駅などに置かれたピアノや路上でのライブ。コロナの影響もあり、屋外で演奏する“ストリート音楽”への注目が高まっています。東京や千葉などでは、施設や公園などをアーティストに開放するなど、自由に活動できる環境が整いつつあります。一方、名古屋ではまだ路上パフォーマンスの環境は整っていません。その理由を調べると、行政もストリート音楽への理解はあるものの、様々な課題があることが分かりました。

■「すごい迫力」…YouTube登録者数6万人の人気ストリートドラマー「リエイ」

 栄の街に鳴り響くドラムの音。名古屋を拠点に活動するストリートドラマーのリエイさんです。2020年11月には、バイオリニストの葉加瀬太郎さんとコラボしたライブをYouTubeで配信し、一躍有名になりました。ライブの様子は毎回YouTubeで配信、チャンネル登録者数6万人以上と今最も注目を集めているストリートアーティストです。

【画像20枚で見る】「町全体が楽しい雰囲気に」名古屋のストリートドラマーが信じる音楽の力

女性:
「一体感ありますよね。生で音を体で感じるって」

別の女性:
「初めて見たんですけど、すごい迫力」

リエイさん:
「たくさんの方に楽しんでもらえてるのかな。小さい子から海外の方とかも。やっぱストリートでやっているからかな」

 見ていた子供との即興のドラムセッションに、ダンサーの女性とのコラボなど、路上ならではの光景も広がります。

リエイさん:
「飛び入りちょくちょくあって、『誰でも入っていいよ』みたいな。ライブハウスだとステージなので入りづらいけど…。そういうのが一番ストリートの良さ」

■他の街のように自由に演奏できるスペースを…不透明な名古屋の路上演奏のルール

「音楽に気軽に触れられ、偶然の出会いがあるのがストリートの魅力」と語るリエイさん。一方で、音が小さめのドラムを使うなど「騒音」には気を付けています。さらに、なるべくコンパクトなドラムを使用することで、簡単に移動できるようにしていました。その理由は…。

リエイさん:
「ここは許可が取れないらしくって、色々聞いたんですけど…」

 路上演奏の許可が“グレー”の状態になっているのです。

リエイさん:
「詳しく分かってなくて、色んな人に聞きながらやらないと…。2日前に行った千葉は、ストリートをしていいっていう文化を作っているみたいで…」

「名古屋にも自由にストリート活動できるスペースを」。リエイさんの願いです。

■名古屋のストリートピアノ設置は4台のみ…ストリート音楽”後進地”名古屋

「屋外での演奏」は、コロナの影響もあり注目が高まっています。その代表格でもある“ストリートピアノ”は、現在国内に400台以上設置されているといいます。

埼玉・大宮駅前に設置されたピアノを弾く男性:
「いいですね。老若男女誰でもジャンル関係なく自由に弾けるというね」

 音楽が流れることで街が元気になるという地元住民の声も…。

東京・下北沢駅前にピアノを設置した男性:
「四六時中、誰かが弾いてくれるので、楽しいですね。明るくなったと思いますよ」

 各地で駅前にピアノが置かれ、人が自由に演奏を楽しむ光景が珍しくなくなりつつあります。そんな中、2020年のクリスマスに、名古屋の地下街には2日間限定でストリートピアノが設置されました。

サカエチカの担当者:
「(クリスタル広場は)名古屋市の公道と同じ扱いになっておりますので、どうしても物をそのまま置いておくということができませんので…」

 一定期間置かれることはあるものの、常設のピアノは市が把握している範囲でわずか4台のみと、決してストリート音楽“先進地”とはいえない状況です。

■厳密に引けない「許可」「不許可」の線…行政の中でもルールが一本化されていない現状

 名古屋の街で、ストリートライブについて聞いてみると…。

男性:
「(ストリートライブは)見かけないですね」

別の男性:
「路上ライブやるのも許可がいるとか聞いたことが。自由にできたらね」

女性:
「街も活発になるし、いろんな人が名古屋に来てくれるかもしれない」

 街の人からは、路上ライブの環境が整っていないという意見も…。リエイさんも演奏する栄の「希望の広場」を管理している名古屋市中区の「中土木事務所」に話を聞いてみると…。

中土木事務所の担当者:
「許可できる案件ではございません。道路交通、もしくは公園の中に人がたまることによって、移動を阻害する要因になりかねないので…。『希望の広場』での個人コンサートは許可しておりません」

 公園内で個人的に行うコンサートやライブは、名古屋市で定められている「都市公園条例」に違反する恐れがあり、「許可」していないという返答がありました。もし支障があった場合に、直ちに移動するなどの対処ができる場合はどうなのでしょうか。

同・担当者:
「支障があるかどうかは公園管理者の判断でありますので、私どもが具体的に許可をおろすかおろさないかの基準作り、それを緑地管理課が行っております」

 もととなる“ルール作り”は、市の緑地管理課が行っているといいます。その緑地管理課では…。

名古屋市緑政土木局緑地部緑地管理課の担当者:
「(路上ライブは)必ずしも許可が必要な行為とは限りません。周囲への影響を“個別”に判断するために、むしろ厳密には線をひけない」

「街づくりにつながるストリートライブの文化と公園の周辺住民への配慮の2つを両立していきたい」と市の緑地管理課。どうやら、行政の中でもルールが一本化されていないようです。

■専門家「ストリート音楽が街づくりにつながる」…文化芸術が街の”文化力”を引き出す

 芸術・音楽による街づくりを専門にする名古屋芸術大学の梶田美香教授は…。

名古屋芸術大学の梶田教授:
「行政特有の縦割りみたいなものが…。組織としてそうなっちゃっていると、なかなか横に手がつなげないというか…」

 梶田教授は、海外での経験をもとに「街づくり」にもつながるストリート音楽を、行政側がいかに理解していくかが重要だと考えています。

梶田教授:
「パリの地下鉄でいろんな人が演奏しているのがとっても新鮮で、街の潜在的な文化力を引き出す事が、街を変えていくような気がします」

「行政は文化芸術の振興を街づくりに活用し始めているので、アーティストが活動できる環境を整えてほしい」と梶田教授は、今後の行政に期待を寄せます。

■音楽で街全体が楽しい雰囲気に…進むか名古屋の音楽を活用した街づくり

 一方、名古屋で新たな動きもあります。市民からの声をもとに、2022年1月以降に新たに名古屋市内に3台のピアノが常設されることが決まりました。

名古屋市観光文化交流局の担当者:
「今回をきっかけに、街中でいろいろな形で文化芸術に触れる機会を作っていきたいと考えております」

ストリートドラマーのリエイさん:
「ストリートをする方ももっと増え、音楽で賑わって街全体が楽しい雰囲気になったらいいな」

 ストリートドラマーのリエイさんは、名古屋の街が音楽の力でもっと楽しい空間になることを期待しています。

 行政のストリート音楽への理解は、全国的には進みつつあります。東京都は都内73か所の施設・公園などに、アーティストが自由に活動できる場を設けています。千葉県木更津市では、事前に登録したアーティストに特定の場所を開放するなど、行政側の「後押し」も活発になってきています。

 ストリート音楽の振興は、行政側の課題である「中心市街地の空洞化」と、アーティスト側の課題である「コロナ禍による活動の場の減少」という、双方の課題解決につながると期待されています。