防犯カメラなどの映像がきっかけで、容疑者の検挙に至った事件は、2016年では約1万3000件でしたが、2020年には倍以上の約2万8000件へと急増しています。各所の防犯カメラの映像をつなぎ合わせ、容疑者を特定する「防犯カメラ捜査」のプロの捜査員に密着すると、足で稼ぐ“地道な捜査”で事件を解決へと導いていることがわかりました。

■これまで50以上の事件で容疑者を特定…“防カメ捜査”のスゴ腕捜査員

 今や事件の解決には欠かせない「防犯カメラ捜査」を専門に行う部隊。愛知県警の「情報分析捜査課」は、2014年に誕生しました。

【画像20枚で見る】「自転車の痴漢男」を追え!防犯カメラの画像をつなぎ合わせて容疑者を特定

 川村泰一警部補(41)は、これまでに殺人や強盗など50以上の事件で、“防カメ捜査”から容疑者を特定してきたスゴ腕捜査員です。今回、担当したのは「自転車の痴漢男」の捜査です。

川村警部補:
「被害者の女性が帰宅する途中に、後ろから自転車乗りの男にお尻を触られたっていう事案」

 2021年6月の明け方、名古屋市東区の路上で起きた女性を狙った“卑劣な痴漢”事件です。女性の目撃情報から容疑者の男の特徴は、「水色の上着に半ズボン」、「帽子を着用」、「自転車に乗車」。男は犯行後に大通りをすぐ左に曲がり、北へ逃走したということだけでした。

 ここから川村警部補は、この男の逃走経路の割り出し、容疑者特定に動き出します。

■「防カメ捜査は犯人特定への一番の近道」…映像をつなぐ“リレー捜査”で容疑者を追う

 川村警部補がまず目を付けたのは、町内会が取り付けている防犯カメラ、通称「町カメ」。主に交差点や道路を映していることが多く、今回の現場近くに設置されたカメラを確認すると、そこには自転車に乗る男が映っていました。

川村警部補:
「これが犯行直後の映像ですね。バッチリだ」

 そこには、犯行時刻から1分後、水色の上着に自転車に乗った容疑者とみられる男の姿がありました。男が北に向かった後、すぐ左に曲がったことが判明。さらにその先の防犯カメラで、西向きに逃走を続けたことも分かりました。

 こうした捜査手法は、逃走した容疑者を各地点の防犯カメラの映像をつなぎ合わせて追跡することから、「リレー捜査」と呼ばれています。

 今年8月、東京メトロ白金高輪駅で男性が硫酸をかけられた事件。発生から86時間、1600キロ離れた沖縄県で容疑者の男をスピード逮捕に至った決め手は、このリレー捜査でした。

 警察庁によりますと、防犯カメラなどの映像がきっかけで検挙に至ったのは、2016年では1万3000件ほどでしたが、2020年は倍以上の2万8000件余りに急増しています。

川村警部補:
「(防カメ捜査は)地道ですけど的確です。犯人に一番結びつく、一番の近道だと思います」

■自転車は緑でベル付き…明らかになっていく容疑者とみられる男の特徴

 しかし、捜査をする上で様々な苦労もあります。ダミーの防犯カメラの存在に加え、見せてもらうまでに時間がかかることです。

川村警部補:
「上書きされて悔しい思いは何度も…。(保存期間は)平均的に考えると2週間」

 防犯カメラ映像の保存期間は、大体2週間といいます。リレー捜査は、まさに一刻を争う時間との勝負です。その後も、“痴漢男の影”を追っていると…。

川村警部補:
「自転車の色、形状、かなりの特徴がつかめますね。(自転車は)緑っぽい、エメラルドグリーンな感じ。ここにベルがついているのが分かるので…」

 男の自転車がグリーンであることや、ベルの位置まで判明。しかし、川村警部補はあることに疑問を抱きます。

川村警部補:
「被害者の話ですと、犯行時に犯人が帽子をかぶっていたって言うんです…」

 女性の目撃情報では、帽子をかぶっていたという男、この映像では何もかぶっていません…。犯行直後の映像でも、やはり帽子をかぶっていません。「追うべき容疑者は、本当にこの男でいいのか?」。疑問を打ち消すべく、犯行現場の近くで「事件前」の防犯カメラを確認すると…。

川村警部補:
「あっ!(帽子を)かぶった!」

 犯行直前に帽子をかぶる瞬間を、防犯カメラが捉えていました。この映像などから、この男が痴漢事件の容疑者と特定できたといいます。

川村警部補:
「髪型とかがバレないように、変装するためにかぶっていると思う。やる気満々ですね。許せんですね」

 その後のリレー捜査で、男は東区と北区の境目からやって来たことが分かり、じわりじわりと捜査の手が伸びていきます。

■カメラ54台150時間の映像をつなぎ合わせ…“地道な捜査”の末に容疑者を逮捕

 事件発生から10日後、決定的な瞬間が訪れます。

川村警部補:
「大曽根駅付近で、犯人がいないか付近の自転車の確認作業をしていたときに、たまたま犯人と出くわして…。秘匿で追跡をしているときの映像です」

 画面左から何かを配達している男が現れます。その後、男が画面左の方向へ立ち去ると…。その20秒後、川村警部補が、全速力で走って追跡します。

川村警部補:
「すぐ追いかけると気づかれてしまうので、曲がるまで確認してから追いかけた」

 その結果、男は東区に住む50代と判明しました。防犯カメラ54台、およそ150時間分の映像をつなぎ合わせ、ようやくたどり着きました。

 今年9月。捜査員が男の元へ。

捜査員:
「どれのことかわかる?正直に言わんといかん」

男:
「・・・」

捜査員:
「この日時場所でね、女性に対して服の上からお尻を触った。この事実に覚えはありますか?」

男:
「あります」

男性捜査員:
「うん。8時13分ね、通常逮捕するからね」

 逮捕された50代の男は、「人通りがない明け方に、きれいな女性のお尻を触った。欲求が溜まっていた」などと容疑を認めました。

川村警部補:
「ひとまず安心した。捕まえないと次の事件が生まれ、被害者が生まれてしまうので。目の前にある事件を、一つ一つ丁寧にスピードは常に心がけて、被害者を第一に考えてやっていきたいです」

 今や“最大の武器”とも言えるリレー捜査。しかし、捜査員の“地道な努力”があってこそ、事件解決へと導かれていることがわかりました。