重、岐阜、静岡と(店を)やっていて、まず県ごとの申請の違いというか、統一されていないので。その県独自の時短のルール・申請期間とかあり、常に見ていないと見落としちゃうところもありましたね」

 海外は、ネットでの申請が当たり前ですが、日本では一部を除きほとんどが書類申請だったといいます。さらに、各自治体で要求される資料もバラバラ…。そんな澤さんは、政治に『デジタルを活用して行政をスピーディーにしてほしい』と訴えます。

澤さん:
「行政に書類を取りに行くことも多くて、すごく煩雑だなと…。住民票とか印鑑証明とか、納税証明書とか。それぞれの市と県で、システムを統一してもらうと、もっとスムーズに…」

 衆院選でも、行政のデジタル化については、自民党が「行政手続きを『スマホで60秒』」、公明党が「マイナンバーカード利用による行政デジタル化」、立憲民主党が「行政のDX化推進」と、3党が公約で掲げています。

■「デジタル敗戦国」から抜け出すカギは「ユーザー目線」…IT企業で働く若者たちが描く“デジタル政策”

 デジタルの最前線で働く若者たちは、公約で掲げられた「政策」に何を思うのか…。名古屋市中村区のIT企業「スタメン」。この会社では、自社開発したITサービス「TUNAG(ツナグ)」を、400社以上の企業で導入してきました。

スタメンの取締役:
「チームワーク作りの環境や、仕組みを提供するサービス。社内のSNS的な機能も有している形になります」

 社内向けの書類をWEB上で提出できたり、SNSのように社員同士のコミュニケーションを図ることもできます。デジタルの最前線で働く彼らが政治に求めることは…。

エンジニアの男性(27):
「朝起きた時に『投票行かないとな~』と億劫になることもあるので、ベッドでできると気楽に投票できるなと」

 さらに、「デジタル敗戦国」から抜け出すためのカギは、「ユーザー目線」。つまり、国民の立場になって考えることだと指摘します。

開発責任者の男性(27):
「国民を1ユーザーと捉え、どういう風な使い方がその人にとってベストかを想像して開発するところが重要になってくる」

広報担当の女性(38):
「ITは作って終わりにならないので、ユーザーの『使いづらかった』みたいな声を生かして、どんどん改良してもらえるといいですよね」

「システムの変更は当たり前」。だからこそ臨機応変に対応でき、ユーザーの要望に最大限応えることができる…。開発責任者の男性は、「最初から完璧は難しいため、失敗を許容しながら改善を進めていく認識を社会全体が持てれば、日本の改善スピードもより高まっていくはず」と話します。

 国際社会から取り残されないためにも…。国のあり方を問う衆院選は、10月31日に投開票日です。