2021年1月から11月までに発生した愛知県での特殊詐欺の被害は812件で、その被害総額は2020年の同じ時期に比べて5000万円以上多い13億円あまりと被害が拡大しています。

 金欲しさに安易な気持ちで“闇バイト”に手を出した元受け子の18歳の少年を取材すると、一度踏み入れたら抜け出せない特殊詐欺グループの実態がわかりました。

■「少し罪悪感あったけど」…だまし取ったキャッシュカードで約300万円引き出した少年

 愛知県豊明市の少年院「豊ケ岡学園」には、短期間で更生ができると判断された少年が入所しています。

少年(18):
「初めて特殊詐欺をしたのは(2021年)8月3日。相手は70代ぐらいのおばあさん…」

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 両手の拳を握りしめながら話す18歳の少年は、今年8月に特殊詐欺グループの一員として逮捕されました。少年は、「銀行協会の〇〇です」と名乗り「キャッシュカードが悪用されているので確認させてほしい」とその場でカードを受け取ります。その際、印鑑が必要だと告げると…。

少年:
「はんこを取りに行ったりなど、おばあさんが見ていないタイミングで、偽の封筒とおばあさんのキャッシュカードが入っている封筒をすりかえていました」

 印鑑を取りにいかなかった場合にも備えていたといいます。

少年:
「ポケットに携帯電話を入れて、指示役とはつながった状態で。せき込んだら指示役が掛け子などに連絡して(おばあさんの家に)電話かけて欲しいなどとなっていました」

 少年の役割は、高齢者からキャッシュカードを受け取る「受け子」と、現金を引き出す「出し子」の2つでした。

少年:
「カードの暗証番号を(ATMに)打って、現金を引き出した。だいたい150万前後。最初手にしたときは、すごい大金だなと…。少し罪悪感はあったけど、欲求もあって『知らない人だからいいや』と…」

 少年は逮捕されるまでに、2人の高齢者からだまし取ったキャッシュカードで約300万円を引き出し、20万円近くの報酬を手にしました。

■拡大する特殊詐欺の被害…被害者と接触する逮捕のリスク高い「受け子」はいわば“使い捨て”

 愛知県の特殊詐欺の被害は、2021年1月から11月で812件発生。被害総額は2020年の同じ時期に比べ5594万円多い13億460万円と被害は拡大しています。その犯行の実態について、少年は「組織的だった」と語ります。

少年:
「(犯罪グループ)では、掛け子が周辺に電話をかけまくるという形。自分はその間は、ファミレス、喫茶店で待機していて、指示が来た時にそこに向かって犯行を行う形でした」

 少年によると、「掛け子」と呼ばれる役割の人間が、狙いを定めた地域の高齢者に一斉に電話をかけます。もしだまされた高齢者がいれば、周辺で待機している少年がターゲットの自宅へ向かい、キャッシュカードをだまし取りATMから現金を引き出します。

 警察は2021年1月から11月に、特殊詐欺事件で127人を検挙。このうち22人が未成年で、役割は「受け子」などでした。被害者と接し逮捕されるリスクも高い、いわば“使い捨て”の立場で、少年もその一人でした。

■なぜ少年は安易に犯罪に手を染めてしまったのか…SNSにあふれる“裏バイト”の募集

 一体なぜ、少年は犯罪に手を染めてしまったのか…。

少年:
「クラブに、不安を忘れる場所を求めてしまった…。友達がいなく、心の不安があったりして。クラブであればどんどんつながりが表面上でも増えていくことが、自分にはすごく快感というか安心感が…」

 同級生との喧嘩をきっかけに高校を1年の秋で退学してしまった少年は、一旦は飲食店などに就職したものの、居場所を求めクラブ通いに。一晩に15万円以上使う日もありました。稼ぐために夜の仕事を探しましたが、当時17歳だった少年は、見つけられませんでした。そこで、金欲しさに行きついたのが…。

少年:
「(SNSで)“裏バイト”“闇バイト”とか探していけば出てくる。高額バイトみたいに書いてあって、『1日で5万以上稼げる』、『即日案件』と書かれていました」

 SNSにあふれる“裏バイト”という言葉について、20年以上少年院などに勤め、罪を犯した少年と向き合う教官は…。

豊ケ丘学園の法務教官:
「年齢が低いと働くことはできない。ではどうやってお金を稼ぐかと言ったら、法律にのっとった方法ではできない。“裏バイト”だったり耳障りのいい言葉に置き換えることで、“これは仕事である”と(少年の)心の負担などを軽減させる仕組みを作っているのではないか」

■「一回でやめれば大丈夫だから」…高額報酬をエサに裏バイトを募集する犯罪グループ

「犯罪行為」を「裏バイト」と言い換え、少年たちを誘い込む手口はどのようなものなのでしょうか。SNSで「裏バイト」で検索してみると、「日給5万から10万受け取れます」、「今の生活を変えませんか」など、そこには普通のバイトを募集するかのような記載がありました。

この投稿者に連絡をとると、その10分後に返信が。そこには、「お仕事内容。かけ子、受け出し、なんでも揃えています」と特殊詐欺で使われる言葉が…。

やり取りを続けると、相手から「希望の金額、年齢、住まいを教えて」、「銀行員のふりをしてカードや現金をもらう“受け出し”はどうですか」など、仕事の詳細が次々に伝えられます。

警察にバレないか尋ねると、相手は「一回でやめれば大丈夫」と答え、持ち逃げ防止のため「身分証の写真」と「身分証を持った自撮りの写真」を要求してきました。

ここでテレビ局の人間であることを明かし、取材を申し込むと「そうですか、失礼します」と答え、これまでやり取りしていたトークが全て削除されました。

■「見つけたらぶっ殺すからな」…逮捕後も続く詐欺グループからの脅し

 誰でも簡単に手が出せる「裏バイト」の末路…。2021年8月に特殊詐欺に関わったとして逮捕された少年は、一度指示役に「やめたい」と話したことがありました。しかし…。

少年:
「すごい脅しみたいなものがあって。親の名前とか携帯番号なども渡していたんで、その後、親がどうなるかすごく心配で、引くに引けなかった」

 自分だけでなく親の個人情報も送っていたため、詐欺グループに弱みを握られ抜け出せなくなりました。逮捕後に、母親の携帯に“非通知の電話”がかかってきたといいます。

少年:
「(詐欺グループから)『住所とか電話番号は知っているから、(息子が)どうなっても知らないよ』みたいな。『見つけたらぶっ殺すからな』って言われたのをお母さんから聞きました」

 幸い、現時点では少年の親に危害等はないといいます。欲望のすぐ隣にある“特殊詐欺の入り口”。きっかけの容易さとは裏腹に、もたらした結果は重大です。