愛知県犬山市に、店の前で果物や野菜を販売するクリーニング店があります。1玉21円のレタスに、1本64円の大根など…。客からの要望で野菜や花などをお値打ちに売るようになったこの店は、地域の人たちに大人気です。

■レタスが1玉21円…クリーニング店なのに野菜や果物を値打ちに販売する店

 名古屋高速小牧北インターを降りて北に約10分のところにある愛知県犬山市の「クリーニングAmie」。クリーニング店ですが、店の前でミカンや柿など約20種類の果物に、大根やキュウリなど約10種類の野菜を販売しています。

【画像20枚で見る】クリーニング店なのに青果が安い…50年以上商売続ける店主の極意

女性客:
「お値打ちですよね。(スーパーと)全然違います」

男性客:
「限りなく安いと思います。普通にレタス20円とかありえないですよね」

他の男性客:
「今日はクリーニングとみかんですね。(値段が)手ごろで、ずっと常連です」

 この日は、「柿」(1箱22個1080円)に「リンゴ」(1箱18玉1944円)に「レタス」(1玉21円)…。

「玉ねぎ」(1カゴ108円)や「大根」(1本64円)などが販売されていました。さらにお花まで売っています。

 店を営むのは、店主の長谷川政子さん(83)と、娘の千佐子さん(58)です。

■珍しい桃に幻の果実まで…可能な限り客のリクエストに応える

 店は、可能な限りお客さんからの要望も聞いています。

女性客:
「『もし、仕入れが出来れば食べてみたい』と問合わせた時に、『ちょっと市場に聞いてみます』って色々調べてくださって…」

 この女性がリクエストしたのは、「ワッサー」という珍しい桃の一種。

店主の娘・千佐子さん:
「うれしかったんですよ、すごく喜んでくれたし。それが美味しかったし、知らないやつを教えていただいたから、他のお客さまにもお教えできるし」

 他にも、幻の果実と呼ばれる「ポポー」という果物や…。

甘味と酸味のバランスが絶妙な犬山のご当地果物「二宮みかん」などもリクエストで入荷。

要望があれば、可能な限り市場から仕入れています。

■卸がその日に売り切りたいモノを仕入れる…安く仕入れるコツ

 午前6時。小牧市の市場に、娘の千佐子さんの姿がありました。りんごとミカン、そしてつるし柿用の柿を買いに来た千佐子さんは、市場の担当者に「もう少しまけて」と価格交渉。

 1箱2000円のミカンを300円引きにしてもらい3箱購入、仕入れにはコツがあるといいます。

千佐子:
「売っちゃいたい品物は安くなります。明日、日曜日なので、市場の在庫としては置きたくないんですよ」

 ポイントは、卸がその日に売り切りたいものを見つけ、安く仕入れること。こうすることで売る側の人も助かり、両者にメリットがあるといいます。母の政子さんの頃からの仕入れのスタイルで、長年築いてきた信頼関係や人脈を活かし、珍しいフルーツの相談などにも乗ってもらっています。

■アドバイスすると喜んでもらえる…客に美味しい食べ方を伝える母

 午前11時。仕入れた商品にお客さんが集まってきました。今度はお母さんの政子さんの出番です。

政子さん:
「ピーラーでシュッシュやるの、お湯にちょっとつけて紐付けてこうやって(干すの)」

 お客さんに、干し柿の作り方を教えていました。

女性客:
「桃とかどんな種類が美味しいとか、これはどれぐらい置いたら甘くなるとか…」

別の女性客:
「『匂いが出てきてないからまだ食べたらあかん!』って、教えてくれたり…」

政子さん:
「あーするといいよって言ってアドバイスする、喜んでもらえる。お客さんとのコミュニケーション、喋ることも良いことだと思います」

 スーパーにはない、お客さんとのやり取りも人気の秘訣です。

■客からのリクエストに対応しているうちに…果物を売るクリーニング店は元々コンビニ

「クリーニングAmie」は、15年前にオープンしました。それまで政子さんは、全く違う仕事をしていました。

政子さん:
「59年前に酒屋を始めたんです。(名古屋の)丸の内一丁目…」

 政子さんは、もともと名古屋で酒屋を営んでいました。そんな中、ある誘いが…。

政子さん:
「ここでココストア始めようかって。魚、野菜、肉、パンも何でも売っとった」

 名古屋を中心に全国に600店舗以上あったコンビニチェーン「ココストア」から誘われ、半世紀前にフランチャイズ1号店を始めました。時代を先取るコンビニは、繁盛しました。

 しかし、24時間営業のスタイルが厳しかったこともあり、惜しまれつつ15年前に店を畳みました。その後、コンビニの跡地に体力的にできる仕事をと、クリーニングとコインランドリーに事業を転換。ところが…。

政子さん:
「ここコンビニだったから、(客から)『何もないの?』、あれが欲しいこれが欲しいって言われるの。果物なら扱いやすいので、果物ぐらい置こうかって」

 コンビニだったことを知る人たちから、クリーニング店になったにも関わらず、商品のリクエストがありました。

男性客:
「最初はこんな置いてなかった。だんだん増えていって、今では評判の果物屋さんになってしまった…」

 お客さんの要望に応えていくうちに、品数はどんどん増加…。お値打ちなモノや珍しいモノを販売する果物店も兼ねた不思議なクリーニング店になりました。5年前からは、娘の千佐子さんも手伝い今に至ります。

■2つの戦略で若い世代も来店する店に…SNSでの発信とマルシェの開催

 お店には、若いお客さんも多く訪れます。それには理由がありました。

男性客:
「インスタグラムでも宣伝しているんで…」

別の男性客:
「インスタ見て初めて来たんですけど、安いよって」

 千佐子さんは、去年からインスタグラムなどSNSを使ってその日の目玉商品などの情報を発信。

また、SNSの開始をきっかけに、目の前の駐車場を使って月に2回、マルシェも開催しています。キッチンカーなどが並ぶことにより、若い人にもお店の存在が広く知れ渡りました。

 午後6時に閉店。今日もたくさんのお客を迎え、充実した1日が終わりました。

千佐子さん:
「ここへ来たら何かが買えるって思ってもらいたい。(コロナ禍で)暗い中でもそういう笑顔の時が増えたらいいなと」

政子さん:
「今後もこのまま、皆さんとぼつぼつとやっていけたら。若い人が来てくださるようになって、なんか気分も若いです」

 政子さんと千佐子さん親子が営むお店は、老若男女問わず、地域の人たちに愛されています。

 月に2回開催しているマルシェなどの情報は、店の公式インスタグラムに掲載されています。