総務省の2018年の調査によると、全国の空き家の数は800万戸以上と、その急増が社会問題となっています。 “借りたい人が物件を探す”のではなく、“貸す人が入居者を探す”、本来の不動産とはさかさまの発想のウェブサイトを運営する企業が、三重県桑名市にあります。

「海の近くにアトリエが欲しい」など、借りたい人が自身の情報とその想いを載せ、空き家を“貸したい人”を募集。この「さかさま不動産」では、たくさんの貸し手と借り手の想いがマッチングしています。

■2040年には住宅の40%が空き家に…放置された空き家の有効活用に取り組む2人の男性

 全国で問題となっている空き家・空き店舗の急増。2040年には、住宅のうち40%が空き家になるという試算もあります。

【画像20枚で見る】空き家を活用して街を変える…貸す人が入居者探す『さかさま不動産』逆の発想で広がる可能性

水谷岳史さん:
「40%の空き家を持っている全員が貸したいと思っているのか、30%ぐらいは貸したくない、ほっときゃいいと思っている。(その)大家さんに貸したいと思わせたら、すごいなと」

使う予定はないけど、知らない人には貸したくない。しかし修理・解体する費用はない…。その放置されてきた空き家を大切な資産ととらえ、有効利用しようとする2人の若者がいます。

 三重県桑名市にある、使用していない空間をリフォームして活用するベンチャー企業「株式会社On-Co(オンコ)」の水谷岳史さんと藤田恭平さんは、これまで「古民家再生」や「シェアハウスの運営」から、「地域振興」まで、様々な社会課題の解決に取り組んできました。そのうちの1つが「空き家の有効利用」です。

藤田恭平さん:
「空き家って何かしら街に影響を与え…。街のためにも使えるんだって気づいたら、社会や街が大きく変わると思う」

2人が目指すのは、「空き家で街を変える」です。

■“借りたい人”の情報を載せ空き家を“貸したい人”を募集…通常と“さかさま”の不動産サイト

 名古屋市熱田区の商店街にある、2021年1月にオープンした書店「TOUTEN BOOKSTORE」。店主の古賀詩穂子さんは、出版関連の会社に勤めていましたが、オススメの書籍やグッズだけを扱うセレクトショップを開くのが長年の夢でした。

店主の古賀さん:
「物件は色々リサーチしていたんですけど、“さかさま不動産”というサイトを使ったときに大家さんから連絡がきて、この物件に決まりました」

古賀さんは、さかさま不動産を通して紹介された、元は時計店だった「空き家」を改装し、店をオープンさせました。

 普通の不動産会社では、“物件”を掲載し「入居者を募集」しますが、さかさま不動産では、“入居したい人”の情報を載せ「物件を貸したい人を募集」。通常の“貸す”と“借りる”が「さかさま」です。

水谷さん:
「若い子が何かやりたいと思ってもなかなか場所がない、でも空き家は余っている。矛盾を感じたんです。だったらその子たちをネットに載せてあげたら、うまくつながると」

藤田さん:
「若い子たちを応援したい、この子だったら貸してもいいんじゃないかと。普通は借りられない物件が手に入るようになるんじゃないかと」

さかさま不動産をはじめて1年半で、成約に至ったのは10件。桑名の空き家をリフォームしたクッキー店に、奈良県吉野町の古民家をコミュニティスペースとして借りた人。

さらにカフェや駄菓子の店、訪問介護ステーションや秘密基地まで、用途はさまざまです。

しかも、サイト掲載や仲介料などは一切無料です。

■共通の想いを通して繋がる…倉庫を借りたのは「海洋ごみ」を溶かして作品を作るアーティスト

「海の近くにアトリエが欲しい」とサイトに掲載したアーティストの間瀬雅介さんが借りた物件は、三重県鳥羽市にある水産加工会社の倉庫でした。倉庫を貸した石川隆将さんは…。

