日本で暮らす私たちにとって、救急車を呼ぶ119番はいざという時に心強いシステムですが、今、新型コロナの感染拡大に加え、不要不急の通報で救急体制に影響が出ています。

 名古屋市では1日平均で救急車の出動件数は324件に上りますが、消防署に密着すると、一口に「救急要請」といえど多岐にわたることがわかりました。

■通報から現場到着まで平均7分…全国トップクラスの“スピード”誇る名古屋

 名古屋市では、通報から現場到着までの平均所要時間は7分、通報から病院に収容するまではおよそ31分。全国の自治体でトップクラスの速さを誇ります。

 救急隊は24時間の交代制勤務。専門の知識と資格を持つ救急救命士を含む3名で構成。

【画像で見る】消防署の救急隊に密着 名古屋市の出動で最多は『急病』

 出動がない時には、救急資器材の準備や訓練を実施。また出動記録もまとめます。

 業務の合間を縫って、風呂・仮眠・食事をとりますが、もちろん指令が入ればすぐに出動です。

■Case1 50代男性がホテルで心肺停止…最も多い出動は「急病」

 50代の男性が、ホテルの部屋で血を吐いて倒れているのを従業員が発見。警察から119番通報が入りました。

 救急隊が駆け付けると、男性は全裸の状態で心肺が停止し、すでに体の一部が硬直していました。救急隊はすぐに心肺蘇生を開始します。

 その後、男性を救急車で搬送。現場到着から9分で病院へ。

救急隊:
「心肺停止状態。おそらく吐血するのは何か病気があるのかなと思います」

 出動で最も多いのが「急病」です。

 2020年の名古屋市の救急車の出動は約11万8千件で、実に4分半に1回のペース。

 中でも昨今、増えているのが「新型コロナ」に感染した可能性がある人からの通報です。

■Case2 ピークの月は1068件に…急増する「コロナ疑い」患者の救急陽性

 前日に新型コロナの陽性が判明した40代の男性が自宅療養中に異変を訴え、妻が119番通報。救急隊が駆け付け、男性を病院に搬送します。

救急隊:
「もうちょっとで着きますので、家族全員マスクして頂いて。できれば換気をしてほしいので、窓を開けてもらっていいですか?(到着後に)大丈夫ですか。すぐに救急車には行けないので、こちらで体の状況を確認させてもらいますね」

 男性は4人家族。

救急隊:
「今、頭が痛いとか何か症状ありますか?」

男性:
「今のところはないですけど」

救急隊:
「胸が苦しいとか、呼吸が苦しいとか」

男性:
「この辺(胸)に違和感が。締め付けられるような違和感」

 その後、男性は40度以上の熱が5日間続き、味覚・嗅覚障害も発症。ワクチンは未接種だったということです。

 相次ぐコロナ疑いの救急搬送は、名古屋では2021年8月にピークを迎え、多い日には1日50件以上にもなりました。

救急隊:
「コロナ前と比べると(搬送するまでの)時間がかかるようになっています。病院がスムーズに決まらないことが多くなりました」

 救急隊は出動時、防護服を着用。コロナ感染の疑いがある場合の出動は、全身タイプを身に纏います。

 受け入れ先の病院を見つけるのも、通常時と比べ時間がかかり、搬送後は消毒作業におよそ20分、その間は救急車の稼働が停止します。

 名古屋市消防局では、コロナ感染が疑われる場合は、保健センターから体調管理の確認の連絡が来て、異常があれば保健所が救急車を要請するというマニュアルになっています。

■Case.3 救急車を呼ぶべきか…車が電柱に衝突し通報した目撃者の冷静な対応

 次は車がスーパーの駐車場から出る際、誤って電柱に正面衝突し救急車を呼んだケースです。車の前方は大破しエアバッグも開いていて、衝撃の強さがうかがえます。

 通報したのは近くにいた人で、すぐに警察と救急に電話しましたが、乗っていた人は意識もあってケガもなかったため、まずは110番したといいます。

 運転していたのは20代の男性。

救急隊:
「事故を起こしたのは覚えている?」

男性:
「いや、あんまり記憶がないですね」

救急隊:
「調子悪かった?どういう症状だった?」

男性:
「脳はしっかりしてないですね」

救急隊:
「ぼぉっとした感じ?」

男性:
「運転は別に、高速道路を運転してきたんで」

 自分で歩くことができ外傷もないようですが、両手の指と胸の痛みを訴え、病院に搬送されました。

■Case.4 呼んでいいのか迷ったが…指を切った夫の搬送に妻が119番した理由

 続いては「自宅で調理中の夫が手を切った」と妻からの通報。出血が多いといいます。

 現場に到着すると、通報者の妻が夫と自宅の前で待っていました。包丁で切ったのは左手の人差し指。

救急隊:
「傷口を見せて下さい。上手にやってあるけどちょっと外すね。綺麗にやってあるけど。何か千切りでもしとった時に?」

男性:
「キャベツの千切り」

救急隊:
「指は動く?先を触るけど分かるね。普段から料理やるんですか?」

男性:
「そうですね。仕事も飲食やっていて指を切るのはしょっちゅうあるんですけど、特に深くいっちゃって、よそ見していて」

 119番通報した理由について、妻は…。

通報者:
「いつもとは(傷の)深さが違って(血が)全然止まらなかったので、本人が血の気が引いた感じというか、めまいがして視界がぐらつくと言い出したので、絆創膏じゃだめだなと思って。自分は車を持っているので、このぐらいのケガで救急車を呼んでいいのかなという感じはあったんですけど、今の時間に病院がちょうどやっていなくて、救急車で連れて行ってもらった方が確実と判断で」

 男性は現場では血が止まらず、病院に搬送。治療を受けてその日に帰宅しました。

■本当に救急車は必要か…「不搬送割合」は全体の11.3%も

 名古屋市の救急車の出動件数は1日平均324件ですが、市によると結果的に救急車を必要としなかったケースや搬送しなかった「不搬送割合」は全体の11.3%。搬送して治療だけして帰る軽症のケースが55.8%。

 中には緊急ではないものも含まれていて、そうした出動が増えれば本当に必要な患者のところに向かうのに時間がかかってしまうと市も懸念しています。救急車が本当に必要かどうか、考えてみることも大切です。