岐阜市に、1928年創業の老舗そば店があります。この店の看板メニューは、創業当初から人気のソウルフード「冷やしたぬき」です。しかし今、この店の他にも、市内に冷やしたぬきを出す店が急増。なぜ冷やしたぬきがブームとなっているのか。調べてみると、テイクアウトに向いているなど、様々な理由がありました。

■寒い季節でも7〜8割の客が注文…岐阜のソウルフード“冷やしたぬき”

 100年以上の歴史を持つ岐阜の有名店「更科」には、平日にも関わらずたくさんのお客さんが訪れます。

【画像20枚で見る】名店近くで「胸借りる」店も…岐阜のソウルフード『冷やしたぬき』出す店急増

男性客:
「冷やしたぬきのダブルです、いつも」

別の男性客:
「温かいの(そば)食べたくなるときもあるけれど、これが普通になっちゃってる」

 寒くてもお構いなしと、多くの人が「冷したぬき」一択。冷水で締めたそばに、刻みネギとワサビと油揚げを2枚。

そこへ創業から継ぎ足し使ってきた甘辛のつゆと、サクサクの自家製天かすをのせた岐阜のソウルフード「冷やしたぬき(並盛)」(680円)。

天かすが甘辛いつゆに馴染み、ワサビが効いた一杯は、寒い季節でも客の7〜8割が注文する人気メニューです。

■「冷やしたぬき」を出す店が急増…更科の近くにオープンした人気店「冷したぬき天国」

 そんな「冷やしたぬき」が、ブームになっているといいます。

更科の店主:
「いろいろ食堂ができたり、中には『冷したぬき天国』ってお店もできたり…」

「更科」のすぐ近くにある「冷したぬき天国」を訪れると、こちらにもたくさんのお客さんが。

男性客:
「冷たいそばの方がおいしい」

女性客:
「いつ来ても、冷やし(たぬき)。冷たくておいしいね」

 この店は、2021年4月にオープンして以来、週末は行列ができる程の人気だといいます。早速、名物「冷したぬきそば(並盛)」(700円)を注文し、更科との味の違いをチェック。

冷したぬき天国の店主:
「昆布の粉末が乗っていますので、よくおつゆで溶いてから…」

 この店の冷したぬきは、昆布の粉末が添えられ、麺は更科より少し細目。細麺で喉越しが良く、さらにつゆに昆布だしのうま味が加わることでより深い味わいに…。生まれも育ちも岐阜市という店主に、冷やしたぬきの専門店を始めた理由を聞きました。

同・店主:
「実家もうどんそば屋をやっていまして。生まれた時から冷やしたぬきそばを食べて育っているので、“冷やしたぬきそば愛”が強すぎる…」

 冷したぬきの元祖「更科」のことは、意識しているのでしょうか。

同・店主:
「メチャメチャ意識しています。レジェンドというか。近くでやらせてもらえることは、胸を借りる気持ちもありますし、更科さんにリスペクトしかないです」

 店主には、あふれる“更科愛”がありました。多少の違いはありますが、更科のスタイルを踏襲した「リスペクトメニュー」。岐阜の人たちにとって、更科の存在は大きいようです。

■昼休みにサッと食べられる冷やしたぬきが人気に…岐阜市役所・新庁舎近くの「そば家 吉右衛門」

 冷やしたぬきに詳しい人がいます。山本慎一郎さんは、岐阜市の冷やしたぬき愛好家らで作った団体「冷やしたぬき王国(キングダム)」に所属。これまで更科のバックヤードツアーなどを行ってきたといいます。

山本さん:
「これまで『更科』が一強。ところが、新たに冷やしたぬきを主軸としてメニューを展開する店が増えてきた」

「冷やしたぬきが今キテる」と話す山本さんに、案内してもらったのが、「冷したぬき天国」から徒歩1分のところにある「そば家 吉右衛門」。

この店の「冷したぬきそば(並盛)」(700円)は、刻んだ油揚げにそばの実がトッピングされていました。

そば家 吉右衛門の店主:
「オープンする時に、メニューを色んな人に相談したんですけど、『“冷やしたぬき”だけは必ずやれ』と皆に言われまして…」

 周りからの強烈なプッシュでメニューに入れた“冷やしたぬき”は、予想を上回る人気メニューに。なぜそれ程の人気となったのでしょうか。

同・店主:
「5月に、岐阜(市役所)の新庁舎が移転してきた。特にランチの限られた時間の中で早く出て、早く食べられる。そういう点で、冷やしたぬきは一番あっている」

 2021年5月に、店の近くに岐阜市役所の新庁舎が移転。多くの職員が越してきたため、昼時はランチ難民が出るほどの人出になっていて、「限られた休み時間で、サッと食べられる冷やしたぬきが人気になったのでは」と店主は話します。

■ラーメン店も参戦…そばアレルギーの人でも食べられる中華麺の”冷やしたぬき”

 冷やしたぬきを出す店は、そば店だけではありません。続いて、山本さんが案内してくれたのは「ラーメン天外 長良店」。

この店の「冷やしたぬき中華」(780円)は、2種類の揚げにワサビがのった、見た目はまさに冷やしたぬきですが…。

ラーメン天外の店主:
「うちラーメン屋なので、肉そぼろ、(麺は)中華麺で」

 そばの食感に近い特注の中華麺は、そばアレルギーの人でも食べられると人気です。

山本さん:
「油脂感があるのが、ラーメン屋さんらしさですよね」

 なぜラーメン店が、冷やしたぬきなのでしょうか。

同・店主:
「できたっていうのを聞いて『ヤバイ!』みたいな…。後乗りにならないように、すぐ出すようにして…」

 ブームの兆しを知って、慌ててメニュー化したといいます。

■そばに自家製ラー油を絡めて…個性的な居酒屋の“冷やしたぬき”

 他にも、繁華街としてお馴染みの岐阜市玉宮町では、居酒屋が冷やしたぬきを出しているといいます。訪れた「和食バル ふわり」には、個性的な冷やしたぬきがありました。

和食バル ふわりの店主:
「青のりとエビの粉末を入れてあります」

 青のり入りの天かすやカマボコだけでなく、自家製ラー油をのせていただく個性的な「特製冷やしたぬきそば」(700円 ※トッピングの食べるラー油はプラス200円)。ラー油が冷たいおそばに意外に合います。

居酒屋で冷やしたぬきをメニューにした理由を聞きました。

同・店主:
「コロナ禍で、夜の営業がなかなかできないようになって…。その中で、ランチで岐阜のソウルフードである冷やしたぬきやってみたらって…。多分コロナがなければ始めてない」

 コロナ禍で始めた冷やしたぬき。麺を茹でて具をのせるだけと、テイクアウトに向いているのも時代にマッチしているようです。このブームを、“元祖”はどう受け止めているのでしょうか。

更科の店主:
「お客さんも色んな味に親しんでいただけ、盛り上がったらいい。ボヤボヤしていられないっていうか、しっかりとおいしいものを提供できるようにしたい」

 専門店からラーメン店、居酒屋まで…。様々な店で食べられるようになってきた岐阜の冷やしたぬきが、今ブームです。