名古屋市東区に、15坪の店内にカウンター5席の小さな店があります。有名ホテルの料理長だったシェフが腕を振るうこの店は、1日1組限定です。「黒毛和牛のポワレ」や「フォアグラのミルフィーユ仕立て」など…、お客さんの好みに合わせて作られる本格的な料理は、密かに話題となっています。

■気軽に本格的なおいしい料理を…元有名ホテルの料理長が腕を振るう店

 名古屋市営地下鉄・高岳駅から徒歩10分、国道19号線から1本中に入ったところにある『ダイニング和田』。この店は、コロナ下の2021年6月にオープンしました。

【画像20枚で見る】元有名ホテルの料理長が独立…“1日1組限定のレストラン”「赤字覚悟」のシェフの挑戦

 提供される料理は、とろけるやわらかさの黒毛和牛のローストや、皮をパリっと身はレアにソテーした秋ジャケなどのこだわりの逸品です。

男性客:
「気軽に本格的なおいしい料理が食べさせていただけるのは、この店の魅力です」

女性客:
「おいしかったです。和田さんのお料理が好きで」

 料理の腕を振るうのは、オーナーシェフの和田健さん。29年間働いたナゴヤキャッスルホテルで洋食部門の料理長まで務めた凄腕シェフです。和田さんは、ナゴヤキャッスルホテルが建て替えのための長期休業に入ったのを機に独立しました。

和田さん:
「自分でやるいい機会じゃないかと。ホテルの時は料理しかやっていなかったので、(接客は)得意な分野ではないけど、実際やってみると楽しくて…」

■1日1組限定…客の要望に沿って調理されるこだわりの料理

 コロナ下でも安心して利用できるように、店は1日1組限定です。

和田さん:
「こういう時代なので、密なお店にはしたくない…。自分が納得のいく料理は、1日1組だけ。家族だけとかお知り合いだけの少人数で、安心安全に楽しんでいただけるというのを考えて…」

 そして、自分が納得する料理を提供するための1日1組限定でもあります。お店には、メニューはありません。お客さんから電話で予約を受けると、予算と食べたい料理の要望を聞いて和田さんがメニューを決めています。

 フォアグラ好きのお客さんから、『変わったフォアグラ料理』を要望されて提案したのが、「穴子とフォアグラのミルフィーユ仕立て」です。

フォアグラとアナゴのふわふわ食感に香ばしい醤油ベースのソースがマッチし、これまでにない味と好評だったといいます。しかし、お客さんの要望通りに調理するには、洋食だけでなく様々なジャンルの料理に通じている必要はないのでしょうか。

和田さん:
「洋食が専門ですけど、ホテル時代、まかないを頑張った。いろんなものを作れるようにやってきたから、今があるのかな…」

 ホテルでは、中華やイタリアンなど他の部門の応援や、従業員のまかないの調理など、専門外の料理も多く学んだという和田さん。ちなみに、ホテル時代から最も得意としているのは鉄板焼きです。

和田さん:
「(鉄板焼きは)食材を置いたときに温度が下がらないんですよ。その分フライパンでやるよりも、うま味を逃さない長所があります」

 おいしいお肉が食べたいという要望で作った「黒毛和牛のポワレ」。ミディアムレアで焼き肉の旨みを閉じ込め、口の中で豊かに広がります。お客さんからの評判も上々だったといいます。

■ホテル時代の人脈をフル活用…お肉も効率的に仕入れ

 開店の準備中に、肉の仕入れ業者さんがやって来ました。1日1組だけなので、量は少なめ。普通はその分、割高になってしまいますが…。

食肉卸の業者:
「前職のホテルからずっとかわいがってもらっています。シェフには高いものは出せないですし…。もちろん商品によっては高いものもありますが、その時は『高いな』と言われます」

和田さん:
「もう十数年の付き合いになりますから、結構無理聞いてもらえるので、本当に助かっています」

 ホテル時代の経験だけでなく、慕われた人柄や人脈もフルに活かします。

■お店を知ってもらうため今は赤字覚悟…6000円の本格的な秋のコース料理

 この日、和田さんは店のウリとするべく『秋のコースメニュー』を考案していました。

和田さん:
「『ダイニング和田』をわかってもらうために、ちょっとリーズナブルな秋に特化したメニューをがんばって考えてみました」

 午後6時に、お客さんがやってきました。店は、お客さんの希望する時間にあわせてオープン。滞在時間も基本制限はありません。

 和田さんが考え抜いた秋のコース料理。まずは前菜の『キノコと鴨のリエット』…。

カボチャなどの『季節野菜のテリーヌ』…。

『ウズラの温泉卵トリュフソース』と秋を感じる料理が並びます。

 メインの魚は、和田さん得意の鉄板焼きです。皮はパリっと、身はレアに焼き旨みを閉じ込めた秋サケを、さっぱりと塩レモンソースでいただく「マリネサーモンのソテー つるむらさきと塩レモンのWソース」。ただし、こちらの女性にはサーモンではなく、マダイを提供します。

和田さん:
「サーモンがちょっと苦手だと伺ったので、マダイに変更しました。その人その人の食べたいものを食べてもらうのが、一番幸せだと思うので」

女性客:
「わがままを聞いていただけるので感謝しています」

 “細かくお客さんの要望を受けつける”今までの方針は変わりません。他にも、サバとバジルを使った「セモリナ素麺 サバとバジルのつゆで」。

群馬県産のブランド豚を焼き上げた「真空調理した加藤ポーク マスタードソース 季節野菜と共に」は、余分な脂がなくさっぱりと食べられます。

 シメには、秋を感じる「栗ご飯とキノコ汁」。つけ合わせは、「マツタケ信州みそ和え」です。

デザートは、「自家製洋風栗ようかんとコーヒー」です。自作のコース料理初日は、ひとまず成功しました。ちなみに、この「秋のコース」(12品)は、破格の6000円です。

和田さん:
「ダイニング和田を知ってもらう意味では、あまり敷居が高くないほうがいい…。赤字覚悟でやっております」

 コロナ禍が落ち着き、自信が持てるまでは、1日1組を貫くと話す和田さん。

和田さん:
「面白い食材だったり、おいしい料理で、その都度メニューを変えながらいろんな人に食べてもらえるお店になったらいいなと考えています」

 和田さんは、前向きに楽しみながら新しい挑戦を続けています。

『ダイニング和田』は名古屋市東区代官町にあります。予約は2日前までに必要です。