岐阜県瑞浪市に、様々な個性的なビールを製造し“クラフトビール界のレジェンド”と呼ばれる66歳の醸造家がいます。男性が25年のキャリアを経て、故郷の岐阜に戻り生み出したビールは、地元の椎茸やかつお節を使った変幻自在の究極の和のビールです。

■様々なクラフトビールを生み出す醸造家…きっかけは勤める石材会社が始めた地ビールの製造

 自然豊かな岐阜県瑞浪市に2020年11月、クラフトビールの醸造所「カマドブリュワリー」は完成しました。中津川市出身の醸造家・丹羽智さん(66)は、クラフトビールづくりのすべてを1人で担っています。

【画像20枚で見る】“クラフトビール界のレジェンド”が挑む…『究極の和のビール』 椎茸や鰹節がもたらす個性

カマドブリュワリー醸造長の丹羽智さん:
「香り、苦み、いろんな種類のビールを味わっていただけるのが、クラフトビールの独特の世界」

“クラフトビール”とは小規模の醸造所が手作りする個性的なビールのことで、丹羽さんはこれまでに多治見市の“もみじ”のエキスを使った「つづはらもみじエール」(600円)や…。

カカオ風味のアルコール度数の高い黒ビール「カマドネススタウト」(850円)などを手掛けてきました。

そんな丹羽さんは、異色の経歴の持ち主です。

丹羽さん:
「(中津川市の)石材会社に勤めていて、ちょうど“地ビールブーム”の時ですね。うちの会社でも地ビールをつくるかって話になりまして…」

1994年の酒税法の改正で、ビール業界に新規参入しやすくなり、全国で“地ビールブーム”が起きました。

■日本初の“バーレーワイン”製造で一躍有名に…いつしか“クラフトビール界のレジェンド”と呼ばれる

 40歳でビールづくりと出会った丹羽さんが目指したのは、日本でまだ見ぬ“新しいビール”でした。

丹羽さん:
「3年目くらいに、アルコール度数が14パーセントある“バーレーワイン”と呼ばれるビールをつくった」

丹羽さんは、試行錯誤の末に通常のビールの10倍以上の約1年の熟成をかけた、“バーレーワイン”と呼ばれるビールの製造に日本で初めて成功。業界で丹羽さんの名前が知れ渡ることになりました。

 中津川で13年間ビールをつくり、その後、山梨と静岡の醸造所の立ち上げなどに参加。その間、ビールの総選挙「Beer-1(ビアワン)グランプリ」で、2015年から史上初の3連覇を達成。

生み出したビールは150種類を超え、いつしか“クラフトビール界のレジェンド”と呼ばれるようになりました。

■地元で一生涯ビールをつくりたい…クラフトビールで町おこしを考える若者と醸造所を立ち上げ

 そして、丹羽さんは2020年に故郷の岐阜に戻ってきました。

丹羽さん:
「地元を元気にさせたい。地元に戻ってまたビールづくりを一生涯、体が続く限り続けたいなって」

 人生の集大成に故郷の岐阜で、クラフトビールで町おこしを考えていた若者2人と、カマドブリュワリーを立ち上げました。

 この日は、開業1周年を記念するビールの仕込み。和食に合うビールをコンセプトに、地元の椎茸とかつお節、二枚貝を使ったうま味成分を出した“だしのビール”です。椎茸の原木栽培をする男性は…。

椎茸を生産する男性:
「思わず『え?ビールに入れるの?』っていう…。30年やっていますけど初めてです、ビールはさすがに」

 丹羽さんの強みは、誰も思いつかないような“創造力”と、それを形にする“醸造力”。2020年の豪雨で倒れてしまった大湫町の御神木を地元のために形に残したいと、ほのかに杉が香る「大湫大杉エール」(600円)を製造しました。

■良いビールづくりのために様々な人と技術交流…25年の知識を余すことなく伝える

丹羽さん:
「麦芽は早く入れすぎても、遅くてもいけない…。湯の出方によって、ゆっくり入れていく」

 ビールづくりはやり直しがきかない一発勝負。丹羽さんは、昔から反省点などをメモし、次の仕込みに生かしています。この日、丹羽さんからビールづくりを教わっていたのは、大阪からやってきたバーテンダーです。

研修に来たバーテンダー:
「自分で作ったお酒を出すってロマンがある。丹羽さんから研修受けるっていうと、うらやましいって言われます」

 丹羽さんは、25年の知識を余すことなく教え、これまでに30人の醸造家を育てました。

 創業1年を記念した“だしのビール”は、煮沸や発酵の工程を経て、約1か月間熟成させると完成です。

丹羽さん:
「楽しみにしていてください。和食に合うおいしいものができますよ」

夜、今度はバーテンダーの研修生から丹羽さんが学ぶ番です。

研修に来たバーテンダー:
「ジントニックのシェリー版なんですけど、ライムじゃなくてレモンの方が合う」

丹羽さん:
「クラフトビールだと、ここまでドライな感じがないので…。さわやかな口当たりって女性好みなので、今までと違うビールのレシピを作って、トライしてみるのもありですね」

 丹羽さんは、美味しいビールづくりのために、様々な人たちと技術交流し切磋琢磨しています。

■客「個性があってどれもおいしい」…醸造所の隣にその場でビールを楽しめるバーをオープン

 2021年12月に、醸造所の隣に丹羽さんのビールをその場で楽しめる「カマドブリュワリー・ビアバー」がオープン。1周年を記念して製造した“だしのビール”も初披露です。

丹羽さん:
「うまい。バランスよく仕上がっています」

地元の椎茸、かつお節、二枚貝と3種類の風味とうま味が、ホップの苦みとともに口いっぱいに広がる究極の和のビール「ダッシュワンペールエール」(690円)が生まれました。

各務原市から来た男性:
「個性、バラエティがあって、他の人たちがつくってないのを先駆的につくられて。どれも本当においしい」

恵那市から来た男性:
「すごくスモーキー、煙のいぶされた感じがあって。それをかつお節で表現しているのがすごい」

お客さんからは大好評。中には、東京から訪れたファンも…。

東京から来た女性:
「来てよかった。和食じゃなくてもいけます、チョコレートとかでも」

丹羽さん:
「生まれ育った土地なので、ここで飲んでもらえることは感慨深い。一味違う“個性のある”ビールづくりを続けていきたい」

66歳のクラフトビール職人の挑戦は、まだまだ続きます。

丹羽さんがつくるクラフトビールは、醸造所や公式ホームページで購入することができます。岐阜県瑞浪市の「カマドブリュワリー・ビアバー」は、JR釜戸駅から徒歩3分です。