倉庫を貸した石川さん:
「1年中使っているわけではない、春先とか漁獲のある時に使用していました。もっとこの場所を有効に使えないかなと…」

 一方、倉庫を借りた間瀬さんは…。

間瀬さん:
「フリスビーを粉砕して小さいチップにして、それをプレス。色は素材そのまま、海洋ごみのそのままの色」

 航海士と機関士の資格を持ち、南極の調査船に乗った経験もあるという間瀬さんは、世界的に問題となっている海洋プラスチックごみを拾い集め、溶かして作品を作っています。

間瀬さん:
「航海士をやっている時に、海に浮かぶ大量のごみを見て、どうにかしようと思って(活動を)はじめた」

 借り手の間瀬さんと貸し手の石川さんを繋げたのは、この活動に興味を持った地元の漁師でした。

地元の漁師:
「カキの養殖をしながら、資材とかごみって結構出ていく。彼はごみを次の資源に変える。共感したというか、僕らは持っていない引き出しだった」

「海洋ごみを減らしたい」。同じ想いを共有する人たちが、さかさま不動産を通して繋がり、海の町が抱えている問題に取り組むようになりました。

■不動産仲介だけでは終わらない…獲れても流通しない魚を有効活用

 さかさま不動産は、不動産仲介だけでは終わりません。水谷さんと藤田さんは、獲れても流通しない「低利用魚」の有効活用もしています。

釣り人には人気の巨大魚「オオニベ」は、クセもなく美味しい魚ですが、東海地方では弁当のフライ程度にしか使われていません。

その話を聞いた2人は、海外も含めて40店舗以上展開する桑名の飲食店「歌行灯」に、メニュー提案を持ちかけました。

歌行灯の社長:
「こんな魚は知らないと思ったのが正直なところ…。知らない魚を、(客に)おいしいものがあるんだよと知ってもらえるとうれしいなと思っていたので…」

2人の想いと社長の長年の想いが一致し、「オオニベ」を使った天ぷらや天丼などのメニューが完成しました。

■シャッター商店街の空き家へ出店する若者も…借り手と大家の想いを繋ぐ“さかさま不動産”

 水谷さんと藤田さんが、今注目しているのが愛知県瀬戸市の「せと銀座通り商店街」。その商店街にあるのが、地元の棋士・藤井聡太四冠の活躍で連日登場した「シャッター大盤」です。

シャッター大盤考案者の飯島加奈さん:
「あの物件も動くので…。今、3代目シャッター大盤をできる場所を探し中」

 この商店街は、現在2代目の大盤が貼られた店舗だけでなく、多くの店が閉まる“シャッター商店街”となっています。しかし、さかさま不動産がその流れを変えるきっかけとなりつつあります。

初代シャッター大盤があった場所には、2021年にさかさま不動産で成約したオーダーメイド自転車の店「ライダーズカフェ」がオープンしました。それまで名古屋に住んでいたオーナーは、これを機に瀬戸に引っ越しました。

自転車店のオーナーの男性:
「瀬戸にきた時に、『面白そう』というのが最初。シャッター商店街って言われていますけど、やっている店は芯があったので、そこが一番いいなと。人の良さというか」

オーナーの妻:
「人の目がある商店街だからこそ、子育ても孤独感がない。子供達の成長を見守ってもらえるので、安心して暮らしています」

商店街の女性:
「うれしいですね、ずっとシャッターが閉じていた所なので。若い人が若い人を呼ぶ、若い人たちによって私たち古い人も元気になる」

シャッター大盤考案者の飯島さん:
「すごくうれしい。まだまだシャッターが閉まっているので、シャッター大盤ができる場所がないってなることが、一番目指すところ」

他にも、さかさま不動産を介し、ピザハウスだった店舗に古着店が入るなど、人のつながりが次々と若者を集めはじめています。

水谷さん:
「空き家が沢山あるのは、変わっていける状況。新しい人が沢山入ってくれる“余白”だと考えると、あながち悪いことだと思わない。町が変わっていく材料みたいな気がします」

 借り手と大家のそれぞれの想いをつなぐ“さかさま不動産”。「空き家で街を変えたい」という2人の想いは、近い将来実現するかもしれません。

さかさま不動産への掲載や仲介料が無料の理由は、水谷さんと藤田さんが、他にもシェアハウスの運営や全国の自治体から町おこし事業などの発注を受けており、その収入でサイトの運営をしているからということです。